病院から帰って

 

花粉症かな
くしゃみが止まらず

病院に行った

やっと

帰ってきた
薬を沢山くれた

尿と
血液の検査もした

肝臓の値が上がり
尿酸の値が上がり
中性脂肪の値が上がっていた

きっと

なにかは
下がっているのだろう

帰ったら
大崎紀夫さんの本が届いていた

句集 ふな釣り

十年ほど前は
大崎さんの釣りの本を読んだ

大崎さんの釣りの本が
好きだった

ヒトが小さくて
景色がきれいだった

あの頃は
小舟を車に積んだ

ひとり
海に浮かんで糸を垂らしていた

ずいぶん
釣りをしていない

海辺の町にいるから
海をみている

いつも

モコと
海をみにいく

風を肌で感じる

波がよせて
水面の波紋が揺れるのをみている

ずっと
みている

それだけなんだけどね

 

 

 

明るい絵

 

昼まえに家を出て
昨日は

川沿いの道を歩いて駅にでた

電車に乗り
電車を降りた

それからバスに乗り皇居わきを通り
東京駅に着いた

それで
新宿でミリキタニの絵をみた

ミリキタニの写った
写真もみた

アメリカで日本人は収容所に入れられたのだったろう
母の故郷の広島は

焼かれたのだったろう

それで市民権をうしない
アメリカをさまよい生きたのだったろう

絵には
ずっと

痛みがあった
それは

底に
沈んで

猫や魚や

鯉が

明るい色で描かれていた

晩年に
絵は

よろこびだったろう

もいちど
写真の顔をみていた

ミリキタニはなにも言わない

ただ
こちらを

見ている

 

 

 

雨の朝に

 

夜から

降ってた

雨は
今朝も降っている

家人は出かけていった

台所で
皿を洗っていて

ふと
てみちゃんのことを思いだした

てみちゃんは
いとこのおねえさんで

ゆっくりと
話す女の子だった

ああ
こんなゆっくり

はなしていいんだ

こんなにゆっくりはなしても
生きているんだ

子どものわたしは

そう
思った

昨日は
家人と相撲を見にいった

裸のお相撲さんたちが土俵で
ぶつかっては

土俵の外に
投げだされてた

裸でぶつかって
負けたり勝ったりしていた

たまに笑わせていた

帰りは相撲の絵の座布団を抱えて
駅まで歩いた

風が
冷たかった

花冷えというのだったろう

 

 

 

走ってきた

 

走ってきた

今朝も
川辺の柵にもたれて

ところどころ
やすんで

走ってきた

海辺の病院まできた

子どもの頃
夏に

川を流れていった

裸で
流れていった

顔が太陽に焼かれて
青空をみてた

流れていった

いつか
どこかに

行き着くだろう

海辺の病院は

義母が
入院していた

たくさんの老人たちが
ベッドの上にいた

呻いていた

ヒトは

いつか
行き着くだろう

昨日
この国の首相がニヤリと笑うのをテレビでみた

そこじゃないと思った

昼過ぎに
焼津の蕎麦屋で

よもぎ蕎麦を食べた
風が流れていった

蕎麦屋では
手ひねりの粘土細工を買った

くじらと
オットセイと

馬のつらだった

それから
紺染の綿の褌も買った

いつか
流れていこう

裸に
褌をして

流れていこう

 

 

 

ノラは

 

今朝も
早く目覚めた

曇ってた

それで河口まで走った
ノラたちは

いなかった

いつも
河口沿いのアスファルト道の

柵のうえにいる

黒猫と
白猫と
赤猫と

白黒の子猫と
黒い子猫と

いつも柵のところで

海を背負って
こちらをみている

ノラは
飼われているのではない

誰かたまに
餌をやるのかもしれないが

餌を
あてにしている

わけでもない

ノラは野良のことか
ノラは浮浪のことか

ノラは

雨の日や
晴れた日や
風の日も

みたことがある

しろい雲が青空にポカンと浮かんだ日に

ノラは
砂に埋もれた

テトラのうえにいた

ノラはノラで生きていくだろう
ノラはノラで死んでいくだろう

 

 

 

新・冒険論 21

 

今朝
早く目覚めた

西の山の上に満月はいた

河口まで
走っていった

海辺で
ノラと会った

黒猫と白黒の子猫だった

テトラには
海鵜たちが佇っていた

歌には
いない父はいらない

酸素も
愛も

いらない

夏の日に砂地に踠いていた
歌は

ひとりで帰ってきた

歌は
渡っていった

満月は
白くひかっていた

 

 

 

届かない

 

きのう
かな

オカモトさんという方のfbで

良寛の
般若心経の書をみた

そこに
風はあった

穢れのないと
いうのか

一瞬の風だった

それから

きのう
ササキマコトさんの

「この世は、時々うつくしい。」という詩を読んだ

美容院で短めのボブにして帰ってきた奥さんを
美しいと思う詩だった

今日は春分の日で
雨の朝

河口まで走ってきた

細野晴臣さんの「ぼくはちょっと」という歌を聴いて
走ってきた

ぼくはちょっと黙るつもりです
という歌だ

小雨のなか海はわずかにうねって
いて

テトラポッドに海鵜が佇っていた

西の山が
群青だった

帰ってから
義母に線香を一本たてた

この歳で気づいた

届かない思いというものがある
届かないことばもある

だから
抱いていく

抱いて

そこへ
持っていく

 

 

 

夜中に芋を飲む

 

芋を飲む

夜中に
目覚めて

焼酎のお湯割を飲む

モコを
起こしてしまった

モコを
抱いて

飲む

のこったものの

傍に
いて

芋を飲む

芋のお湯割は
うまいね

からに
なった

ものの傍にいる

飛行機で
千歳におりて

小樽と洞爺湖と富良野をまわったね
よろこんでくれた

少女みたいに
わらった

かなしいわけでもない
ことばはいらない

ことばは
からにする

夜中に
芋のお湯割を飲む

 

 

 

おやすみ な

 

モコ

きみの

むねにふれると
あたたかい

モコ
むねが

じょうげしてる

いきを
はいて

すう

モコ

めを
瞑ってる

みみが
ちいさくふるえる

ゆめのなかで

はしる

モコ
モコ

草原がまっすぐはしる
草原

まっすぐはしる

モコ

ながいみみが
なびく

風が
風に

なびく
なびく

モコ みみが風になびいている

モコ

おやすみ な
おやすみ な

 

 

 

そこ

 

義母は
咳き込んだ

吸引のあと

喉の奥が
ぜいぜいと鳴った

苺を
薄切りにして

蜂蜜をかけて
一枚一枚食べさせた

お茶をのませた

義母は天をみた
うすく瞳を凝らした

見開いた
それで逝った

そこに行く
そこで待つ

そこは
どこなの

そこは底なの

ヒトの
底なの

ヒトはそこで待つ