「夢は第2の人生である」第63回

西暦2018年如月蝶人酔生夢死幾百夜

 

佐々木 眞

 
 

 

台風が来襲したので、私は老女と娘が2人暮らしをしているナントカ家が、おおかぜで飛んでいかないように錨を打ちつけたが、烈風が猛威をふるってきたので、だんだん心配になってきた。2/1

私とケン君は、ここんところ広い竹林に棲んでいたのだが、ケン君は、だいぶ疲れているようなので、心配だ。2/2

かのヘルタースケーターは、中央図書館の百科事典コーナーで、いつものように飛んだり跳ねたりしていた。2/3

私はサンフランシスコ・セーヤー軍の、1軍と2軍を取材した。1軍は地下鉄を利用しているのだが、2軍の元有名選手たちは、昔懐かしい馬車に乗って球場入りをしているようだ。2/4

1枚目は失敗作だったが、2枚目はゴッホとムンクを掛け合わせたような、なんだか生きているような感じがする絵ができたので、我ながら驚いてしまった。2/5

私は、会社の営業車を改造して3階建てにして、超おしゃれな内装でシックにまとめた最上階のオーディオルームに寝そべって、ワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」を聴いていた。2/6

その頃の私は、のちには殺してしまうことになる人たちと一緒に、楽しく映画に出演したりしていた。2/6

その日の私の制球は冴えに冴えて、敵をバッタバッタと三球三振に討ち取っていたが、肝心要の9回裏に4番の痛恨の逆転ホーマーを許してしまったのは、朝御飯の時に、つい「タラの白子」を喰うてしまったからに他ならない。2/7

どういう風の吹きまわしか、かねてから莫迦にしているマツザカ社長と、ぱったり出くわしたのだが、だんだん彼奴のペースに巻き込まれてしまい、自分が卑屈な態度を取り始めていることに気づいたが、かというて、どうすることもできない。2/8

デザイナー志望の私は、学校を出てから、きまぐれにいくつかのデザイン会社を受けたが、みな合格してしまった。面倒くさいので、一番はじめに合格通知がきた会社に入ったのだが、それがわが人世の躓きの石となった。2/9

「さあ、撃とうと思うなら撃ってみよ!」とお得意のセリフを絶叫した途端、私は舞台の上で、腹に1発銃弾を喰らった。護民官が、「芝居の中では、絶対に人殺しをしてはならぬ」と再三にわたって厳命していたにもかかわらず。2/10

疎開列車の中では、ときおり天井から降りてくる、葡萄や柑橘類などの果物を食べるのを楽しみにしていたのに、あっという間悪童たちに食べられてしまった。2/11

このヤクザの男は、目の前の織機が、由緒ある古代織を編み出す機械であることを、つとに見抜いているようだった。2/11

いと狭きノアの箱舟にて、情人を確保するは至難の業にて、性欲猛き若き男どもは、時に禽獣を捕まえては、腐りし精を放ちおりたり。2/12

偉いさんたちは、明日の船便を運行させるかどうかについて、曇り空を見ながら相談していたが、僕らはカニなので、小魚たちと楽しく遊び戯れていた。2/13

左の歯が痛い右の歯が痛い左の歯が痛い右の歯が痛い左の歯が痛い右の歯が痛い左の歯が痛い右の歯が痛い左の歯が痛い右の歯が痛い左の歯が痛い右の歯が痛い 2/14

オフィスのフロアが、草ぼうぼうになってしまったので、みんなで手分けして、大掃除をしているうちに、私はえもいわれぬ幸福感に包まれていった。2/15

彼女が、「あなたの古本も売ってあげましょうか?」と親切に言うてくれたのだが、私は断って、彼女の店の片隅で、戦前の無名作家の小説を読み続けていた。2/16

「押しくら饅頭押されて泣くな」という子供たちの悲鳴のような歌声が終わったので、外に出て見ると、はらわたの裂けた饅頭が1個落ちていた。「お父さん、ボクだよ」という声が、そこから聞こえた。2/17

天才悪魔博士の弟子たる私は、博士が開発した難病退治のワクチンを、次々に飲まされる人間モルモットとして重用され、ひとつしかない命を危険にさらしていた。2/18

満月の夜にチチンプイプイと唱えて交わると、子供ができた。翌年の満月の夜にチチンプイプイを2回唱えて交わると、双子ができた。そのまた翌年の満月の夜にチチンプイプイを3回唱えて交わると、3つ子ができた。そのまた翌年の満月の夜に2/20

会社の若者たちと共同生活を始めたのだが、すぐに嫌になった。些細なことで行き違いがあり、ひとたび生じた亀裂は、もはや修復のしようもなかった。どっちが悪いのか分からないが。2/22

殺してもあきたらない彼奴の、まるで猪八戒のように醜い体に、切り出しナイフで3度切りつけたのだが、なぜか彼奴は、まだ倒れない。2/23

私が長い旅から戻ってくると、長年にわたって下宿していた長屋が、何者かの手によって壊され、火をかけられ黒焦げになっていた。2/24

私は政府の犬になってしまい、さらに落ちぶれて、殺し屋になってしまった。上機嫌で唄い踊っている連中を見つけると、いきなり背後からドスで刺し殺すのが仕事だ。2/25

お笑いの世界でちょっと有名になった私に、扶桑社のタジマという男から電話がかかってきて、「新書を出しませんか?」と誘われたので戸惑っていると、「なに、もう原稿は全部出来上がっているので、お金さえ頂戴すればすぐに出版できますよ」という。2/26

海外出張を終えて出社すると、企画室の私の席に見たこともない人物が座って電話をかけまくっているので、私は、「ははあん、これは常務のナベショーの嫌がらせだな」とすぐに分かった。2/26

私を見ると必ず、狂ったように歯をむき出して襲いかかって来る阿呆莫迦犬がいたので、私は、飼い主もろとも叩き殺してやったんだ。2/28

 

 

 

家族の肖像~親子の対話その30

 

佐々木 眞

 
 

 

「さいあく」ってなに?
いちばん悪いことよ。

「えこひいき」ってなに?
その子ばかり可愛がることよ。

ぼく堂ヶ島、好きですお。
お母さんもよ。

一瞬てなに?
あっと言う間だよ。

お母さん、「なにとぞ」ってなに?
どうぞお願いします、のことよ。

お父さんテレビの番組、なんというの?
プログラムだよ。

「卒業しても鎌倉へ遊びに来てください」マスザワ君言ったよ。
そうなんだ。

金八先生、ドラマでしょう?
そうだね。

例えば。
例えば、なに?

ぼくユウちゃんとカナメくん両方好きだよ。
お母さんも。

浮き彫りってなに?
浮かび上がってくることよ。

ぼく忘れな草好きだよ。
お母さんもよ。
忘れな草どこにあるの?
ここにはないけど雪の中よ。

お母さん、月曜日になったら予約してくださいな。
なんの予約?
岸本歯科だお。

お母さん、ぼく岸本歯科すきになっちゃったんですお。
そうなの。
ぼく、岸本歯科行きますお。

ぼくは静かにやってもらいますよ。
なにを静かにやってもらうの?
岸本歯科だお。

お母さん、ぼく下駄好きですお。
そう。下駄履きますか?
ゲタゲタゲタ。

お母さん、ぼく西浦和いきますよ。エイコさん、西浦和行ったことある?
さあ、分かりません。

お母さん、ぼく、サカイさん信じます。
そうですか。

しかし、しかし、お父さん、しかしの英語は?
バットだよ。
しかし、しかし、しかし。

お母さん、お気の毒ってなに?
可哀想のことよ。

うるわしいってなに?
美しいことだよ。

お母さん、つぶやくってなに?
ぼそぼそいうこと。

会議中って、あとで話すのこと?
なに?
あとで話すの会議中?会議中話せないからだね?
そうだね。
カイギチュウ、カイギチュウ。

お母さん、やくどしってなに?
悪いことがあるかもしれない年よ。

梅雨は、ばいうでしょう?
そうだね。
バイウ、バイウ。
お母さん、中華街、料理でしょ?
そうよ。行きましょうか?
嫌ですお。

お母さん、転校生ってなに? 違う学校行くこと?
違う学校から来ることだよ。

比較的ってなに?
比べると、よ。

お母さん、ぼく勝浦好きですよ。
じゃあ行きましょう。

ぼく、伊香保温泉好きですお。
耕君、行ったことあるの?
行きましたお。

お母さん、当時はってなに?
その時は、よ。

おっ母さん、ぼくダンデリオン好きですよ。ダンデリオン、レストランみたいに?
そう、レストランよ。

接続ってなに?
つながっています、よ。

越後ってなに?
新潟県だよ。

お母さん、ジュンサイ、ぬなわだよ。
なに?
ぬなわ、ジュンサイだお。
なになに、万葉集には沼縄と出ているのかあ。耕君よく知ってたねえ。
ジュンサイ、ぬるぬるだお。

 

 

 

夢は第2の人生である 第62回

西暦2018年睦月蝶人酔生夢死幾百夜

 

佐々木 眞

 
 

 

私は、近づいてきた極右ファシストの独裁者に向って、拳銃を右手で握って、顔面など数か所に弾を撃ち込んでから、ゆっくり引き揚げたのだが、彼奴は死んではいなかった。
どうやら、いつものように左手で撃たなかったのが、災いしたようだ。1/1

私は、細長い筒の奥底に閉じ込められてもがいていたが、誰かが筒を逆さまにして振ってくれたので、勢いよく外に放り出されたが、その時には誰の姿も見えなかった。1/2

オフィスビルの荷物を積んで、他の業務用エレベーターに乗り換えようと、やってきたエレベーターに台車を突っ込んだら、妙齢の美女の美しい膝を傷つけたようで、そこから2、3滴の鮮血が迸り出たので、私はうろたえた。1/3

この百貨店では、エスカレーターの代わりに、クルクル回転する耕運機のような機械が取り付けられていて、客は、それに乗って店内を移動するのだった。1/4

「では行きますよおー」、といいつつ、ピッチャーが投げた豪速球を、私がハッシと打ち返すと、ボールは、空の向こうに消え去ってしまった。1/5

ホームレスの僕は、無人の百貨店の家具売り場に、年が年中寝泊りしていたものだから、そこを舞台にしたコマーシャルを製作したら、どこが良かったのかさっぱり分からないが、あっという間に、全世界で爆発的にヒットしたみたい。1/6

右の腰が痛くてたまらないので、医者に行ったら、「いま米国で人気のYaYaYaとかいう若手鍼師が来ているので、よかったら試してみませんか?」と言われて、はてどうしたものかと迷っている。1/7

彼女が、来日以来貯めてきた大事な物が格納されている、巨大な「当て物箱」から、私は、籤引きでいろいろな貴重品をひきあてたが、それらは、いずれも10万円を下らない代物だった。1/8

ニシノマキという歌人が、我が家に遊びに来て、「○○元年、帝国は某敵国と交戦状態に入れり」という大本営放送の録音テープをほしい、というので贈呈したが、この○○という名辞が、平成に続く元号であったことに、後になって気づいた。1/8

ここはおそらく、視察に来たタイのバンコクではないか、と思われるのだが、言葉と現地事情に通じた相棒のヤマサワ選手が、いつの間にかいなくなってしまったので、取り残された私は、どうしようもない状態で、地面にしゃがんでいる。1/9

連続殺人事件で夥しい血が流れたので、国鉄当局は、新幹線の全車両のカーペットを取り替えることにしたのだが、その新しい敷き物は、駅ごとに待ち構えた窃盗団によって、ごっそり盗まれるのだった。1/10

私は東京駅でコウ君が現れるのを、ずーと待っているのだが、いつまで経っても姿を現わさないので、そこら辺をうろういていた男のケイタイを拝み倒して借りて、連絡を取ろうとして、はじめて私も、ふだん使ったことがないガラケーを持っていることに気づいた。1/11

巨大な十字架の上に磔にされたまま、人々は昇天せずに、何日も何日も生きながらえていた。これを奇跡と言わずに、なんと呼ぶのか。1/12

展示会場からクマガイ・トキオが丹精込めた一足を、悪評紛々の安倍蚤糞夫人が搔っ攫って逃亡したので、係り員たちは、ほうぼう探し回っているが、まだ見つからない。1/13

今季の東コレは、なんと夜10時からの開催で、しかも3つの有力ブランドがかちあっているので、いたく動揺している編集者たちに向って、さる男が「ふぁちょんなんて、所詮遊女と游治野郎のものだね」というたので、みな笑った。1/13

「算数の悪魔」と称される醜女がいて、数学や算数にてこずったときに呼び出すと、すぐさま駆けつけて、なんでも代わりにやってくれるのだが、その見返りに、悪魔のような性愛を要求されるので、少年たちはたいそう悩んでいた。1/14

イマイさんが、「こないだ買ったイオンの株が、なんと40倍になった。突然大金持ちになっちゃったよ」という。周りの人たちも株で大儲けして、大喜びしているのだが、私だけは、バブルから取り残されているようだ。1/15

天敵を探し出す仕事は、神様から天罰を蒙る恐れがあるので、私は、いくら人から頼まれても、首を縦には振らなかった。1/16

なにしろアマチュアオケのことなので、一時は聴衆もプリマドンナも、指揮者も、楽員までも逃亡する始末だったが、コンマスの私が、大声をあげて叱咤激励したので、「ドン・ジョバンニ」の公演は大成功だった。1/17

彼女と私がようやくテレ朝までやってきて、上りのエレベーターに乗ると、そのベルトに乗っていたすべての人間が、私たちと溶解して、巨大なアマルガムになってしまった。
これを微分積分して元に析出するには、どうしたらいいのだろう?1/18

その曰くつきの女から、「あなた、これからどこかへ連れて行ってくださるわね」と、背中越しに声をかけられた私は、思わずゾーッとして、気が重くなってしまった。1/19

彼我の取り分は3分の1ずつ、と決まっていたにもかかわらず、彼奴は3分の2近くを掠め取っていたことが分かったので、私は頭に来た。これでは民草の取り分が無くなってしまうではないか。1/20

私は上野で展覧会をみようと思って、上京してきたのですが、途中で巨大な樺太犬を捕まえたので、そいつに跨って進んでいくと、コシアカツバメの一家5羽が、帽子の中に飛び込んだので、大事に抱えながら、銀座通りを進んでいったのでした。1/21

戦争が始まったので、某国の日本人地区に住んでいた邦人たちは、みんな帰国してしまったが、どういう訳だか私だけは、そのままずるずると滞在を続けていた。1/22

某国の国民議会では、自分の代理ロボットが出席して討論を行い、評決の代行もできる議案が堂々とまかり通ってしまったので、議員全員が驚愕しているそうだ。1/23

いよいよ戦端を開こうとしていたら、両軍の眼の前を弁当屋が通りかかったので、3日3晩何も喰うていない兵士たちは、武器を投げ捨て、塹壕から飛び出して移動販売車に群がった。1/24

絶望に駆られたその男は、凍結した冬の川に飛び込んだが、死にきれず、いつまでもおめおめと生きながらえている。1/25

ホテル・ルックを出たアリサ嬢は、私が後をつけているとも知らずに、大通りに出て、別のホテルに入り、見知らぬ男と立ち話をしている。1/26

一晩中、風呂の奴が、凍結から身を守ろうとしてガスを燃やすので、うるさくてかなわない、という話を、みんなにしてきかせた。1/27

これは下駄の「てらこ」、これは松下表具店、メリー洋装店、これは火星社書店、と次々に昔の郷里の光景が鮮明に再現されたが、次の瞬間、その懐かしい映像の上から、最新型のガラスの現代建築が圧し掛かるように突き刺さった。1/29

町内の住民の一部が、ネコ型ロボット症候群に罹災した惧れがあるというので、町内会長はパニックになっている。1/30

無人島に追放された犯罪者たちは、牢屋の中から、私たち看守が毎日のように楽しんでいるポーカーの仲間に入れてほしくてたまらないようだが、そういう親切なぞ、誰一人持ち合わせてはいなかった。1/31