ビリジアンを探して

 

芦田みゆき

 
 

2017.1.29
深夜、目をつむると、見知らぬ光景が次々を現われ、あたしは息苦しくて眠れない。その光景は、闇から湧き上がり、強烈な光となって眼前に広がる。そして消滅し、また、新たな光景が湧き上がる。
街のあちこちは、今日訪れた場所にとてもよく似ているが、よく見ると何もかもが異なっていて、細部は欠落している。記憶を切り刻み、失われた部分を想像で編み上げた新しい街。そこで、ビリジアンは全体に宿る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビリジアンを探して 

 

芦田みゆき

 
 

2012.6.10.

 

「…ビリジアンが死んだ。ぼくにはわかる。
窓のほそい縁に太陽が反射して白く光った時、ぼくは理解した。ビリジアンは死んだのだ。水源からゆるゆると水が流れだすように、ひとすじの血がひろがり、床に小さな湖ができる。ビリジアンは、そこに横たわっている。いずれ発見されるだろう。川沿いの湿った室内。
ビリジアンはぼくを見ることができない。
ぼくはビリジアンを抱くことができない。
ビリジアンは捨てられた植木鉢のように、割れた陶器の皮フから内側があふれだしたまま、眠っている。
ねぇ、ビリジアン、ぼくにはそれが見えるんだ。」

 

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光の疵 遠方の赤

 

芦田みゆき

 

 

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大きな鳥が
ゆったりと
空を横切る
その時
あたしの片側の頬が青黒く染まる

鳥の翼は
鈍い金属のようにみえた

羽搏きが巻き起こした風は
いつまでも地表を揺らす

あたしはからだを起こして
前を向く
遠方の赤は
なにも変わっていない

追わなくては
走っても
走っても
けして近づくことのない

 

 

 

光の疵 White

 

芦田みゆき

 
 

ある朝
粉雪のように
白がはじまった
あちこちに降り積もっては消え
ひと粒が膨らんだりつぶれたり
よく見ると
あたしのカラダはまだらで
目をつむってもあけても
まったく同じ白が広がっているのだった
さぁ、出かけるよ
どこにでもついてくるがいい
晴れた日の白というのも
おつなものじゃないか

 

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光の疵 誕生

 

芦田みゆき

 
 

記憶しているのは
白くおおきな部屋
光は青白く
まっすぐに
ゆるやかに
あたしを刺す

赤ん坊のあたしは
両手両足をばたつかせ
懸命にことばを発するが
誰かがひゅうひゅうと吸い上げ
あとかたもなく
消えてなくなってしまった

 

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光の疵 屋上庭園

 

芦田みゆき

 

 

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ひりひりと疵が痛むとき、夜のデパートの屋上へとむかう。
エレベーターの扉があき、
過剰な光が流れる廊下を渡り、
重いガラスの扉を押すと、
まだらな闇が降りてくる。
あたしは闇をまとって、植物が売られているコーナーに行く。
工事が始まっている。
たくさんの植木鉢や、あいだに置かれた石像たちは端に片づけられてしまった。
代わりに白い布を被った何かがあちこちに置かれている。
あたしは自販機でコーンスープを買って、建物に沿って並べられたベンチに腰掛ける。

目を閉じると夏の喧騒がよみがえる。

 

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あたしは生まれてはじめてデモに行った。とけて消えてしまいそうな暑い夜。国会の脇にある木では蝉が鳴き、子どもたちは小さなライトを持ってカブトムシをつかまえていた。みせて?と声をかけると、あの木にいたの、と後ろの木を指さす。この、子どもたちの未来を守るために、あたしは来た。前に進んでいくと、赤ちゃんを背負い、荷物とプラカードを持った若いお母さんがコールを叫んでいる。あたしは人人の手ばかりを見ていた。どの手も白く美しかった。

目を開けると、闇が濃くなっている

 

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さぁ、帰ろうか、と隣のベンチをみると、一冊の本が置き忘れられている。手に取って開いてみると、とても古いロシア語の参考書だった。あたしは本を元のベンチに立てかけて、エレベーターへ向かった。