新・冒険論 16

 

帰ってきた

ここのところ
歌を

聴いてた
工藤冬里の

徘徊老人を聴いてた
海まで走っていった

それから
Thinking”Bout Youも聴いた

きみはいないが
歌は渡る

歌は
鳥のように渡る

そこに
きみがいる

今日

姉に電話した

留萌から帰ってきたと姉は言った
電話の向こうで笑った

 

 

 

片肺の里水を吸う

 

萩原健次郎

 
 


 

片肺の     空がカラ
急勾配の
修行僧の     色の渦
延着の   沈んだ
素足の      味噌
粗暴の        眉間を切る
藍の  鹿肉
空白空白空白空白空白空白空白空白羽根に舐められる

耐える
絶える       修験
堪える

悶える
白む        石仏
消尽する
去る            後髪
棲む
濁る
空白空白空白空白空白空白空白空白泣き止まない

遊星
六芒
荒神
空白空白空白空白空白空白空白空白発火した池

私に、宣告された
猫の燃える、煙。
川面に、貌を落とす。





空白空白空白空白空白空白空白空白全焼

私が、昭和を一息に飲み干して、それを
尿と糞に溶かして、器に打ち捨てることは
泣く女と無関係で
宗教なんぞは、想念の便なのだ。
風景に、討死する人を見よ。
ちり紙交換の車を運転する人を見よ。

紙は、神で。

魔、多、羅、ららっ
斑に生きる、二足の虫。

混ざり
後退り
看取り

天に往ったり、戻ってきたり。

 

 

 

2018年 夏の歌

 

佐々木 眞

 
 

 
 

夏の歌 Ⅰ 「花と蝶」

 

朝、我が家にやってきた一頭のナガサキアゲハが、
いまを盛りと咲き誇る天青の、 ほぼすべての花弁に、
次々に黒い頭を突っ込んで 、
甘い蜜を、存分に吸っていました。
夕べには息絶えた、朝顔の花々は、
どんなにか、うれしかったことでしょう。

 
 

夏の歌 Ⅱ 「挽歌」

 

眩しい真夏の光の下、
滑川の上流で戯れていた鮎たちは、
海の方へ下っていった。

いたどりの葉っぱの上で、
ひねもす交尾していたゴマダラカミキリは、
どこか遠くへ行ってしまった。

阿弥陀山の中腹で、
なにやら怪しげな呪文を呟いていた不如帰は、
行き合いの空で、行方不明になった。

だが、朝夷奈峠の麓には、
まだわずかばかりのセミたちがいて、
去りゆく夏への挽歌をうたっている。

 
 

夏の歌 Ⅲ 「酔芙蓉」

 

むかしあるところに、おじいさんとおばあさんが、仲良く暮らしておりました。

ある朝、おじいさんとおばあさんが障子を開けると、庭に白い花が咲いておりました。

おじいさんが「ばあさんや、きれいな花だねえ。あれはなんという名前かのお」と尋ねると、おばあさんは、「あれかい、あれは芙蓉というんじゃよ」と、花の名前を教えてくれました。

その日の午後のことです。
山の芝刈りから帰ってきたおじいさんが、芙蓉の花を見ると、なんと白かったはずの花の色が紅くなっておりました。

「これはどうしたことじゃ。ばあさん大変だ。あの芙蓉を見てごらん。朝は白かったのに、いまは紅くなっておる」

針を持ったまま縁側に駆けつけたおばあさんも、あまりのことにびっくりです。

「おやおや、まあまあ、不思議な芙蓉だこと」と、二人揃って紅い芙蓉をまじまじと見つめていますと、突然紅い芙蓉のその色が、またしてもポポッと赤らんだではありませんか。

「おい、ばあさん。いまのを見たかい。芙蓉のやつ、おれたちに見つめられたので恥ずかしくなったんだよ」

と、おじいさんがうれしそうにいうと、おばあさんも「ほんにそのようでしたね」と答え、二人で顔を見合わせて「おほほほほ」と笑ったのでした。

いつのまにやら短い夏の日はとっぷりと暮れ、どこかでコオロギが鳴き始めたようです。

 

 

 

遥かなる影

 

今井義行

 
 

詩には、消費期限がある──・・・・
と わたしが 考えたのは

日本の名詩アンソロジーで
飯島耕一作品「他人の空」(1953 年)を読んだとき。

空0鳥たちが帰って来た。
空0地の黒い割れ目をついばんだ。
空0見慣れない屋根の上を
空0上ったり下ったりした。
空0それは途方に暮れているように見えた。

という一連目 わたしは、
自然界の鳥たちを写生した
陰影のある風景の詩歌と 考えたのだ
しかし、解説文があって

戦後詩を代表する心象詩であるとのことだった。

帰って来た「鳥たち」というのは「喪失者」のことらしい
「途方に暮れている」のは
「喪失者」たちのこころであるらしい

第二連をよく読んだのか、と
お叱りのことばを受けてしまうのだろう、か?

空0空は石を食ったように頭をかかえている。
空0物思いにふけっている。
空0もう流れ出すこともなかったので、
空0血は空に
空0他人のようにめぐっている。

ほら、「頭をかかえている」ではないかと
「物思いにふけっている」 ではないかと
それらは いずれも
人々の所作であるでしょう、と。

「血は」「めぐっている」でしょう、と。

そう言われたところで
わたしは 解説文に「はい」とは言えない

昨日の昼間 駅前広場で見た限り
餌を求めて無数の鳩が
ベンチに座ってシナモンロールを食べていた
わたしのまわりで
ぐるぐると
脳の入った頭を振りながら

それらの いきものは、
「頭をかかえている」
状態でもあったし
「物思いにふけっている」
状態でもあった──・・・・
腹を減らしていたんでしょう

詩に解説文なんていらないんじゃないか
文字面どおりに読んでいいんじゃないか
額面どおりさらっとでいいんじゃないか

「他人の空」は、消費期限切れだ。
2018 年 9 月 16 日現在
そうとしか 言いようがない。

もう、隠喩の場合ではない、
詩のそのような影は、遥かなる影だ──・・・・

 

 

 

また旅だより 01

 

尾仲浩二

 
 

息を切らしながら考えていた。どうして山に登っているのだろうと。
頂上までたったの45分と言われ、軽い気持ちで歩きはじめすぐに後悔した。
なんとか引き返す言い訳を考えていたが、だんだん頭が回らなくなって、景色を眺める余裕もなくなった。
石でガラガラの足下ばかりを見ながら、なぜ山に登っているのか、いまさら考えても仕方のないことをぐるぐる考えているだけだった。
モンテローザの雪を眺めながらのビールの味は忘れない。
そうして、どうして山を下るのかは考えるまでもなかった。

Italy Gressoney にて 9月7日

 

 

 

 

「夢は第2の人生である」改め「夢は五臓の疲れである」 第65回

西暦2018年卯月蝶人酔生夢死幾百夜

 

佐々木 眞

 
 

 

オペラ歌手の「大声コンテスト」に応募した私が、天井からぶら下がった、道成寺の鐘の下で、大音声を発すると、さしもの大鐘も、めりめりとひび割れてしまった。4/1

小学館のシマモト選手の案内で、珍しい古本屋や趣味の店を巡り歩いてから、杉並区に入ると、区民会館で杉並映画会のおばはんが、長々しい宣伝を続けているので、老舗の杉並シネクラブのスタッフが、とてもしらけていた。4/1

「せっかくだから、ゆっくりしていきなさい」と、言われるがままに、親戚の家で寛いでいたら、いつのまにか大広間で大伯母の18番の皮田踊りが始まった。能のように悠々と舞っているので、身動きもならず。ましてや逃げ出すこともかなわない。4/2

記者会見で「これから銀行は、銀行以外の機能が必要になる」と見得を切ったアソウは、「例えば」と言うたなり、後が続かず、永遠の長考に沈んだ。4/3

「おえめのようないかさま渡世人は、ここからとっとと出てゆけ。おれの目の黒いうちは、おめえのような極悪もんの勝手はさせねえから、そう思え」と、カタオカ・チエゾウは、凄んだ。4/4

うっかり座席に荷物を置いたまま、バスから降りたが、そこは私が降りるべき駅ではなかった。急いでバスを追いかけて、2駅目でようやく追いついたのだが、どこへ消えたか荷物はどこにもなかった。4/5

眠れないので、脳味噌の中に潜り込んだら、脳天に真っ白なサソリどもが蠢いているので、恐ろしくなった。これは、本当に私の脳なのだろうか?4/6

「田を耕し、己を耕し、世を耕す人となれ」と念じて、私は息子を耕と命名した。4/7

本邦初の南極探検に応募して、晴れて合格した私たちだったが、宿舎で待てど暮らせど、探検船は現れず、私らは、朝な夕なに水平線を見つめて日を送っていた。4/8

バナナボートに乗り込むと、バナナ娘が「デーオ、イデデエオ、イデデイデデイデデーオ、アンミソタリマンタリババナあ」と唄ったので、「そんなバナナ」と驚きつつも、船の中の美味しいバナナを食べ続けた。4/9

巴里滞在中に私が作った切り絵の鳥は、アルジェの展示会で、生きた青い鳥となって会場内をはばたき、やがて玉のように美しい娘となった。4/10

我が家に遊びに来たヒーちゃんは、「ちょっとごめんなさいね」というて、床の下に潜り込み、深い穴を掘って、妙な石を見つけたが、「はい、この悪い石を取り除いたので、もう大丈夫。これからは幸せが舞い込んできますよ」と予言して去っていった。4/11

お偉いサンの接待を仰せつかったのだが、なにをどうやっても気に入ってもらえないので、意気消沈する。いかに多くの人々が、嫌で嫌で仕方のない仕事をしながら生計を立てていることか。それを思うと暗然とする。4/12

いつもの退屈なNHKの定時ニュースの声が突如搔き消えて、「臨時ニュースを申し上げます。私らは、唯今本局を乗っ取った叛旗グループです。これからは公共放送にふさわしい正義の情報だけをお伝えしたいと思います」というアナウンスがあった。4/13

去年の夏、南の無人島に遊びに行ったタカヤマさんは、あれからずっと海水浴を楽しんでいる、という噂を聞いた。うらやましいなあ。4/14

人里離れた深山幽谷の岩窟に居を構えていた老師は、ますます歳をとって力衰え、いまや急速に迫りくる死に瀕していたが、唯一の友人である蝮が棲息する平らな岩の上に横たわって、安らかに眠り続けていた。4/15

モスクワ空港の免税店で、しこたまアルメニア特産のコニャクを買い込んだマッサンは、そいつをガブ飲みしながら、エコノミーの狭い座席で朗々とチェロを奏でるので、乗客は煩くて煩くて一睡もできなかった。4/16

打ち合わせのためにホテルに戻ると、アカシヤサンマがぶるぶる震えている。「このホテルにはかけ流しの温泉があるから、ちょっと体を温めたらどうだ」、と勧めたが、「どうにも気分が悪いからこのまま寝たいんや」といって、眠りこんでしまった。4/17

放射能にまだ汚染されていない人たちは、まだ地下壕に潜んでいたのだが、ある朝、彼らの顔の上を、何千何万というカマキリの子供が、ワッセワッセと歩いていった。4/18

今年のパリコレの話題を独占したのは、ベルギーの新ブランド「ランボオ&ヴェルレーヌ」による「パリ・コンミューンを遠く離れて」をテーマにした、疑似革命的なふぁっちょんであった。4/19

ランボオとヴェルレーヌを主人公にした「パリ・コンミューンを遠く離れて」という小説を書いたフマモトヒコ氏は、ついに念願の芥川賞を受賞したのだが、それを祝うはずの同窓生の多くが幽明境を異にしていた。4/19

「らっしゃあーい、美味しい水だよ。これをスピーカーに注ぐと、抜群にいい音が出るよ!」と、その香具師はペットボトルに入れた怪しい水を売りつけようとするのだが、誰も立ち止まらなかった。4/20

シルヴィー・バルタンのコンサートにやってきたお客さんは、バルタンならぬバルタン星人のような八代亜紀が、いきなり「新宿の女」を歌いだしたので、怒り狂って舞台に殺到した。4/21

コータロー氏を誘って教会まで来たのだが、いつのまにかいなくなってしまった。厳かなバッハの音楽が聞こえてきたので、もしかすると礼拝に参加しているのかもしれない。ナカノ一家もいたが、さてどうしたものか。4/22

ドケチな私は、ケータイの使用料を、なんとか自分のスポンサーに払わせようと、いぢましい苦労を、積み重ねていた。4/23

カマクラの町内会に、お隣のズシの市民が乱入してきて、勝手なことを言い始めたので、町内会長は、どうやってこの場を収集したらいいのか、途方に暮れています。4/25

丑三つ時になると、ほんとうに草木が眠っているのかを確かめるために、私は、時々森の中に入っていった。4/26

「キリノという男について、なにか知っていることはないか?」と駐在から問い合わせがあったので、「蕎麦を手打ちするのが趣味で、バハマの桃色の砂浜でジープを運転する男」と答えると、フーンというて引き上げていった。4/27

地下鉄東西線に乗ったら、2人の男が押しくら饅頭をしていたが、次の駅で乗ってきた男も加わって、3人で楽しそうに押しくら饅頭をしている。4/27

大人になってから、また寺子屋で学びはじめたのだが、読み書き算盤のうち、算盤だけは大の苦手で、昔と同じ12級のままだった。4/28

「○○」の役割は、ほんとうに難しい。半世紀の時間の経過に磨かれて、私はようやくなんとでもできるようになったのだが。4/29

私の長年の病気は、某病院の最新式の治療と手厚い看護のおかげで、ついに完治したのであった。4/30

 

 

 

虫の家

 

道 ケージ

 
 

近頃、虫が通って困るわ
妻が言う
見ると廊下の縁に
極小の虫が這っている

前から言ってたじゃない
初めて聞いた
第一
言葉なんて交わしていない

この子たち
床下に入っていくのよ
はい、と
ムシコロリ

なんちゅう殺虫
頭痛になるから
手でつぶすよ
それじゃ意味ない

厳重なマスクで
虫の行き先を追う
子ども部屋だ
そこには見慣れぬ
大きな黒いカバン

入っちゃダメ!
そんな子の絶叫
腕に食い込む爪が痛い
ファスナーを開ける

強烈な異臭とともに
中から黒い虫が
しゃりしゃりと
這い出す

何だこれは!
床下じゃないじゃないか
あざ笑うように
わかんないの?

あんたが作ったもんよ
這い出し
何を奏でる?

こんなもん作って
笑いもんということ
わかんないかな

なんば作っとうとや
お互い
笑いもんたい

 

 

 

愛のゆくえ

 

今井義行

 
 

I have lost interest in you already.
(わたしは、すでにあなたに対する関心を
失ってしまって いるのですが)

海に連れていってあげられたらよかった

日本の海の 江ノ島の
クリームソーダのように泡立つ波が

あなたの ブラックの肌に
どのように 降りかかるのかを
感じる ために・・・・・・・・・・

I want to live with you in Japan!

あなたは ワタシを もとめていたの?
それとも 二ホンを もとめていたの?

そこのところが 掴めず
わたしは 見逃がしてしまった

シングルマザーのフィリピーナ
あなたの 声音も誓いも 全部

残ったのはブラックの肌の 香りだけ
肌は 月経血の 香りがした

彼女は もう産まないと言った