おと

 

藤生 すゆ葉

 
 

                   、
                       、
                       、
                 、
   ー
           。

そこには音を奏でる方がいた
肉体を使って音を創り出してもいた

その音は
黄色と黄緑と水色、透明

霧のような、粒のようなそれらが
ふわっと風のように流れていた 

音を聞くと色がみえる

そう思った

学生の頃、イヤフォンを通して
音を聞いていた

頭のなかに映像が流れ
同時に目で見える現実の映像もあった

頭の映像を止めたくて
音を聞くのをやめたことを思い出した

そう、音は色であり、映像をも創り出す

昔知っていたことを思い出す

音、色、映像

全てをつなげる肉体
人間という器は複雑だ

知らない世界に連れ出してくれる音

魂が弾ける光も
 愛おしい、おと

生命の

 

 
  ・
 

 

-解説-

ある空間での“音”によって、人間としての肉体感覚や過去の経験を思い出した。
音は色や映像をつなげ、自身が人間であると再確認させてくれる。

誕生しては流れて消えていく音、発する側や受ける側によっても色を変える音。
日常の空間でも音は彩りを添え、新しい世界に連れ出してくれる。
それは、生命の誕生とも重なる。
産声、という愛おしい音も地球という新しい世界に連れ出してくれる音。
誕生しては消えゆく愛おしい生命、音は生命がはじまる、こえである。

 

 

 

ゆめのおはなし

 

藤生 すゆ葉

 
 

にゃーっにゃーっ。
海猫の声で目覚める。
内陸だが浜辺にいる気分になる。
この音色は2月になった合図でもある。

ぼーっと呼吸しながら、時を感じる。
大切な夢をみた気がして、時を辿る。

あぁ、そうだ。

「地球は感情の図書館だ」

夢の中で教えてもらったことを思い出す。
誰かから言われたというよりは図書館の映像に言葉が内側から入ってくる感覚、
不思議な感覚。

目覚ましのスヌーズを消し、出掛ける支度をする。
お湯を沸かし、茶葉を泳がせる。

図書館は私たちが求める資料や情報を提供してくれる。
文字と心が寄り添うことで、人生を追体験するような機会もくれる。
地球は求める感情を体験する機会をくれる。
そういうことなのか、

様々なジャンルを好む方もいるし、SFばかりを手に取るように、
きっと地球というところも。

なぜかふっと軽くなった気がした。

つぼみだったグラジオラスが咲きかけていることに気づく。
美しい生命だ。

もしかすると生まれてくる前に予約をした感情を体験することもあるかもしれない。
きっと思い出したくないようなこともあるかもしれない。

でも、今、
そう、今からはあたたかくて美しい本をたくさん借りて読む。
すべて自由。
そう決意して、あたたかい光のなかで風を感じた。

 
愛を感じた。

 

 

 

サボテンの花

 

有田誠司

 
 

珈琲飲みながら 煙草吹かして 
部屋のサボテンの棘の数 数えてる

棘で武装した小さなサボテン
そんなに構えるなよ
世の中 悪い奴ばかりだけどさ

また嫌な事 眠れない夜
悪いのは全部アイツのせい それでいいじゃん

お前が救われるなら
棘だらけのお前にも花は咲くんだろ
見た事無いけど

見せてくれよ いつかきっと

あれこれ探し回るより
目の前にあるものから
良いもの選びなよ
ちゃんと目を開けて

悪い奴ばかりじゃないかもしれないよ

そう 咲かせなきゃ 
もう直ぐ春がくるってのに 咲かせなきゃ

 

 

 

MARIA

 

有田誠司

 
 

病室の小さな窓辺
其処から見える世界 それが全て

詩人達は皆んな狂っているんだろう

遠くの空を自由に飛ぶ鳥の姿を
ずっと見ていた

僕の大好きな君の詩は 今でも胸の中に
その祈りにも似た言葉は
君の命そのものだった

また君の詩が読みたい

神様お願い あの娘をかえして

 

 

 

魂の行き場

 

有田誠司

 
 

自分を見つめ直すと思い出す 
あの懐かしい街並み

直ぐに剥がれる化けの皮 
罪と罰に抱かれた夜

光無き暗闇

地下を徘徊するドブネズミ達

血と肉と魂と
リアルな言葉と その重みを知れ

何処へ行く 誰に届く この言葉

魂の行き場を探して 

 

 

 

さち

 

山本育夫

 
 

たったっ たったっ
あしおと か おいついてくる
たれの おとか 
ふとうはたけ の なかのみち
おいつき おいこされる る
おいこしていったのは たれ? 
うしろすかた しか みえなかった た
たったっ たった

たれか か うたっている る
こえか つきに おいかけてきた ららら

いつも なにかか おいかけてきて
おいついて おいこしていく くくく

ゆめは はかない と
たとぅー を いれた ちふさ か
ゆれている んたろうね
そのたひに

そのたひに さちあれ れ

とおい ていほう から
いぬとひとと こちらを
みている 

みんなに
さちあれ 

 

 

 

車椅子の少年

 

有田誠司

 
 

独りぼっちで死ぬのは怖いから
君が死ぬ時には僕も死ぬよ

息苦しくて目が覚めた
マスクもしてないのに
呼吸するのが苦しいんだ

僕は家の中の酸素が少なく感じ
フラフラしながら外に出る
大きく息を吸い込むけど息苦しくてたまらない

また同じ夢を見た

小学校の時の友達 坂本君だ
僕は思ってる事が上手く言葉にして喋れない
人が普通に出来る事が出来ないんだって

お母さんや学校の先生がそう言ってたよ
僕のたった一人の友達だった坂本君

小さな頃は生きてる事って不思議でさ
死んだら人はどうなるんだろ
この感情はこの感覚は
何処に行くのかな
怖いよ怖くて怖くてたまらないよ

そんな話をして震えてた

坂本君は僕に言ったんだ
独りぼっちで死ぬのは怖いから
君が死ぬ時には僕も死ぬよ

坂本君の車椅子を押しながら
いつも一緒に学校から帰ってた

動物園みたいな学校で
少し人と違う姿をしてる人ばっかりだった
皆んな仲間だからねって先生は言った
仲間なんかじゃないよ
僕はそう思ってたけど
誰にも言えなかった

独りぼっちの僕に
優しくしてくれたのは彼だけだった

繰り返し同じ夢を見る
あんなに怖いって言ってたのに
一緒に死ぬよって言ってたのに

息苦しくて目が覚めた

坂本君の車椅子を押しながら
話をしてる
また同じ夢を見た

車椅子の少年はもう居ない

 

 

 

僕の普通と君の普通

 

有田誠司

 
 

君は朝起きて顔洗って歯を磨く
トーストと珈琲
仕事に行って帰宅して
家事を済ませて風呂入ってまた眠る
毎日こんな感じの普通な日々

僕は病院のベッドで目覚める看護士さんに支えられ車椅子に座る

左手足は僕のものだけど僕の意思では動かない
目もあまり見えない
二重にボヤけた世界が見える
左耳は聞こえなくなった
1日のほとんどをベッドの上で過ごす
許されてる事は
窓から外を見る事と
夢を見る事
毎日こんな感じの普通な日々

見た目はいたって普通だよ
周りの人達にはわからない
先生も言ってた
だって手足も付いてるじゃないかって

だけど僕のものじゃない
無かったら良かったのにね
それなら皆んな直ぐにわかるもんね

普通じゃないけど僕の普通

君は普通だけど普通じゃないよ
だって君は何処へでも行けるのに何処にも行かない
背中にある羽根に気が付いてない

勿体ないね 僕は少し笑った