黄浦江(こうほこう)

 

長田典子

 
 

ゆうるりゆったり曲がる
蛇行、
メアンダー、
いいなぁ
だこうって
いいなぁ
ねぇ、カコ、
はずんだ声で
オリエンタルパールタワーから黄浦江を見下ろす
銀行員だったカコは
パンフレットを片手に
あれが
ジンマオタワー、
ファイナンシャルタワー、と真剣に確かめている
案内のリーさんがケイタイをとり
メイファンの試験はうまくいきました、とエイ語で報告してくれた
彼女は黄浦江の対岸の大学院で難しい試験をひとつ終えたところ
だこう、ゆうるり曲がって まるまってメアンダー、
リーさんはメイファンのクラスメイト
来月からリーさんはアメリカに、メイファンはベルギーに
交換留学生で出かけてしまう
難しい試験を終えたメイファンの胸の晴れ間が
カコとわたしとリーさんを包み込む
ゆうるり まるまると
だこう、メアンダー、

きょうは
河沿いのワイタンを歩いてから
エレベーターで上昇し
ゆうるり、まるまると、螺旋階段を昇り
東方明珠電視塔、オリエンタルパールタワーの
地上351メートル
展望台にいる

ゆうべ泊まった五つ星ホテルのベッドで見た夢は
広い野球場のマウンドで
大勢の人に胴上げをされている夢だった
わぁーっ、と大きな声で寝言を言ったよ、
カコが長い髪をとかしながら教えてくれた

ああ、これが蛇行、メアンダー、と
橋の上から見下ろしたのは
ずっとずっと前 高1の夏
地理の授業で
蛇行すなわちメアンダー、と知って
部活の帰り
近くの河で写真を撮った
身体の奥深い場所で雷鳴が轟いた
旋回しながら落ちていった
ふかく ふかく
あれ以来
アラスカ、ミシシッピ、四万十、ハドソン、アマゾン、テムズ、
テレビや地図 旅先で 飛行機の窓から
蛇行する河を見かけるたびに
16歳の制服を着た少女になり 体内で遠雷が轟く
ときに写真に残した

巻き上がる
遠雷、蛇行、メアンダー
轟く
黄浦江の流れは
ゆうるりゆうるり90度に折れ曲がり
試験を終えて駆けつけた
メイファンと合流する
展望台の隅の土産物屋で翡翠を物色するわたしに
パールがいちばんいいね、とメイファンがニホン語で言う
耳には大粒のパールのピアス
きれい
東方明珠電視塔、オリエンタルパールタワー、
ニューヨーク、わたしはメイファンにニホン語を教えていた
マンハッタン、カコとは同じ語学学校だった

地上351メートルの透明ガラスの床の上
上海、
市街地の上空
カコ、
リーさん、
メイファン、
わたし、
それぞれに違う大きさ
違う靴の
片方を載せ
四葉のクローバーの形にする
写真を撮る

ウィチャットで送り合おうね
まるまると まあるく
蛇行した河から上昇する気流はやがて竜になる
空を旋回する
ゆうるり まあるく まるまると
カコ、
リーさん、
メイファン、
わたし、

 

※連作「不津倉(ふづくら)シリーズ」より

 

 

 

水のひと

 

長田典子

 
 

ひとびとが並んで登って行く
坂道
いまにも雨が降り出しそうな
暗い 霞んだ
崖の淵を
かみだれ ひらひら かぜに舞い
水色の装束のひとびと
そろそろ 進む
靄に浮かぶ四角い木の箱
ぐらぐらゆれて
そらに向かう船のよう
あかい火 あおい火 きいろい火
ゆらゆら灯し

けんろくさんだ
ひいじいさんだよ
おむかえがきたんだよ

船は靄のなかをそろそろ進み
進み
いまごろ
とがり山の8合目
夜中に目が覚め
ふとんの中で
思いだす
けんろくじいさんは四角い船で
おそらにおでかけ
あかい火 あおい火 きいろい火
ゆらゆら灯し

かみだれ ひらひら かぜに舞う
なんにちなんねんいくせいそう
めぐりめぐりて

あかい火 あおい火 きいろい火
ゆらゆらゆれて
ひとり ふたり さんにん と
ひとびとは 崖を上に上に登って行った
それぞれの火を残したままに
ばらばらに
おむかえもなく 船もなく
そらではなく
電気の町へ

村は水底(みなぞこ)にしずみました

かみだれ ひらひら
なんにちなんねんいくせいそう
めぐりめぐりて

あかい火 あおい火 きいろい火
靄でかすんだ水底で
灯っている
水中火(すいちゅうか)
泳いでいる

けんろくじいさんは
水底にもどっているそうです

電気の町で
溺れたひともいるそうです

 

※連作「不津倉(ふづくら)シリーズ」より

 

 

 

お祭り

 

長田典子

 
 

ててんつく ててんつく どんどんどん

わっしょい わっしょい
いつもいっしょの男の子たちが
遠くで神輿をかつぐ
わっしょい わっしょい
まるく発光する庭に反射する
みしらぬ人の
わっしょい わっしょい

とつぜん知った
せかいのそとがわ
薄暗い座敷で
わんわん泣いて じだんだふんだ
さけびながら じだんだふんだ
あたしもお神輿かつぎたかった
泣きながら でんぐりがえり
でんぐりがえり

ててんつく ててんつく どんどんどん

猫がねずみを咥えて
庭に座る
まるいライトのまんなかに
まだ震えてるねずみを置いたから
ひきだしの箱にしまったよ

ててんつく ててんつく どんどん
ぴーひゃらひゃら
どん

裸電球 麦わらの匂い
秋祭りの夜
はちまんさまのお座敷は
うすぼんやりの幻燈だ
男衆の和太鼓どんどこどんどこ
お稲荷さん食べて おだんご食べて
あたしはでんぐりがえる でんぐりがえる
月はぴかぴか光っていたよ
ススキは穂を銀色にゆらしたよ

わっしょい わっしょい
でんぐりがえる

そらいちめんの星きらきらきらら
山羊が草の葉裏に赤い実みつけて口に入れる
朝になったら
あたしはひろうよ ひみつの黒曜石

ててんつく ててんつく
どん どん どん
わっしょい わっしょい
でんぐりがえる

お祭りだ
猫もねずみも山羊もでんぐりがえれ
スポットライトのまんなかで
お稲荷さん食べて おだんご食べて
月も星もススキもでんぐりがえれ
お祭りだ
黒曜石のお祭りだ

わっしょい わっしょい
どん どん どん

 

※連作「不津倉(ふづくら)シリーズ」より

 

 

 

冬の水位 祈りとしての

 

長田典子

 
 

あなたたちの涙は
とつぜん
冬の水位として移動する
続く血脈をたどり
伝えよ、と
頭蓋に滴るので
悲しみが込みあげてしまうのだ
寒いでしょう…冷たいでしょう…
結露する窓枠
見る見えない津久井の山々
青く霞む稜線が
疾うに失われた地名へとみちびく
津久井町中野 字不津倉(あざふづくら)
湖底の墓地に今もまだ横たわる
置き去りにされなければならなかった
あなたたちのことを
伝えよ、と
冬の水位
滴るので
窓は ここで
永遠に結露する

 
 

※初出神奈川新聞の原稿を改稿
 
※連作「不津倉(ふづくら)シリーズ」より

 

 

 

白いカーネーション

 

長田典子

 
 

こどものころ
母の日に
白いカーネーションを胸につけた子がいた

あのころ
わからなかった
わからなかったなぁ
その白が
どんなにふかい哀しみの色だとは
わからなかったんだ

ごめんなさい……

40歳をとっくに過ぎているのに
ベッドに横たわる
あなたの胸に顔を押し付けて
うれしい?
と聞くと
あなたは、こくん、と
うなずきました

脳幹梗塞で倒れ
手足も動かず口もきけず
耳だけが聞こえるあなたのために
あの年は
パジャマを買うことにしました
レジに並ぶ前から
涙が止まらなくなりました
母の日のプレゼントに
なぜ パジャマしか選べないのかと
包装されたリボンの箱を抱えて
泣きながら歩いて帰りました

西日の射す部屋から
わたしはあなたによく電話をしていました
気持ちが塞ぐと
成人してからさらに 20年以上も経つのに
あなたへは電話ばかりしていました

あの午後
あなたは
なんだか ぼんやりしていて
もう何もやりたくない、と言うのです
ちゃんと「御焼きの会」に出なくちゃだめだよ、
お習字とお茶のお稽古にも休まずに参加して、と
わたしが熱を込めてしゃべればしゃべるほど、返事があいまいになってきて

その数日前に電話をしたときは
頭が痛くて痛くて横になってる、と言っていたのです
すぐに病院に行ってと言ったら
今日は誰もいなくてね、と

あの午後は
経営する工場の事務所にいて
事務員さんたちとお茶を飲んでいる最中で
わたしはすっかり安心していたのに

電話を切ったとたん激しく嘔吐したという
布団に入って横になったまま
翌朝には呼びかけても返事もできず

そのまま

5年以上ベッドに横たわっていた母
仕事で忙しかった日々の母からもらえなかったものを
とりかえすみたいに
母のベッドの横に座るたびに
わたしは
母の胸に顔をうずめては
うれしい?と聞いたのだった
いつも かすかに汗の匂いがした
あの匂いを
母の日になると思い出す
来年は遅ればせながらの13回忌

わからなかった
わからなかったのだ
母の日に
胸に白いカーネーションをした子の気持ちを

今ならわかるなんて
言えない
言えるわけがない
あのころ
あの子は5才だった

ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい………

わたし
こんなにおばさんなのに
白いカーネーションの寂しさを
受けとめきれないのです

 

 

 

あい(ゆびさき、の)

 

長田典子

 
 

しんじている
あなたを
いっしんに

あさ いっしょに
めざめる

ふいに だきあう
そおっと ひとつになる

あなたの ほそい
ゆびさき、の
せいあい が すきです
ふれあう かさなる ひとつになる
あなたの はりつめた ふともも
だんりょくが
すきです

しんじている あなたを 心から
じんじている わたしを 心から

ドアをでたら
じゃあね、って
べつの方向にあるいていく

ことばがなくても
わかる わかっている

もう戻らない
会わない

それでも
いつくしみあう
しんじあう
えいきゅうに

とてもシンプルな
かんけい

そういうの
あい、って
よぶのではないかしら

そういう
せいあい、って
あるのではないかしら

 

 

 

あい(青いお空の流れるところ)

 

長田典子

 
 

ささのは
さらさら

かわに
流してしまいましょう

あいした
きずつけた
きずつけあった
あいしあった
いたかった
ことば たち

ごめんね

ぜんぶうらがえし
わたしだけ を
あいして
いいたかったのは
それだけだった
のに

ねじれてねじれてうらがえってねじれて
ぞうきんみたいに
なきました
ぼろぼろに汚してしまいました

ごめんね

ささのは
さらさら

かわに
流してしまいましょう

わたし
流れていくでしょう
青いお空の流れる落ちる
さきのさきの
そのさきまで

明るい光さす森のなか
ゆっくり
ゆっくり
ゆれる椅子で わたし
ながいながいマフラー編んでいるでしょう

うまれかわったら
あなたの猫になれたらいいな
それなら ゆるしてくれる
たぶん
 
 
ゆるしてください

 

 

 

あい(鉱物)

 

長田典子

 
 

ささのは
さらさら

きずついたこと
きずつけあったこと
ののしったこと
ののしりあったこと
みんな
流してしまいましょう

きょう
ラッパズイセンがさきました
シュンランのつぼみを見つけました
となりの猫は
ガールフレンドぼしゅうちゅうです
さっき庭をよこぎっていきました

わたしたちの
あいは
まだだれにも発見されてない
川の底の底の底にうずもれている
鉱物
だから

ささのは
さらさら

きずついたこと
きずつけあったこと
ののしったこと
ののしりあったこと
みんな
流してしまいましょう

あしたは
おはよう! って
ちがう何かになって
会いましょう

たとえば
カワウソ
岸辺にせっせと積みあげていく
川床をただよう みどりの葉っぱたち
魚の骨たち
くだけたガラスたち
お日様にあたれば
とつぜん
きらきら光りだす
鉱物たち

ささのは
さらさら

積みあげましょう
たしざん
しましょう

しあわせの
鉱物
たち

 

 

 

DAYS / チーズ

 

長田典子

 
 

朝。儀式のような目覚めが繰り返される。

生まれ育った家の布団の中で頭だけ目覚める。目をつぶっている間は気が付かない。ここが、そこからとても遠いところだなんて。目を開ける前の一瞬に、聞きなれい外国の言葉が突然聞こえて、ああ自分はここにいたのかと知る。妙な胸苦しさに覆われながら目を開ける。

その日の課題はお互いの家族の歴史について話しあうことだった。わたしたちは、予め調べておいた家族のルーツや伝えられた言葉や家族の宝物を発表しあっていた。ときどき笑ったり不思議に思ったりしながら。そして、それぞれの家族の運命がそれぞれの国の運命ときっちり重なっているのに気がついて悲しくなったりもした。

時々みんなで遠くまで旅行した。すれ違うこともあって喧嘩をした。たとえば、割り勘の仕方ひとつにしても、それぞれの流儀があったから。いきあたりばったりで、なんの計画もなく、ふざけながら歩いたり、肩を組んで歩く恋人同士の後ろから、キース!キース!と言ってからかったり、意味もなく追いかけっこをしたりした。草の上に落ちていた汚いボールを蹴りあってどこまで続くか競争したりもした。ときどき政府御用達のばかでかいヘリコプターが上空を隊列を組んで飛ぶのを見上げて、どれだけ自分たちが遠い国に来ているのか思いをめぐらした。

イスタンブールで育ったという西洋人の顔をした男は、目の淵に太く濃いアイラインを引く黒い髪の女の耳元で愛しているとささやき、黒い髪の女の手を引っぱって、スーパーマーケットの中に消えていった。たぶん二人は陳列棚の間で抱き合って激しくキスをかわしていたんだろう。だけど誰も気にせず口にもしなかった。昼下がりのコーヒーショップのテラスに座り、ブルドッグやシェパードを連れて散歩をする人たちをぼんやり眺めたり、菫色の空を流れる雲を見ていた。そんなふうにして二人が戻るのを待っていた。

帰宅時、アパートのエントランスに入ると、チーズ、ケチャップ、オリーブオイル、黒胡椒なんかが過剰に入り混じった匂いがアパート中に染みついていると感じる。夕食時は、毎日きついチーズの匂いが換気扇を通じてどこからともなく漂ってきて食べる前から胃が痛くなりそうだ。醤油や味噌の匂いがドアの隙間から外に染みだしていくこともあるのだろうが、わたしもいつのまにか手に入りやすいトマトソースやチーズにスパゲッティを絡めて食べるようになる。

 

 

※本作品は2011年同人詩誌「ひょうたん」に発表した作品を大幅に改稿した。

 

 

 

蛙の卵管、もしくはたくさんの眼について……(改訂版)

 

長田典子

 

※2011年のニューヨーク大学語学学校の夏学期、Mark先生のCreative Writingの授業を選択し初めて書いたエイ語の詩が “Frog’s Fallopian Tubes” である。正しいエイ語で書くことばかりに気をとられ稚拙な童話のようになってしまった。本作「蛙の卵管、もしくはたくさんの目について……」は、このエイ詩から多く引用している。

Frog’s Fallopian Tubes

You know? I’m an egg.
Since I was born, I have been connecting with my many siblings. We always talked about the day we would hatch silently. We didn’t know what would happen after that. But we had known our mother was a frog. We remembered mother’s fallopian tube like a slide and ovary or like a warm balloon.
You know? I and my sibling were connected hand in hand with the tube made of jelly. We also talked about what a frog was with each other but nobody knew that sort of thing. Someone said we would be like a spindle shape which we would go thorough and leave beside us. Someone said we would be like swaying green in the water. And someone said we would be something like a flying black shape out of the water. But nobody knew what we would be.
You know? I had been so sad to separate from the fallopian tube and I was so scared to separate from my many siblings. I knew I would be alone. No mother, no tube, no siblings. I was sad sad sad sad sad sad…….we were sad sad sad sad sad sad…….
You know? We were moving in the water together like strange lives. We were laughing  with each other seeing ugly strange shapes. We are moving together laughing….laughing…. and we began to swim.
laughing….laughing….laughing…. and we became swimmers.
You know? My siblings had legs and went up out of the water one after another saying  good bye ….goodbye….goodbye….goodbye………
good bye…..one after another ….one after another ……..
You know? I know I didn’t go out of the water. You know? I don’t know why I didn’t go   out of the water. Here water is warmer ….warmer …warmer…..and very much hotter………hotter ….hotter…..hotter……hotter……hotter……..
You know? At last the water vanished away….yes…vanished away…….
You know? I also vanished away. But I became free. Yes, I’m free.
You know? I’m in the air on the water. Maybe, in the sky.
I am the eye of the sky.
And you know? I’m staying with various forms of lives here.
They are eyes of the sky. Of course I met my siblings here too. And you know?
We will go to the frog’s fallopian tubes as many eyes.
You know? Frog’s eggs are eyes.
You know? Eggs are eyes. Eggs are always looking at you in the water. Be careful if you  saw frog’s eggs in spring because they were eyes. And there are many eyes in the world.
You know? Never forget frog’s fallopian tubes.
You know? I’m an egg.
Since I was born, I have been connecting with my many siblings. We always talked about the day we would hatch silently. We didn’t know what would happen after that. But we had known our mother was a frog. We remembered mother’s fallopian tube like a slide and ovary or like a warm balloon.
You know? I and my sibling were connected hand in hand with the tube made of jelly. We also talked about what a frog was with each other but nobody knew that sort of thing. Someone said we would be like a spindle shape which we would go thorough and leave beside us. Someone said we would be like swaying green in the water. And someone said we would be something like a flying black shape out of the water. But nobody knew what we would be.
You know? I had been so sad to separate from the fallopian tube and I was so scared to separate from my many siblings. I knew I would be alone. No mother, no tube, no siblings. I was sad sad sad sad sad sad…….we were sad sad sad sad sad sad…….
You know? We were moving in the water together like strange lives. We were laughing  with each other seeing ugly strange shapes. We are moving together laughing….laughing…. and we began to swim.
laughing….laughing….laughing…. and we became swimmers.
You know? My siblings had legs and went up out of the water one after another saying  good bye ….goodbye….goodbye….goodbye………
good bye…..one after another ….one after another ……..
You know? I know I didn’t go out of the water. You know? I don’t know why I didn’t go   out of the water. Here water is warmer ….warmer …warmer…..and very much hotter………hotter ….hotter…..hotter……hotter……hotter……..
You know? At last the water vanished away….yes…vanished away…….
You know? I also vanished away. But I became free. Yes, I’m free.
You know? I’m in the air on the water. Maybe, in the sky.
I am the eye of the sky.
And you know? I’m staying with various forms of lives here.
They are eyes of the sky. Of course I met my siblings here too. And you know?
We will go to the frog’s fallopian tubes as many eyes.
You know? Frog’s eggs are eyes.
You know? Eggs are eyes. Eggs are always looking at you in the water. Be careful if you  saw frog’s eggs in spring because they were eyes. And there are many eyes in the world.
You know? Never forget frog’s fallopian tubes.
You know? I’m an egg.
Since I was born, I have been connecting with my many siblings. We always talked about the day we would hatch silently. We didn’t know what would happen after that. But we had known our mother was a frog. We remembered mother’s fallopian tube like a slide and ovary or like a warm balloon.
You know? I and my sibling were connected hand in hand with the tube made of jelly. We also talked about what a frog was with each other but nobody knew that sort of thing. Someone said we would be like a spindle shape which we would go thorough and leave beside us. Someone said we would be like swaying green in the water. And someone said we would be something like a flying black shape out of the water. But nobody knew what we would be.
You know? I had been so sad to separate from the fallopian tube and I was so scared to separate from my many siblings. I knew I would be alone. No mother, no tube, no siblings. I was sad sad sad sad sad sad…….we were sad sad sad sad sad sad…….
You know? We were moving in the water together like strange lives. We were laughing  with each other seeing ugly strange shapes. We are moving together laughing….laughing…. and we began to swim.
laughing….laughing….laughing…. and we became swimmers.
You know? My siblings had legs and went up out of the water one after another saying  good bye ….goodbye….goodbye….goodbye………
good bye…..one after another ….one after another ……..
You know? I know I didn’t go out of the water. You know? I don’t know why I didn’t go   out of the water. Here water is warmer ….warmer …warmer…..and very much hotter………hotter ….hotter…..hotter……hotter……hotter……..
You know? At last the water vanished away….yes…vanished away…….
You know? I also vanished away. But I became free. Yes, I’m free.
You know? I’m in the air on the water. Maybe, in the sky.
I am the eye of the sky.
And you know? I’m staying with various forms of lives here.
They are eyes of the sky. Of course I met my siblings here too. And you know?
We will go to the frog’s fallopian tubes as many eyes.
You know? Frog’s eggs are eyes.
You know? Eggs are eyes. Eggs are always looking at you in the water. Be careful if you  saw frog’s eggs in spring because they were eyes. And there are many eyes in the world.
You know? Never forget frog’s fallopian tubes.

(ねぇ、
僕は卵だ。
生まれてから僕はたくさんの兄弟たちと繋がっていたんだ。僕たちは自分たちが孵化する日のことを話し合っていた静かに。その後何が起こるのか僕たちにはわからなかった。僕たちのママが蛙だってことは知っていたけど。
僕たちは覚えている滑り台みたいな卵巣にも似た温かい風船みたいなママの卵管を。

ねぇ、
僕と兄弟たちはゼリー状の管のなかで手を繋いでいたんだ蛙ってどんなものなんだろうなんて話しながら誰もそんなもの知らなかったけど。
誰かが言ってた僕たちは通り抜けて置き去りにされる紡錘形みたいなものになるって。
誰かが言ってた僕たちは水の中で揺れる青草になるって。
誰かが言ってた僕たちは水の中を出て飛ぶ黒い形のものになるって。
でも誰も僕たちがどんなふうになるのかは知らなかったんだ。

ねぇ、
僕はママの卵管から離れてしまったのがすごく悲しかった。それからたくさんの兄弟たちと別れるのが本当に怖かった。僕はそのうちほんとにひとりぼっちになるのは知ってたよ。ママもいない、管もない、兄弟もいなくなるってことを。
僕は悲しくて悲しくて悲しくて悲しくて悲しかったよ……
僕たちは悲しくて悲しくて悲しくて悲しくて悲しくて悲しかったよ……

ねぇ、
僕たちはまるで奇妙な生き物みたいに水の中を蠢き回っていたよ。
お互いの醜い恰好を見て笑い合っていたよ。
僕たちはいっしょに蠢き回ったよ笑いながら笑いながら笑いながら。
それから泳ぎ始めたよ笑いながら笑いながら笑いながら。
それから本物のスイマーになったんだ。

ねぇ、
兄弟たちには足が生えてきてそれから次々に水の外に出て行っちゃった。
さようなら…さようなら…さようなら…さようなら…さようなら…って言いながら。
次々に。

ねぇ、
僕は水の外には出て行かなかった。どうしてかはわからないけど。
ここの水はだんだん温かく温かく温かくなってそれから。
すごく熱く熱く熱く熱く熱く熱くなって……

ねぇ、とうとう水は無くなっちゃった。そう。無くなっちゃたんだよ。
ねぇ、僕も無くなっちゃったんだ。でも自由になったよ。うん。僕は自由なんだ。
ねぇ、僕は水の上の空中にいる。たぶん、空にいる。
僕は空に浮かぶ眼だ。

ねぇ、
僕はここでいろんな形になってるんだよ。そのいろいろな形はね。空に浮かぶたくさんの眼。もちろん僕はここでもたくさんの兄弟たちに会った。それからね。
僕たちはたくさんの眼になって蛙の卵管に入っていく。
ねぇ、蛙の卵は眼なんだ。
そう、卵は眼だ。眼はいつも水の中できみを見ている。
もし春に水の中に蛙の卵を見たらそれはきみを見ているってことに気が付いて。
ねぇ、世界にはたくさんの眼がある。

ねぇ、
蛙の卵管のことはぜったいに忘れちゃだめだよ。)

 
∞  ∞  ∞
 
frog’s fallopian tubes(蛙の卵管)
フェイスブックに
唐突にポストされた言葉を掬い取る
初めてのエイ語の詩は
タイトルから始まった

You know? Frog’s eggs are eyes.
(ねぇ、蛙の卵は眼だ)
Eggs are always looking at you in the water.
(卵はいつも水の中からきみを見ている)

 
そうだった
幼いころ
田圃の隅に
とぐろを巻く透明な卵塊をよく見た
無数の黒い眼を見かけるたびに
ものすごく恐ろしかった
エイ語に四苦八苦して
内容は単純そのもの
卵から孵った蛙の兄弟たちがみな水から出ていき
自分は干からびて空に行く
やがて空で兄弟たちと再会し
春に再びfrog’s fallopian tubesから生まれ出るというお話
循環するお話

きょう
Creative Writingの授業で
マーク先生は
とてもよい詩だ、と褒めた後で
実はまったくわからないのだ
輪廻転生ということが……
キリスト教では
死は完全に終わってしまうことだから
穏やかに微笑みながら言った
I understand you but I believe reincarnation because I’m affected by Buddhism.
(わかります。でも、わたしは仏教の影響を受けており生まれ変わりを信じています)
Really? (ほんとかな)
自分に問い返す

ギンザの
マンションの一室で
占い師から前世の話を聞いたのだった
若い人のようにてきぱき仕事ができなくなって
屈辱感にまみれていた
朝まで眠れない夜が続き
その女性に会いに行ったのだった
藁にもすがる思いで

You know? At last the water vanished away…vanished away……
(ねぇ、とうとう水は無くなった…無くなってしまった……)
You know? I also vanished away.
(ねぇ、ぼくも無くなってしまった)

 
最後はニューヨークで学校の先生をしていましたよ
突然、アパートの窓から
誰かを待って窓の外を見る女性の姿が頭に浮かんだ
ニューヨークに行った方がいいですよ
たくさんの友達に会えます

前世って存在を
信じてみたい
眠れないほどの屈辱感と恐怖から救われるのなら
百年以上前
ニューヨークで違う人生を生きていた楽しく明るい人生だった
そう思うと気分が晴れ晴れした
ニューヨークに行く計画に
「よくできました」のスタンプをもらった気分だった
そのことを相談しに行ったわけではないのに
とっくに決めていたことなのに
その夜は朝までぐっすり眠った

Really? (ほんとかな)
自分に問い返す

You know? I also vanished away.
(ねぇ、ぼくも無くなってしまった)
But I became free. Yes. I’m free.
(でもぼくは自由になった うん ぼくは自由だ)

 
マーク先生はよく言う
自分はエジプト人とポーランド人の
血が混じってると
誇らしげに

田圃で蛙の卵塊を見かけるたびに
怖くなって走って家に帰った
あのころ
急な坂道を登って山の上の町に行き
そこをさらに横切って西に歩き
教会のある幼稚園に通った
礼拝の日は入口で神父様の前でひざまづき
パンを口に入れてもらったのだ

マーク先生
I’m sure you notice them.
(あなたは気が付いている)

百キロ以上はある巨体をジャンプさせながら
物語や単語の説明をするマーク先生
とても尊敬しています
エジプト人とポーランド人の血が混じっているあなただからこそ
たくさんの眼については知っていると思います

And there are many eyes in the world
(世界にはたくさんの眼がある)

 

………幼いころ
いつも誰かに監視されているように感じていたんだ
小さな集落や教会のある街はわたしを縛りつけるたくさんの眼だった
強い結束が絡み合った家族だった

街で駄菓子屋を経営する友達の家に遊びに行って帰り際
店のおばさんがピーナッツを3、4粒てのひらに載せてくれたから
一気に口に放り込んでもぐもぐやっていたとてもおいしかった
店のおじさんがそれを見つけておばさんに何か尋ね
「くれてやった」と囁く声が聞こえた
く、れ、て、や、っ、た、………眼はわたしを屈辱感で押しつぶした
お腹が空いても勝手にお店のお菓子を食べたりしないよ!
口にはできずにぐいっとおじさんの顔を睨みつけた

ギプスをした悪い足でピノキオのようにトッコントッコン坂道を下っていると
夕食の買い物を済ませた女の人たちの
「女の子なのにね」と立ち話をする声が聞こえた

ずっと人の眼が怖かった
ニホンで仕事がてきぱきできなくなったと感じたときも
人の眼が恐ろしくて眠れなくなったのだった
いや自分の眼だ
人の眼は自分の眼だ
とてつもなく深く捩じれたコンプレックスの闇だ

 

By the way, why did you choose frog’s fallopian tubes?
(ところで、なぜあなたは「蛙の卵管」を選んだのですか)
I found the words on the Internet by chance and had inspiration.
(インターネットでこの言葉を偶然に見つけてひらめいたんです)

I think the universe is full of frogspawn, twisted, entangled.
(宇宙はたくさんの捻じれ絡まった蛙の卵塊みたいなものではないでしょうか)
I think frogspawn has a lot of eyes watching me and they are also my eyes
watching myself.
(たくさんの卵塊はわたしを監視する眼です。たくさんの眼はわたし自身をも監視する自分の眼です)

教会の幼稚園の床にひざまづいて
わたしは毎朝毎昼毎夕祈りました胸で十字を切りました
「天にましますわれらの父よみなのとうとまれんことを
みくにのきたらんことを……」
幼稚園に行かない朝は
お仏壇にお線香をあげて拝みました
「きょうも一日お守りください」

I think the universe is filled of frogspawn, twisted, entangled.
(宇宙はたくさんの捻じれ絡まった蛙の卵塊みたいなものではないでしょうか)
I think frogspawn has a lot of eyes watching me and they are also my eyes
watching myself.
(たくさんの卵塊はわたしを監視する眼です。たくさんの眼はわたし自身をも監視する自分の眼です)

マーク先生
あなたはたくさんの眼に気づいているはず
(I’m sure you notice them.)
綺麗は汚い、汚いは綺麗、そんな眼です
(Those eyes are such that fair is foul and foul is fair)

今このニューヨークには
わたしを見るたくさんの眼はどこにもない

I never feel a lot of eyes watching me here.
(わたしを監視する眼をここには感じませんが)

YES, I’M FREE! (わたしは自由なのだ!)

Oh My God! Frog’s fallopian tubes are Chinese dessert ingredients!
(なぁんだ!それはチュウゴクのデザートの食材だよ!)

教室中にどっと笑いが起こった
チュウゴク人もフランス人もカンコク人もイタリア人もニホン人も
みんな笑った
教室が渦になった

You know?
We are moving in the water together.
We are laughing with each other
We begin to swim laughing, laughing, laughing….
(ねぇ、
ぼくたちは一緒に水の中に出て行った
ぼくたちはお互いに笑い合っていた
ぼくたちは泳ぎ始めた笑いながら笑いながら笑いながら……)

 
Let’s go to China town tomorrow!
(明日はチャイナタウンに行こう)
frog’s fallopian tubesを食べるのだ

チャイナタウンで
わたしの中のたくさんの眼も
いっしょに
食べてしまうのだ

 

 

※文中Fair is foul and foul is fair(綺麗は汚い、汚いは綺麗)はシェイクスピアの「マクベス」より引用