由良川狂詩曲~連載第26回

第8章 奇跡の日~必殺のラジカセ

 

佐々木 眞

 
 

 

ケンちゃんはしっかりと目をつむり、唇をひきしめて、まっすぐ川底へと沈んでゆきました。
全長2メートルにおよぶ飢えた巨大な魚は、双眼を真紅の欲望に輝かせながら、少年の周囲をきっちり3回旋回すると、1、2、3、4と、ストップウオッチで正確に5つの間隔を置いて、冷酷非情の鋭い牙をむき出しにして、ケンちゃんに躍りかかりました。

―――その時でした。

突如勝ち誇ったアカメたちが、頭を気が狂ったように振り回しながら、もんどりうってあたりをころげ回りました。
そのありさまは、まるで甲本ヒロトが「リンダ、リンダ」を歌っている最中に、胃痙攣の発作を起こして、渋公のステージを端から端までのたうち回ったときのようでした。

狂暴なアカメたちは、完全に理性を失い、全身を襲う激痛に耐えかねて、猛スピードで急上昇したり、かと思うと突然急降下したリして、千畳敷の大広間狭しと悶え苦しんでいましたが、とうとう自分から河底の岩盤に激突して、いかりや長介のように長くしゃくれた下顎を、普通の魚くらいの適正な長さに修整するという仕事を、この世の最後に成し遂げると、いきなり下腹を上にしてニヤリと笑ってから、次々に赤い2つの眼を自分で閉じてあの世へ行ってしまいました。

「ケンちゃーん、ケンちゃーん、ダイジョウブ? ぼくだよ。ボクですよお!」
その声にふと我に帰ったケンちゃんが、声のする方に向って、そお―と眼をひらくと、いきなりギラギラと輝く午後3時半の太陽が、まともに頭上から落ちてきて、ケンちゃんは反射的に眼を閉じました。

眼の痛みが少しとれてから、もう一度そろそろと瞼を動かすと、相変わらず強烈な太陽光線を背に、一人の少年が、ラジカセを持って立っているのが分かりました。
少年は、もう一度やさきく声をかけました。
「ケンちゃん、無理しなくていいから、そのまま寝てな。コウ君だよ。ケンちゃんのお兄ちゃんのコウだよ」
「ど、ど、どうしたの、コウちゃん?」
「コウちゃんじゃなくて、コウ君」
「ご、ごめん。コウくん。どうしてここにいるの? どうしてここまでやって来たの?」
「もちろん、ケンちゃんを助けるためだよ」
「で、でも、どうやって?」
「実はね、昨日の晩、お父さんがニューヨークから突然帰ってきたんだ。
お父さんはケンちゃんが一人で綾部へ行っているって話を聞いて、とても心配してね、昨夜ケンちゃんが寝てしまった後で綾部に電話しておじいちゃんからいろいろ取材したんだ。由良川の魚の話とか漁網の話とかいろいろね……。
それでおよそのことは分かったんだけど、どうもひっかかることがあるから、「おいコウ、お前ちょいとひとっ走り綾部まで行ってケンを助けてこい」、って、そういう話になったんだ」
「なーーんだ、そうだったのかあ。それにしても何カ月も行方不明のお父さんだったくせに、ぼくなんかよりお父さんの方がよっぽど心配だよ」
「お父さんの話はあとでゆっくり聞かせてあげるよ。それよりケン、顔じゅう血だらけだぜ。大丈夫かい? 一人で立てるかい?」
「ありがとう。もうダイジョウブ。それよりお兄ちゃん、どうして、どんな風にしてぼくを助けてくれたの?」
「うん、昨夜12時40分品川駅前発の京急深夜バスに乗り込んでね、ケンちゃんが由良川に出かけた直後に「てらこ」に着いたその足で、ここへやってきてね、それからずーっとケンちゃんのやることを見ていたんだ。
もしもヤバそうになったらなにか手伝おうと思って、スタンバッていたわけ」
「そうだったのかあ。ちっとも知らなかった。おじいちゃんもなにも教えてくれないし」
「突然行って驚かせるつもりだから、なにも言わないで、って口止めしてあったのさ。それよりケンちゃんがアカメに襲われたときは、本当にどうなることかと思ったよ」
「ぼく、アカメの尾っぽでぶんなぐられたでしょ。そのとき、こりゃあヤバイなあ、って思ったんだけど、それから先のことは、なにも覚えていないの。お兄ちゃん、どうやってぼくを救ってくれたの?」
「これだよ、これ。このラジカセが役立ってくれたのさ」
「えっ、なに? ラジカセでアカメを殴り殺しちゃったの?」
「バカだなあ、そんなことできるわけないだろう。
実はね、この前、学校の遠足で江ノ電に乗って江ノ島水族館に行ったとき、たまたまこのラジカセを持って行ったの。このラジカセ、録音もできるだろ。それでね、電車に乗る前、友達の声とか、駅の物音とか、それから踏切の信号の音とかを回しっぱなしで録音したテープに、イルカショーの現場音もついでに録音しようとしたんだけど、間違えて録画ボタンじゃなくて再生ボタンを押しちゃったの」
「へええ、そうなんだ」
「そしたら、会場全体に小田急の踏切のカンカンカンという警告音が鳴り響いたもんだから、あわてて止めようとしたんだけど、突然イルカが、餌をあげるおねえさんの言うことをまったく聞かなくなって、全部のイルカが狂ったようにジャンプしたり、プールサイドを転がりまわったりして、どうにもこうにも収拾がつかなくなってしまったの」
「へええ。びっくり。でも、いったいどうして?」
「しばらくはぼくも焦りまくったんだけど、ようやくラジカセのストッップボタンを押した途端、まるで嘘のようにイルカたちは平静を取り戻して、急に大人しくなってしまったの」
「へえええ、不思議、不思議」
「水族館には部厚いガラスに遮られていない水槽もあって、そこにタイとかヒラメとかカツオとかが泳いでいたので、上からラジカセの音を流してみたら、魚たちがみんなパニックになったみたいに、跳んだり跳ねたりして悶え苦しむんだ」
「へえええええ、そんなバナナ」
「それでいろいろな音源を再生して、魚の様子をよーく観察してみると、江ノ電の踏切が鳴るあのカンカンカンという信号音が、魚たちにダメージを与えていることが分かったんだ。三蔵法師が孫悟空の乱暴を止めさせようとするときに、「金・緊・禁」と3つの呪文を唱えた途端、孫悟空の頭を、輪が締め付けるだろ。カンカンカンは、魚たちにとってはちょうどあの呪文みたいなものなんだ」
「へええ、お兄ちゃん、凄いじゃん。それって必殺の秘密兵器じゃん」
「まあね。それで家に帰ってから、いろいろ調べてみたんだ。江ノ電は小田急電鉄の電車なんだけど、江ノ電に限らず小田急の踏切の信号は、嬰へ長調で鳴っているんだね。ほとんどのメーカーの蛍光灯が、いつも低いロ長調の音を、ツバメの鳴き声のようにジジジと発しているように」
「嬰へ長調!? オンガクの話」
「まあ聞け、弟よ。そして、そのロ長調の、ジーーと鳴る蛍光灯の音が、帝国ホテルに泊まる耳に敏感な音楽家の神経を傷つけているように、嬰へ長調で規則正しくカンカンと鳴り続ける金属音が、タイとかヒラメとかカツオとか、フナとかコイとかナマズとか、フグやアイナメやオコゼやリュウグウウノツカイなどに激烈な痛みを与えているみたいなんだ」「アカメは?」
「もちろん、バッチリさ。ただし信号音といっても小田急だけ。横須賀線の踏切はみんなイ短調で、こいつは魚にはてんで効き目なしなんだ」
「ふーん、そうなんだ」
「それが分かったんで、お兄ちゃんは綾部に向う前の晩に、江ノ電のあかずの踏切の前で、嬰へ長調のカンカンカンの音を死ぬほど録音しておいて、こいつがなにか役にたつこともあるかなあと思って、ラジカセにセットしたままここに持ってきたってわけ。それがケンちゃんのピンチにあんなに役立つとは夢にも思わなかったよ。アカメときたら超意気地なしで、もう一発でノックアウトだたからね」
「へーえ、そうだったの。必殺メロディ電撃光線だね。びっくり! でもコウちゃんのお陰でぼくは命拾いできたんだ。お兄ちゃん、本当にありがとうございました」
「いいってことよ。ぼくたち兄弟じゃないか。困った時はお互いさまさ。長い人生、これからも助け合っていこうぜ!」
「うん!」
「さあ、そろそろ堤防に上がろうか。もうすっかり陽も落ちたね。きっとみんな心配してるぞ。早く帰ろうよ」

 
 

つづく

 

 

 

新・冒険論 13

 

高速バスで

姉の
家に帰った

線香を二本たてた

義兄と
母と

お盆には帰っているのだろう

昨日は
姉に矢島まで車で送って貰った

由利高原鉄道で羽後本荘に降りて

酒田
新庄とまわって湯沢に帰ってきた

車窓から平らな海を見た
林の向こうに山々を見た

そこにいた
そこにいる

 

 

 

丸い家

 

道 ケージ

 
 

大きな球体の家
黒い板を何枚も貼り合わせ
うまい具合の大球だ
やや上部に小さな窓がある

朝日が窓に光り
板壁は複雑な反射をして
美しい
道の果てに気球のよう

それが今日は違う
銀のネックレスのように
窓から
人が吊り下がっている

艶消しの黒に
鎖が光り
へいせいの
時間が止まる

*  *  *

それより
どうやっておろすんだ

「ねぇ」
尻を突き出した女が
下から誘う
唇がかわいい

あれ どうすんだ
「ほっときなさいよ
関係ないんだからさ」

誰か気づいてんのかな
「そのうちね
いいのよこここじゃ
みんな知らんぷりよ」

降ろさないと
「あんた行くの?」
まずは梯子を買い
面倒な手続きが必要だ

「早く」

この部屋もそういえば
丸く湾曲している天井
べッド脇に
鎖がとぐろを巻く

黒い縁取りの
小さな窓枠に
鎖掛けの
フック

この平原には
いくつもの大玉が
あるのだった

順序通りにはいかない
もう
とうに来ているのに

 

 

 

新・冒険論 12

 

売れないですね
といった

着想もなく

生を
受けて

この世を生きてきた

わたしではなく
あなたでもない

夕方
モコと散歩した

着想はなかった

生に
着想はないだろう

売らない

この生を
売るわけではない

広告ではない
きみに囁く

いないきみに囁く
いないきみに無い声で囁く

 

 

 

「夢は第2の人生である」改め「夢は五臓の疲れである」 第64回

西暦2018年弥生蝶人酔生夢死幾百夜

 

佐々木 眞

 
 

 

夜中の3時45分に、どこかから電話がかかってきたが、それはいつもの非通知電話で、「モシモシ」というても、先方は一言も発しない。3/1

私は、地下室で集団生活をしていたが、そこでは、某有名スポーツマンの日常が、隠しカメラで撮影され、朝から晩まで放映されているのだった。3/2

我々のさまざまな問いかけに対して、スフィンクスは何も答えず、その代わりに、ベート-ヴェンの交響曲第7番の第2楽章を、記者会見の現場に垂れ流すのみだ。3/2

その夜も、僕は級友のカド君とソウちゃんが運転するスバルに乗って、雪谷の長いS字坂で、クラス一の美女マリちゃんが通りかかるのを待っていた。やがてやってきたマリちゃんが、坂の途中にある電話ボックスでずれたガーターを直すのを、僕らは眼を皿のやうにして見つめた。3/3

やがて電話ボックスを出たマリちゃんだったが、あまりにも真夏の太陽がカッカと照りつけるので、道の真ん中でぐらりとよろめいたところを、すかさず車から飛び出した僕が、咄嗟に抱きとめると、彼女は、あわいコーヒーブラウン色の唇をかすかに開いたので、思わず僕は3/3

神の召使が「輝く鳥の夢を見た」というので、みんなでその夢のタイトルを決めようと、召使の夢の中に入って、同じ夢を見てから考えるのだが、燃える鳥とか、黄色い鳥とか、光る鳥とかの候補が乱立して、なかなか決まらない。3/4

海の底に潜っていくと、今まで見たこともないような奇麗な貝がたくさん棲息していたので、どんどん取って陸に上がると、「これは原発で汚染されてる」と誰かが警告したのだが、委細構わず私は、どんどん食べていった。3/5

「ダットサンなんかで、高速を走らないでください。もっとちゃんとした車でないと、危ないですよ」と警備員から注意されたが、委細構わず、私は猛スピードでつっぱしった。3/5

「物品に記された日本語を、10字以内に減らさないと、入国できない」というので、私は、必死になって持ち物を荒探ししていた。3/6

町に出ると、アンサンブル・カビア社の特製スーツが当たる抽選会をやっていた。
「誰でも参加できます。あなたもいかがですか?」と誘われたので、ハンドルをグルグル回すと、「あ、当選ですね」と、担当の女性が言うた。3/7

フランス料理の食後に、近くのコーヒー焙煎屋に入って200gの豆を挽いてもらったのだが、その主人の、とても商売人とは思えぬ不機嫌さに、私はいたく不愉快になった。3/8

タダさんは、真夜中に私を乗せた車を駆って、全速力で工事中の狭隘な道を通りぬけると、「どうだい、怖かったかい」と尋ねたので、私は「いや、ちっとも」と答えた。3/9

六畳一間の安アパートで下宿していた我々3人は、今日は検便の日だというので、ウンチをマッチ箱に取ろうと、思い思いにしゃがんでいたら、隣の部屋に住むヤクザの新三が、「なんでウンウン言うとるの?」と覗き込んだので、叩きだしてやった。3/10

ヤフオクで、運よく打ち出の小槌を手に入れたので、おらっちは、次々に美女を打ち出しては、夜な夜なナニしていたのだが、とうとう精根尽きはてて、くたばってしまった。3/11

こんな東南アジアの海岸で、大宴会になってしまって、予算なんかないのに、大丈夫なのか? 大広間では、海蛇たちが夢中で「猫じゃ猫じゃ」を踊っているので、会計責任者の私は、逃げ出したくなった。3/12

音楽のことなどまったくの無知なのに、その名前の語感がいたく気に入って、パレストリーナの音楽についての論文をでっちあげたら、全世界のパレストリーナ・ファンから拍手喝采を浴びてしまったので、ひどく当惑しているわたし。3/13

彼の、いつもと変わらぬ献身を、目の当たりにした時、初めてあたしは、これまで若頭の銀次郎に冷たくしてきたことを、心の底から後悔した。3/14

サトウさんとスズキシロウヤス氏を訪ねた時、私が「ともかく実直に」と言うと、シロウヤス氏が「ジッチョクですか?」と、微かに頬笑みながら反問されたので、私は思わず顔を赤らめて、「実直に、実直に生きよう、グララアガア」と唄って、誤魔化してしまった。3/15

怒り狂って刀を振り回し、まるで気違いのように、見境いなしにまわりの人々を切りつけている男の顔をよく見ると、どうやらほかならぬ私だったので、驚いた。3/16

こないだから、愛犬ムクが、行方不明になっている。その行方は、杳として知れないが、ムクは、とっくの昔に死んでしまっているので、私らは、ちっとも心配していない。317

「平安の昔から、京の土地は京の人のものなのに、お前のような、どこの誰だか誰も知らないような馬の骨に、この大事な土地を渡すものか」と宣告された。3/18

「肥ったブタより、むしろ痩せたソクラテスであるべきだ」と私が力説すると、目の前のブタブタ女が、怒りの眼を私に向けた。3/19

京都駅に着くまでに、例によってあちこち彷徨っていたので、とうとう新幹線に乗り遅れてしまった。さまようというても、四條通りの近辺を、楕円状にぐるぐる回っていただけなのだが。3/20

長いあいだ訪れたことがない遠隔地の別荘に行ったら、あらゆる水道の蛇口から、水が垂れ流しになっていて、1階は天井まで水没していた。3/21

京でいつも泊まっている町屋の5つの部屋が、ことごどく解体されることになったので、私は「帝国」と「共和国」という名の2つの部屋に、一晩ずつ泊まって別れを惜しんだ。3/21

王は、「もしお前が、そやつを、悪しき者と思わば、その首を撥ねよ。もしそやつが、悪しき者にあらざれば、余が、そなたの首を撥ねるべし」とのたまわったので、私は戦慄した。3/22

怒り狂った民衆が、全員武装して、私の首を求めて「首を獲るぞお! 首を獲るぞお!」と連呼しながら、王宮に押し寄せてきたので、私は生きた心地がしなかった。3/23

トランプと話していると、時々右手でケータイのスイッチを押すので、「何をしているの?」と尋ねると、「これを押すたびに、敵の胴体に仕掛けた爆弾が炸裂する。つまり人間爆弾さ」と、楽しそうに自慢した。3/25

「お送り頂いた小切手は、署名がないので無効です。それにこの請求については、さるお方がすでに受け取られていますので、当方としては、もう終わった話なんです」と銀行の窓口で言われた私は、大いに面喰った。3/26

私は、世界4大テナーの一人として、世界中を何度も公演していたが、ある日のコンサートが終わったあとで、「モンローそっくりの美女が、楽屋に訪ねてきているよ」と、マネージャーのコウヘイ君が教えてくれた。3/27

今日は、この島に別れを告げる日なのだが、着いたその日にロッカーに入れたジャケットが見当たらないので、島人に聞くと、「このロッカーは共有なので、私物を入れると、誰かが持っていってしまう」という。3/28

マニラ空港で、正体不明のスナイパーから、突然銃弾を雨あられと喰らった私は、九死に一生を得て逃げ帰ったあと、その折りの恐ろしい体験を切り売りしながら、わずかな講演料で、かつかつの生計を立てていた。3/30

「600人のオメコを受け入れても、全然満足しないワチキのオマンコって、いったいどうなっているんでしょう?」と、彼女は悲しそうな顔をしながら、つぶやいた。3/31

 

 

 

虚構について

 

長尾高弘

 
 

世界のなかのできごとは
決して反復せず、
同じことが繰り返されたように見えても、
それは細かい差異を無視したから同じに見えただけなのに、
できごとを表す言葉は、
まったく同じ形で反復することができる。
寸分たがわず同じ言葉が、
何度でも出現できる。
無視された細部は、
無視されるに値する
取るに足らないものだから、
無視しても構わないと言っても
いいのかもしれない。
差異は瞬間的に無視され、
というか気付かれず、
消えていってしまう。
私たちに残されたのは、
何度でも反復できる言葉だけだ。
私たちは世界で直接考えることはできず、
反復可能な言葉でしか考えられない。
ときには意識される差異さえ無視して、
異なるものを強引に同じだと言うことによって、
何かがわかったような気になる。
いや、そうしなければわかったような気になれない。
そのような言葉が、
現実にある世界とは別の
虚であり実でもある世界を作り出してしまうのは、
当然なのかもしれない。

 

 

 

あなたはだれ?

 

駿河昌樹

 
 

みんな
なにものかであろうと
見せようとして
かわいそう

みんな
なにものかであるかに
信じ込もうとして
かわいそう

だれひとり
かたちのない
思いも
こころも
ことばもない
あそこへ戻っていくとき
残りはしない
これっぽっちも
やり遂げた
などと
信じようとする
ごたごたの
ものの世界の
がらくたの
片鱗
さえも

かたちでもない
思いでもない
こころでもない
ことばでもない
信でもない
ものしか残らない

もちろん
もの
でなど
ないもの

その時
あなたはだれ?
あなたはなに?

あなたはだれ?

かたちもない
思いも
こころも
ことばもない
信もない
その時