michio sato について

つり人です。 休みの日にはひとりで海にボートで浮かんでいます。 魚はたまに釣れますが、 糸を垂らしているのはもっとわけのわからないものを探しているのです。 ほぼ毎日、さとう三千魚の詩と毎月15日にゲストの作品を掲載します。

眠り休む秋の先に

 

ヒヨコブタ

 
 

今年の秋の銀杏は
まぶしくさみしくて目をそらした
息苦しさを感じる理由
悲しみの理由それぞれつかみ過ごしながら
どうしたものかと

もっと若かったときの話をするとき
思い出のなかの喜びを話しながら
性急な絶望を思い出す
あれほどのことは今はない
時間に限りがあるとよくよく感じる日々に
安心できぬままでも休むことを選ぶ

ああクリスマスだねと
心踊らないのは悲しいほうの思い出と現実か
それでも
わたしのこころの方向は
楽しみにしたいと
それを選びたいと願っているんだ
みもふたもないことばより
温もりを思い描けたならと
いつまでもすべてが続かないと知っている
善いことも悪いことも
それだけが眩しすぎぬ色づきなのか

 

 

 

ケモノの道理

 

辻 和人

 
 

憎悪の顔だ
憎悪の声だ

シャーッ

吹っ飛ぶ
吹っ飛ぶ
熱いぞ

シャーッ

レドが3日間の検査入院から帰ってくるのでお迎えに行く
キャリーからそろーりそろーり這い出たレド
ピョタッ、ピョコタ、歩き出す
冷蔵庫の上で半身を起こしたファミ
するするっと降りてきた
再会の挨拶でもするかと思ったら
シャーッ
おおっ、何て怖い顔だ
憎悪
憎悪
おっきく開いた口から牙剥き出し
逆八の字の目は刺さってくる程鋭い

吹っ飛ぶ
吹っ飛ぶ
熱いぞ

あーあー
たった3日離れてただけなのに

目をシパシパさせたレド
そろーりそろーり後ずさりしながら方向転換
日陰の椅子の上にちょこん
頭を伏せ丸まった
かっと睨みつけたファミ
しかしそれ以上追いかけることはしない
タタタッと冷蔵庫の上に昇る
お昼寝の続きだ
ふぅー
ひとまず平和は戻ったよ

実はさ
レドが初めてこの家に来た時もファミは威嚇したんだよ
こんなもんじゃなかった
ファミは執拗にレドを追いかけ回した
どこまでもどこまでも
それ、壺の後ろ
シャーッ
それ、掛け軸の裏
シャーッ
それ、ピアノの上
ヒゲが針金みたいに伸びきって
真っ白な牙と真っ赤な舌が開ききって
鋭い爪が尖りきって
シャーッ
憎悪の顔
憎悪の顔
怯え切ったレド
さささっ
さささっ
背中をつぼめ、だけど手足をしならせて
次の逃げ場所
またその次の逃げ場所
それでもファミは決して許さない
とうとう玄関の床の狭ぁーい隙間に籠城してしまったよ
対面大失敗
仲良くさせるのをあきらめて
ファミを居間に移し
夜中になってようやく出てきたレドを2階の小部屋に住まわせて
2カ月かけて馴れさせたんだ
ふぅー

元々ファミとレドは兄弟
祐天寺のアパートでかまってた頃は毎日一緒に遊んでた
でもレドがこの家にやって来たのはファミの半年後
この家はすっかりファミのものになってて
毎日隅から隅までパトロール
でもって
レドのことはすっかり忘れ果てて
見知らぬ白い奴が縄張りに侵入してきたって
思ったんだろうね
2カ月の間にレドはファミの耳の後ろを舐め舐めして
ご機嫌を取ることを覚えた
まあ、居させてやってもいいか
但し私の方が上
先に来たんだから
時々、擦れ違いざまに鼻づらを猫パンチされても
レドは悲しそうに縮こまるだけで抵抗しない
かくして
ファミとレドは並んで日向ぼっこするほどにもなった
なのに、たった3日

憎悪の顔だ
憎悪の声だ

シャーッ

吹っ飛ぶ
吹っ飛ぶ
熱いぞ

シャーッ

ああ、ファミ
お前はやっぱりケモノなんだね
チクショウなんだね
怪我した仲間が帰ってきたっていうのに
自分の方が上、自分の方が先に来た、この家は自分のもの
侵入してきた奴は
シャーッ
憎悪の顔だ
憎悪の声だ
服従させなきゃ気が済まない
同情なんてどうでもいい
心配なんてどうでもいい
熱く、熱く
吹っ飛ばしてやる

それでも今日のレドは
怖そうな表情こそするけれど
かつてのように隙間に籠ったりはしない
椅子の上で次第にリラックス
毛づくろいしてノビをして
後足に頭を乗っけてうつらうつら
やっぱり家はいいねえ
病院とは違うねえ
知ってる椅子っていいねえ
飼い主さんがいるっていいねえ
ファミちゃんだって、気が立ってるけど
まあ、いいねえ、いいねえ
ファミも昔みたいに追い回すってことまではしない
自分の方がエラいんだっわかってくれたみたいだし
許してやるか
冷蔵庫の上で、時々細目を開けては
椅子の上のレドを見やって
また目をつむる

たった3日間
されど3日間

2匹の権力関係を確認するのに役立った
ファミは許した
レドは受け入れた
憎悪の顔、憎悪の声は
だんだん遠くなっていく
さあて、もうお昼だしそろそろご飯の準備でもするか
猫缶は2匹平等に盛ってやろう
まだ仲良くってところまでいかないかもしれないけど
とりあえず並んで食欲を満たそうよ
とりあえず互いの匂いを嗅ぎ合おうよ
ケモノって、チクショウって
難しいねえ

 

 

 

Autumn 2018

 

狩野雅之

 
 


Autumn 2018  01
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FUJIFILM X-E3, FUJINON XF18-55mm F2.8-4 R LM OIS

 


Autumn 2018  02
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FUJIFILM X-E3, FUJINON XF18-55mm F2.8-4 R LM OIS

 


Autumn 2018  03
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FUJIFILM X-E3, FUJINON XF18-55mm F2.8-4 R LM OIS

 


Autumn 2018  04
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FUJIFILM X-E3, FUJINON XF18-55mm F2.8-4 R LM OIS

 


Autumn 2018  05
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FUJIFILM X-E3, FUJINON XF18-55mm F2.8-4 R LM OIS

 


Autumn 2018  06
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FUJIFILM X-E3, FUJINON XF18-55mm F2.8-4 R LM OIS

 

 

 

WE NEED THE GUITAR

 

神坏弥生

 
 

風が吹いている
鳥が鳴いている
右の掌を空に上げたなら
人差し指を立てて
指のアンテナで音波を掴む
僕たちが話しやすくするために
僕たちは、メロディを要する
我々に、ギターが必要だ
我々に、ギターが必要だ
我々が、ギターを弾いて
謳うように、話し
話すように謳い
時に黙るために、風が渡ってゆく
大地に、根を生やした樹々が
風によって枝を揺らし
木の葉たちの、しばしのざわめき
我々にギターが必要だ
我々にギターが必要だ
我々に音楽が必要だ
我々に音楽が必要だ
(願わくば、どうか我々に)LILICPOESYの星を

我々に歌が必要だ
まだまだ、まだまだギターが必要だ
まだまだ、まだまだ歌が必要だ
言葉をかき鳴らし、言葉をはじいて
大地を打ちつけるつもりでドラムを打ちながら
歩いてゆこう

言葉を空に放つつもりで、
空に映る初めの星の声を聴こうと
夜、夜空に、耳を傾けながら

Liycby yayoi kamituki

 

 

 

閃光

 

神坏弥生

 
 

閃光は外側からやって来る
照りつけた 昼間の日光
切り付けた ナイフの反射のように
暗い私の体の中へ
閃光がひらめき
体内から
どくどくと流れ
体の涙みたく
血液の海
君は死に切れないまま
君が捨てた
君を知る
友人が涙を流し
天がそれを許した時
雨が降るかもしれない
明日、天気になるといい

 

 

 

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由良川狂詩曲~連載第28回(最終回)

第8章 奇跡の日~いつかどこかで

 

佐々木 眞

 
 

 

――あっ、あれは、もしかして、Qちゃん? ほんとうにQちゃんなのかい?
ああ、、こんなに疲れきってボロボロになっちゃって……
Qちゃん、君はそれにしてもよく無事でこんなに早く故郷に戻ってこれたね。

ケンちゃんは、思いもかけない再会の驚きと感激で、頭の中がまっしろです。

Qちゃんは、朝の光を受けてキラキラと輝く由良川の清流の中を、軽やかな身のこなしで、ぐるぐると2回転半。あざやかなストップモーションを決めると、相変わらずアシカに似た賢そうな頭をクルリとひと振りしてから、上目づかいに見上げながらケンちゃんに向ってニッコリと微笑みかけました。

「ケンちゃん、お久しぶりです。お元気でしたか? ぼくも元気です。旧型の山手線はいまごろどこを走っているんでしょう? もうお払い箱になっちゃったのかしら?」
「山手線の旧型だって? お前は魚のくせに、JRに乗って、綾部まで帰ってきたのかい?」
「ぼくは、無事に帰ってきました。だけど、うぐいす色の山手線は、いまごろどこを走っているんでしょう? 南武線かな? それとも常磐線かな?」

すると、いつのまにか傍にいたオオウナギが、あわてたようにいいました。

「ケンちゃん、Q太はさかまく嵐の海を必死に泳ぎぬいて、たったいまなつかしい故郷へたどりついたばっかりなんじゃ。あんまり難儀な目にあいすぎて、ちょっとばかり頭が変になっとるようじゃ。そのうちに元に戻るさかい、あんまり心配せんでもええよ。
それより皆さんおまちかねじゃ。ほれQ太、これでお世話になったケンちゃんともお別れになるんじゃが、記念になんか一曲歌ってくれんかなあ」

Qちゃんはこっくりうなづくと、長老の頼みに応えて、持前の透きとおったボーイソプラノで、朗々と歌いはじめました。

♫君が愛せし綾部笠
落ちにけり 落ちにけり
由良川に 川中に
それを求むと尋ぬとせし程に
明けにけり 明けにけり
さらさら さやけの夏の夜は

♫心の澄むものは
霞花園 夜半の月
秋の野辺
上下も分かぬは 恋の道
岩間を漏り来る 由良の水

♫常に恋するは
空には織女流星
野辺には山鳥 秋は鹿
流の君達 冬は鴛鴦

♫舞へ舞へ 蝸牛
舞はむものならば
馬の子や 牛の子に
蹴させんとて 踏破せてん
眞に美しく舞うたらば
華の園まで遊ばせん

「華の園まで遊ばせん、華の園まで遊ばせん」、と二度まで繰り返して見事に謡いおさめ、Qちゃんはくるくると2回首をまわしてから、こう顔を七三に上手に方にひねって、ぴたりとみえを切りますと、井堰の舞台奥にズ、ズイと控えし由良川の魚ども、こぞって胸ビレ、背ビレ、尾ビレを総動員。綾部盆地を揺るがすような三三七拍子は、いつ果てるともなく山川草木の上に響き渡ったのでした。

そんなQ太の立派な晴れ姿をみつめながら、「ウナギにしては小さ過ぎ、ヤツメにしては目がふたつ、ほんにお前はドジョウみたい。変なやつ。でも、好き!」
とケンちゃんは、心の中でなんども思い思い、Q太へのつよい愛情が胸の奥いっぱいに広がるのを感じました。

「Q太よ、Q太よ。早く良くなっておくれ。ぼくの兄貴のコウ君だって、いっけん天才児に見えるけど、じつは生まれたときから脳のどこかをやられているんだ。でも今回は得意技を生かして、ここ一番というところでぼくの窮地を救ってくれた。だからQ太も頑張ってくれ。頑張ってなんて古くさい言葉だけど、いまはそれしか言えない。どうか頑張って!」

言葉にはせず、そう口の中でつぶやいてみただけで、ケンちゃんの大きな瞳は、みるみる熱いもので覆われてしまうのでした。

「さあ、これでぼくらの仕事は、ぜんぶ終わった。Q太くん! それから愛する由良川のすべての魚の諸君! いつまでも元気に、仲良く暮らしておくれ!」
とケンちゃんは、らあらあ泣きながら、由良川全部に向って叫びました。

「ではケンちゃんとコウさん。オラッチはもう年寄りでっさかい、ここいらで失礼させてもらいまっせ」
とオオウナギは、そばかすだらけの分厚い腰をペコリと一折折ってから、ニヤリと笑い、病み上がりのQ太をうながし、抱きかかえるようにして井堰の向うの川の深みへと消えてゆきました。

そのオオウナギの、そばかすだらけの横顔に浮かんだ、実に奇妙な笑いをみた瞬間、ケンちゃんの脳裏に、かすかな不安がよぎりました。

――西限と南限は東アフリカのナタール、東限は北部は小笠原諸島、南部はマルケサス島。日本の分布は黒潮が接岸する鹿児島県から房総半島南端にいたる沿岸と長崎県のみ、とされているオオウナギが、なんで丹波の内陸を流れる由良川にいるんだろう?

オオウナギの小型のやつは海の浅瀬の底にいるけれど、大型のは河川の淵の洞窟のなかに潜んでいると、確か魚の図鑑に書いてあったっけ。きゃつらの餌は小魚、エビ、カニ類で………
もしかしたら、ああ、もしかしたら、あいつらも、ライギョやアカメの同類項なのかも知れない!

「Qちゃん、Qちゃん、ちょっと待て! 待つんだ!」
と、ケンちゃんは大声で叫びました。

二度にわたって海を渡り、列島を大回遊し、奇跡の生還をなしとげた小さな友達に向って、声を限りに呼びかけました。
しかしいくらケンちゃんが目を凝らして、由良川の水面から遠くを見透かしても、もう魚たちの姿は、メダカ一匹見えません。

ただサラサラ、サラサラと規則正しい波音を立てて、由良川は上流から流れ、下流に向って、いっさんに流れ去っていくばかりでした。

正午。
太陽は、いままさに、ケンちゃんとコウちゃんの頭上に静止し、燃えるような強い光線を、垂直に注ぎこみました。

ちょうどその時、市役所のサイレンが喨々と、かつまた寥々と、鳴り響きました。

サイレンは五月のそよ風に乗って、由良川の川面を渡り、てらこ履物店の上空を過ぎ、やがて寺山のてっぺんのところで、ハタハタとはためく日章旗としばらく戯れたあと、綾部市の旧市街地にちらりと一瞥をくれ、青空の彼方へと静かに消えてゆきました。

 

 

 

 

○引用&参考文献
佐佐木信綱校訂 新訂「梁塵秘抄」(岩波文庫)
中村守純「原色淡水魚類検索図鑑」(北隆館)
阿部宗明「原色魚類検索図鑑」(北隆館)
村松剛「帝王御醍醐」(中公文庫)
綾部市役所編「市勢要覧」
浅野建二校注「山家鳥虫歌」(岩波文庫)
浅野建二校注「人国記・新人国記」(岩波文庫)
磯貝勇「丹波の話」(東書房)
神奈川県鎌倉市立大船中学特殊学級歌・小林美和子作詞「八組の歌」

○初稿 1991年5月19日~9月26日 改稿 2018年11月8日

 

 

 

ねむの、若くて切実な歌声

 

村岡由梨

 
 

このところ、娘のねむとの会話がぎこちない。
今、中学二年生。思春期真っ只中だ。

今日も、ねむは
教科書やノートがぎゅうぎゅうに入ったリュックを背負って
片道1kmの学校への道のりを
ただひたすら黙って歩いていく。

ある晩のこと。
ねむが、「明日学校で歌のテストがあるから」と言って
練習をした歌を、私に聴かせてくれた。
最初は、はにかみながら
途中吹っ切れたように、

ねむが、まっすぐ前を見据える。
歌声が、大きくなる。

みずみずしい音の果実を
一つ一つ確かめるように掴んで、もぎ取るみたいに
ひたむきで、透き通るような歌声

私はふと、
「眠」という名前をつける時に心の中で思い描いたような
しん と静かな森の奥の湖を思い出した。
深い孤独な青の湖にこだまする、若くて切実な歌声

ねむは、私のリクエストに応えて、
課題曲の他にも「君をのせて」や「カントリーロード」を
次々と歌ってくれた。

そばにいた夫が、
「大きくなったなあ」
と言ってメガネを外して、目を拭っていた。

私は、冗談で
「野々歩さん、結婚式では大泣きしちゃうかもね」
と言いそうになったけれど、
なぜか、言えなかった。