なりすましのバラード

 

工藤冬里

 
 

一行目を抜かれて
すでに発生していた
わたしはすでに発生し啼きはじめた
蛇腹を震わせ
音図ozと立ち上がった
ozOzと進路がずれていくことはわかっていた
ずれた
ずれたままバスは進んだ
透析の血に脳が追いつかなかった
即ち脳は萎んだ
脳は谷を越えた
谷を越えて脳ははしる
血に追いつけないまま
脳を凋ませている

* *

置き換えられた枕に
良く似た顔のidol
かどみせのグレーヘアー
セブン・シスターズ
現実逃避は大好きなんですけど 銀化するんだよね
その通りですね全くその通りです
羽織り乍ら言う
そのようなことがあったとしてもひとつづつなくして
不義に顔を顰める
南洋の髪型に
緑を流す
水鳥の首
馬場はどうなっちゃったんだろう
あのやもめの子はどうなっただろう
軽天の時は飴玉を皆に分けていた
この体制での居住は一時的なものなのでリフォームしたりはしない
寝間違えたまま例えを使う
カイツブリだ
イボイノシシよ
進歩していない老人が
江戸っ子っぽい不完全さで
おしえをしろめる
山腹に点在するうつ伏せのマンゴー
目を閉じて階段を塗る
そこまで悪くなるのです
クビは簡単
タレ目で頷く良心
思ってもいない時刻
すでに火は点けられた
安全のうちに破棄してください

* *

蟻浴するカラス
大久保の夜空に雲
ルビが逃げていく
赤い蜘蛛の子らのように
赤い 引き潮
百人町の 喜久井の
約束の地に川はなく
知らない耕作法を学ばなければならなかった
4月後半から9月まで雨が降らなかったので
豊作を紐の字の主(バアル)的曖昧に縋った
東京の夏もいちばん長い日を前に天気の子に縋っていた
脳梗塞の前に
弱さとレインボーがタッグを組む
哲学は人の自然な願いに付け込んでいる

* *

さてその頃
一行目では彼が死んでいた
透析の血に脳が追いつかなかったのだ
見舞を仕舞った最期の日(八月六日)
数日前に見覚えのある、三つの棒のような入道雲を彼も描いていた
はんぶんインド人の孫たちが病室でそれに着色していた
りんごはごりんじゅうの祖父の顔を見て失神した
石鎚に雲は立つ
帰ってみれば
「サンダル下駄の感触が秋だった」

 
 

 

 

 

「夢は第2の人生である」あるいは「夢は五臓六腑の疲れである」 第75回

西暦2019年皐月・水無月蝶人酔生夢死幾百夜

 

佐々木 眞

 
 

 

町内会長が、駅前広場の真ん中に座りこんで、「オラッチは町内会費をちょろまかしてモンブランの万年筆をたった70円で手に入れた」と自慢していたら、たまたまオート三輪で通りかかった男がそれって犯罪じゃんというてエンジンを吹かした。5/1

A社の思い出撮影機のお陰で、私の父の映像は、かつてない鮮明さと、深みを、併せ持つようになった。5/1

鍾乳洞のように真っ白な巨大なU字溝の下を、高速鉄道が走っている。少女とムク犬がU字溝をぴょんと飛び越して、向こう側に行ったので、私も真似をしようとしたが、怖くてできないので、U字溝の内部を歩いて、昇り降りしながら彼らの跡を追った。5/2

そこは70年代の夏の以前どこかで見たような街だったが、どこかから性風が吹いてくる。ミモザの花の香りだ。これが吹くと、男も女もセックスをしたくて堪らなくなるのだ。とある店先に、さっきの少女が座っているが、この店の主人に抱かれる順番を待っているようだ。

目の前を、やたらと奇麗で淫美な女たちが、行き来している。どれでもいいからいい女を早く捕まえてモノにしよう、と焦っているのだが、選択を誤るとヤバイ結果になるに違いないと思うと、なかなか手が出せず、ますます焦り狂っているわたし。5/2

おらっちはロイヤル・シェイクスピア・カンパニーで「テンペスト」を演じているんだが、途中で腹ペこになってしまい死にそうだが、ここで止めるとみんなから怒られそうなので、じっと我慢してる。5/3

L社では、年に一度軽井沢でお客様を招いて、特別謝恩会を開催している。今年は売れっこふぁっちょんアイコンのヨシダヨシコ嬢が登壇しておしゃれセミナーを開始したが、客層とかけ離れた自慢話ばかりだったので、30分もたたないうちに誰もいなくなった。5/4

朝夷奈峠のてっペんまで登ったら、オオシマさんがいたので、アクアの新車には自動停止装置がついているのかどうか、を尋ねたのだが、彼がいるのは、なんせ奥深いほら穴の中なので、声が反響して、なにをいうているのか、てんで分からなかった。5/4

その施設が丸焼けになってしまったので、焼跡を見に行ったのだが、その入口にまだ辛うじて残されている「千客万来」の歓迎の辞が、哀しかった。5/5

映画を鑑賞しながら世界1周するクルーズツアーの最後の晩餐会で、出てきた豪勢な料理をおいしく頂戴していたら、サイトウさんが鍵を呉れた。きっとこれで荷物をロッカーに入れてからレジで精算するのだろう、と思いながら、なおも喰っていたら、誰もいなくなってしまった。5/6

真夜中に物音がするので階段を降りて明かりをつけて居間をみると、チュウチュウネズミがとうとう罠にかかってもがいていたが、10連休の間、林檎を食べたり、ドアを齧ったり、糞をまき散らしたり、悪さのし放題だったので、誰からも同情されなかった。5/7

半永久的に戦前のはずだったのに、新年号に切り替わってから突如戦中になってしまって、ほとんどの若者が徴兵されてしまったが、私は透明人間に変身したので、何枚赤紙が舞い込んできても、平気の平左で銀座通りを闊歩できるのだった。5/8

官憲の弾圧が、だんだん酷くなっていた。まだ召集されない大学生たちは、喫茶店や定食屋にたむろしていたが、時々やけくそになって素っ裸になり、裏通りで、「猫じゃ猫じゃ」踊りをおどっていた。5/8

このほど○×党に納品した×○社製作のCMは、かなりシュールなテイストに仕上がっているが、担当者の凸凹部長によれば、それは編集の隠し味として、随所に2人の人妻の嬌声を入れ込んだからだという。5/9

東京駅からスカ線に乗ろうと思ったが、気が変わって久し振りに市電に乗ってみたら、東京は全面的に昭和の風景だった。運転手が気まぐれな奴で駅でもないところで勝手に止めて、客と一緒に楽しそうに酒を飲んでいる。5/10

そうだ、ついでに昨日無くしたカバンを探そうと思って、運転手に頼んで展示会場駅まで行ってもらったが、あんなに数多くのバイヤーたちで賑わっていたのに、驚いたことには建物の影も形もない。5/11

戦争になったので、急に物不足になり、八百屋に行っても私の好きなミカンやイチゴもない。なんとかしてくれえやと怒鳴っていたら奥の方から親父が10個500円の格安で林檎を出してくれた。5/12

私の授業は、学生が少ないので、いつも1つの丸テーブルに座ってゼミを始める。今日は全部で10名だったので、私は「さあ今日は2人づつ5つのグループに分けるから2人一組で他のチームと闘論してくれ給え」というて右手で4回手刀を切った。5/13

困っているその子に向かって、「将来はどんな仕事に就きたいの?」と親切な振りをして訊ねてみるのだが、いかなる言葉も発しようとはしない。5/14

早く早くと急かされて駆けつけるとなんと昔別れた女の結婚式だった。相手の男も私よりも遥に男前で堂々としており、羽振りもよさそうで、私はなんとなく引け目を感じてうなだれていた。5/15

ホテルのバーで人と会う約束があったので、先に来てジュースを飲んでいたら、周りの人たちが次次に斃れていく。後で聞いたらどうやら全部のアルコール類に毒が入れられていたらしい。医師の禁酒命令を守っていてほんとに良かった。5/16

その外国人の女を殺したのは私だが、そのことは誰も知らないと思っていたのに、ある朝彼女の家族と称する人たちが突然我が家に押し寄せてきたので、冷汗三斗のわたし。5/17

アジアの片隅でほっそりとした夜の女が近付いてきて、身をひさごうとしたので、どうしようかとひるんでいたら、その後にその女の夫と子供と思われる2人が物陰に潜んで事の成り行きを見つめていたので、驚いて逃げ出した。5/18

私が入っている刑務所ではどんどん人が増えるので、不審に思って観察していると、真夜中になるとこの国に押し寄せた世界各国からの難民が、三食昼寝付きの安住の地であるこの国立刑務所に潜り込むことが分かった。5/19

ビルの通路の向こう側の植木鉢の葉っぱに蝶の幼虫がくっついているのが分かったので、コウ君と一緒に駆け寄ったがいつまで経っても辿りつけない。善チャンも出てきて手伝ってくれたが見つからないので朝食をとることにしたが既に済ませているコウ君はどうしよう?5/20

絶海の孤島で絶世の美女と2人だけの生活をしているのだが、3日間にわたる壮絶な性生活を終えることなく私は絶命していた。5/21

ハ長調のドは分かるが、ト長調とかへ長調のド、まして変ロ短調のドがどこなのか、そしてそれらはピアノのどこを弾けばいいのか、がさっぱり分からなくなっていたので、パニック寸前のわたし。5/22

「大川周明の3つの遺言を聞かせようぞ!」という声が聞こえたので、外に飛び出すと、幸福の科学の大川隆法が街宣車に乗って叫んでいるのだった。5/23

犯罪に巻き込まれた私は、無実を証明するために、私が映っているビデオを証拠品として警察に提出したが、それは私が誰かに脅されて誰かの寝室に連れて行かれると、そこには近所の奥さんが横たわっているよという実に珍妙な代物だった。5/24

いつか夢見た夢をまた見ようとして特別ドレームフェアなる催しに出席しているのだが、会場に設置された即席簡易ベッドの中で何回トライしても、絶対におなじ夢を見ることはできず、途中から他の夢に変わってしまうのだった。5/25

将軍は私らにカレンダー付きの鍵を呉れたのだが、その鍵は1日に2回しか使えないので、私らは往生した。5/26

獅子舞になって子供の頭を1回がぶりと噛むと100円頂戴するという仕事で長年にわたって生き延びてきたのだが、少子高齢化の大波に呑みこまれてもはや二進も三進もいかなくなっていた。5/27

前回は2500回だった名人の連続太鼓叩きは、今回はなんと8500回という驚異的な数値に達し、わたしら弟子どもはただただ怖れ慄くしかなかった。5/28

その男は時代がバブリーになると謹厳実直に、バブル期が終わると途端に衆酒池肉林状態に突入するという特色を持っていた。5/29

若い女性モデルたちを石垣の上に横一列に並べて撮影しようとしているのだが、言うことを聞かないで勝手に動きながらおしゃべりしている彼女たちに頭にきているカメラマンの私。5/30

パン屋の私の前に、突然見知らぬ女が現われて、むかし学生時代に私との間に子をなしたが後に堕したというのひと違いではないかと驚いているが、梃子でも動こうとしないで、私が作ったアンパンをむしゃむしゃ食べている。5/31

大宴会で合計8皿のフルコースの御馳走が出されたので、夢中で食いまくったが、だんだんお腹が痛くなって来た。しかも最後の7皿目と8皿目しかそのメニューを覚えていない。豚に真珠とはこのことなり。勿体ない限りだ。6/1

マエダ女史の紹介でサンダース氏に会った私は、彼から懇切丁寧にフライドチキン事業経営のノウハウを伝授されて大感激した。6/2

疲れきっていたが一睡もできずにいた私の頭の中では、あの悪名高いハズキルーペのCMが朝まで流れ続いていた。6/4

土曜夜の試写会でゴダールの新作映画「スプラッシュ」をみていたら、「これから私はしろうやすの世界を立ち上げるんだ」とゴダールが呟いていたので、近くのカフェに入ってコーヒーを飲んでいたら、なんと鈴木志郎康氏がいたので、かくかくしかじかと報告したが、「あ、そうですか」というつれない返事だった。6/5

240円で出来立ての冷たい薬?を売っていたので、私はすぐさまそれを買った。6/6

妻が足利学校の校長になるという話を聞いて、私は耳を疑った。妻もどうしてそうゆう次第になったのかについてまったく知らないという。足利に移住して、就任の挨拶の原稿はたぶん私が書くことになるのだろうが。6/7

テレビ局で仕事をしているヤシマ嬢のシャツの上に「ネコテペス」という意味不明の西洋文字が刺繍されていたので、私はさりげなくその「ネコテペス」を触ってみた。6/8

巷の噂では、この食堂では蛇や猫や人間の肉まで惜しみなく味付けに投入しているので、ラーメンのみならず何を喰っても旨いという定評があったが、臆病な私にはあえて試してみる勇気はなかった。6/9

ついに宿敵と相まみえた日、私は腹を撃たれるのを避けるために左半身に構えながら、右手で握りしめた拳銃で、彼奴のどてっぱらに熱いダムダム弾を撃ち込んでやったのさ。6/10

今は江戸時代なのだが、その隠密は100メートル10秒フラットの記録保持者なので、藩主が参勤交代をするたびにその先導役として東海道を何度も往復して安全警護に貢献したので、ついに第3家老に出世したそうだ。6/11

病院長はその患者は政治的に特別に重要な人物なので、財前教授とその反対派の有力教授の2人が1日おきに完全かつ徹底的に看護するよう厳命を下した。6/12

2人の宿命の対決が始まった。2人とも抱いて殺して煮立った鍋に投げ入れた女をもう一度甦らせよと天主から命じられたので、懸命に祈りを捧げているところだ。6/13

水兵の私は軍艦に乗り込み、敵艦の外壁にとりついてガリガリ穴を開けようとしていたが、味方のコンパス銃は0.1ミリ口径、敵は0.3口径なので作業が捗らず、先に撃沈されてしまった。6/14

せっかく新床教授の授業に出ようと早くから下宿を出たのに道草を食って開始時間を5分過ぎてしまった。2人連れの学生にEW教室がどこにあるのか尋ねたら、「今日はもう諦めて、助手のフクダさんに来週から出るからよろしくと根回ししといたほうがいいですよ」と言われた。6/15

お上の不在を衝いて私は裏山のウサギ穴に潜り込んで、秘密の財宝を探し出そうと意気込んだが、穴があまりにも深すぎて帰り道を見失ってしまい、途方に暮れている。6/16

手や胸や腹が痒くて痒くて堪らないので、もう狂ったように目茶目茶に掻き捲っていると、突如得もいわれぬ快感がどこかから湧き起ってきて、これはいかなる生理現象に起因するのかと考え込んでしまう。6/17

私は新種のサルだったが、友人サル宅を訪ねて玄関口の靴脱ぎの置き石の断面を見ると、「令和はかなし」と刻んであったので、これは「令和は悲し」と読むべきか、はたまた「令和儚し」と読むべきかいずれとも決めかねてその場に立ち尽くしていた。6/18

「佐々木眞文学全集」のどの箇所に「世界最短詩の試み」が挿入されるのかを、いちいち検証していくので、眠るに眠れない夜だ。6/19

「2年間あんたをよその飛ばして悪かったけど、今月からまたうちの課の戻ってもらうから、すぐに来年度予算を案を作っといて」とタナカ課長は平然とのたまうのだった。6/20

息子にいい嫁を見つけるために、ゴッドマザーはどんなことでもした。朝から晩まで影のように息子に張りつき、息子の目となり手となり足となって、よさそうな女性を血眼で探しまくったのである。6/21

お父さんの仕事の都合で離れ離れになっている私たち。お父さんは田舎の実家に、私はお母さんと一緒に都会の一部屋で暮らしている。お父さんは「もうちょっとでみんな一緒に暮らせるようになるからな」、というて私を励ましてくれた。6/22

その男は、いやあ美味いなあ、ウマイ、旨いと言いながらその料理に舌鼓を打っていたが、良く見るとその口元は○というより△なので、小さな魚などはどんどんこぼれて逃げ去っていくのだった。6/23

半世紀ぶりに訪ねてみると、その下宿はいまなお京都の左京区にあった。私が2階の部屋に入ると2人の大学生がいたが、構わず押入れの中を開けると、その中には私がこの部屋の住人であった頃に買い集めた「世界文学全集全100巻」がそのまま出てきた。6/24

また新しい戦争が始まりそうなので、私はアシスタントの女性に命じて長さ10メートルの鋭く尖った竹竿をたくさん用意させた。いったん事があれば、これで雑兵集団を武装して敵に先制攻撃を仕掛けるのだ。6/26

ネーミングに関しては業界ナンバーワンの私は、完成まじかの高層ビルを見学しながら、その呼称を考えていたが、その間にも世界中の建設業者からネーミング依頼の電話が殺到するので、脳味噌が破裂寸前だった。6/25

まったく仕事がないので新企画をでっち上げて某出版社の重役に売り込んだら、幸い興味を持ってもらえた。その夜西麻布のバアで重役の意を受けた坂谷由夏似の編集長に会ったのだが、完全に化けの皮を剝がれてほうほうのていで逃げ出したわたし。6/27

生まれて初めてみたアフリカのセネガル映画があんまりおしゃれでシックで素晴らしかったので、会う人ごとに吹聴していると、ふぁっちょん評論家のフジオカさんという方が、「あらあなたご存じなかったの、セネガルは最近モード界でも注目されているのよ」と仰った。6/28

「今後のあらゆる創作基準はこのメートル法原器に準拠していきます。これは「2001年宇宙の旅」で原始猿が初めて他者を殺害し、宇宙に抛り投げた堅骨片の長さと形状と重量に匹敵します」と私が宣言すると、一同は諾諾諾!とうべなった。6/29

いつまで経っても大学を卒業できない私は、真夜中に突如その原因に思い当たった。毎年の新学期に履修科目を登録していないし、学校に行かないし、授業も試験も受けないから何年経っても卒業なんかできるわけがないのだ。6/30

 

 

 

家族の肖像~親子の対話その40

 

佐々木 眞

 
 

 

インドネシア、飛行機乗っていくの?
そうよ。
インドネシア、インドネシア、ジャカルタ。

花盛りって、なに?
お花がいっぱいのことよ。

9トン、なに?
キュートン、キュートン、なに?
9トン、9トン、9トン、
あ9トンね。トンは重さよ。

蓮は水の中でしょ?
そうだよ。
水は湛えるの?
そうだね。池は水を湛えるよ。

満足って、なに?
良かった、良かった、よ。
余は満足じゃあ。余は満足じゃああ。

お母さん、ぼく、ラーメンマン、好きですお。
戦えラーメンマン! 逃げるなラーメンマン!
(何も言わずに逃げるコウ君)

お母さん、警報って、なに?
これから地震が来るとかの、お知らせよ。

お母さん、無条件って、なに?
条件なしに、よ。

お父さん、さまざまって、なに?
いろいろ、ってことだよ。

お父さん、めったに、って、なに?
千にひとつのことだよ。

お母さん、割引は、安くなることでしょ?
そうねえ。
割引、割引。

お母さん、悔しいって、なに?
「クヤシーイ」ってことよ。コウ君なんか悔しいことあるの?
ありませんよ。

お母さん、交通ルールって、なに?
信号をマモル!
そ、そうですお。

めったにって、なに
ほとんど、よ。

お父さん、特別扱いはダメでしょ?
それはダメだね。

疑っちゃあ困る、でしょ?
そうだね。
疑っちゃあ困る、疑っちゃあ困る。

お互いって、なに?
それぞれの人が、だよ。

知っているとも、よ。

お父さん、たくさん揺れるのは、京浜急行だよね。
そうだね。

お母さん、ほがらかって、なに?
いつもニコニコよ。

お父さん、「運ぶ」の英語は?
キャリーかな。
キャリー、キャリー、キャリー。

エラーは、失敗でしょ?
まあそうだね。

メッセージって、伝えることでしょ?
そうだね。

麻薬って、なに?
まあ、そのお、悪い薬だよ。

お母さん、いっさいって、なに?
全部よ。

あらコウ君、だめじゃない。チョコ全部食べたでしょ?
ごめんなさい。
1日に1個だけにしなさい。
ごめんなさい。

お母さん、ニラは餃子のときでしょ?
そうね。

お母さん、尊敬って、なに?
素晴らしいと思うことよ。

お母さん、ヤマモトヨウコ、印刷してね。
はい、分かりました。ちょっと待ってね。
ヤマモトヨウコ、ヤマモトヨウコ

お母さん、浄水場って、なに?
お水をきれいにするところよ。
浄水場、浄水場、浄水場。

お父さん、森は木が3つでしょう?
そうだね。確かに3つだねえ。

ぼく、プーサンです。
プーサン、こんにちは。

お父さん、静かに、の英語は?
ビー・クワイエトかな。
ぼく、静かにしますよ。
そうだね。

成積って、なに?
やった結果のことよ。

お母さん、魂ってなに?
心です。

ノリユキ君のお父さん、亡くなったの?
そうよ。

 

 

 

「少女」

 

小関千恵

 
 

 

胸より大きな球体を詰まらせて

真夏の商店街をワニのように歩いていった

立ち止まれなくて

まだ無くしてもいないものを先で探そうとする

空事だけをさらけて進んだ

 

赤い手に撫でられなければ死さえ生きられなかった

箱の中の

青草の中の

「少女」という輪郭

即物者たちが慌てふためき抽象は撤去された

 

月が落ちてきたみたいに視界の全てを白く覆った

還る場所に

まだ温度はありますか

この世界で

撫でられた肌が永遠であった証明を

何度でも

何度でも

2つ椅子を置くこと

“I’ll keep it with mine”

父権よ

少女と呼ばれた誰かはあなたではないか

箱の中のものを出せるか

 

いつか

母とふたりきり

月の色をした最初の部屋で

吹き戻る

 

 

 

裏にバーコードが付いているような判断のしかたで

 

駿河昌樹

 
 

簡単には言い切れないことを
もどかしく
ぶつぶつ
時には陰々滅々と
ことばならべしていくのが

だと思ってきたので

きりきり言い切り
あちこちから借りてきたような表わし方や
裏にバーコードが付いているような量産品的な判断のしかたで
髪を突っ立てたIT企業の社長や
半グレのトップみたいな「後悔?無関係だけど?」的な口調で
そこそこ高価なスニーカーみたいに
キッ!
キッ!
と歩くたびブレーキやアクセルを利かせて
八方美人に小利口にしゃべってるのを見ると

ヨシモト
にでも
行ってやったら?
と思う
政府からは100億円貰っているそうだから
潤う
と思うよ
それなりにさ
と思う

(もっとも
(いま起こっているのは
(旧来の日本型裏社会の掃討
(ヤクザなんかより遙かに情け無用の国際金融資本が
(この列島をいよいよ直接統治するために
(これまでノシてきた幇間屋を潰しにかかっているところ
(政治の世界も同じで
(新たな真の民主主義の可能性が見えてきた……
(なんて夢を見ていると
(いつのまにか安手の軍靴を履かされるようになるよ
(きっと

(おっと、
(これ以上は言えない
(言わない
(シュールレアリスム詩の形体や
(キリスト教系神秘主義詩の形体や
(イスラム神秘主義詩の形体でも
(ひさしぶりに蔵から出してこないことにゃ……

 

 

 

I Want You

 

今井義行

 
 

おたがいに
I Want You です

もしも 私たちが結婚できるなら
アルジェリーはドーハで労働契約を更新しない

2020年の話 ─ ─

2020年の6月に私たちは
フィリピンで
教会結婚式を挙げるつもりである

私は障害者である上に
とても 貧しい

しかし あなたは
ビデオ通話で 白い歯を見せて 笑うのだ
「ノウプロブレム 」

Facebookで知り合って
2016年からのつきあいになるね

実現するのなら

あなたは
結婚ビザを得て
日本で 労働契約をする
輝く場を獲得する

そして
次女の アンジェラが
学校を卒業したら
フィリピンから日本にきて日本で活躍する

それが おたがいの
I Want

あの日・・・・・・・・・・・・

「肌のいろが醜いよ」
こころにもないこと言っちまって
遠距離で口論になった

「ええ、あたしは醜い」
「ええ、あたしは醜い」
「ええ、あたしは醜い」

貸すよと言ったおかねを貸さずに
ブロックしてしまった
まわりに反対されたから・・・・・・・・・・・・
醜いのは、私の方。

あなた、よく私を赦せたな
その寛容さは
一体 何処からくるのか

ローマンカソリックか
あなた本来の 人格か

きっと 両方だね
私はあなたに敬意を持つようになった

約束するよ

私はあなたを しあわせにします
私はあなたとあなたの家族を愛しぬきます

あなたのパパもママもきょうだいも私の妹家族も
私たちは 1つの家族になる

みんなで 大きな家族になるのだ

そんな簡単な話じゃないことは
わかっている ────

2020年にも
入国管理局は 厳格だろうし
私は 生活苦に瀕してもいるだろう

けれど 午前2時 今日も
あなたは ビデオ通話で笑う
「ノウプロブレム」
褐色の肌のあなた
チキンステーキを頬張りながら私にメモを見せる

2020年6月までの
経費の 試算書 ────
足りない分は 持っている人が助ける
「私たちは、家族ですから
できないことは ないです」

「私は力を尽くすよ、アルジェリー」
「前だけを見るのよ、ユキ
私は、日本で死ぬまであなたと暮らしたい」

「OK 何の異論もない」
「フィリピンに土地があるの
そこに6部屋のアパートを建てて
私たちの 副収入にします」

「プロパティ、
それは 私たち2人のものです
あなたが働けないなら
私が働いて助けます
私たちは夫婦になるのですから!」

2020年の1月には
私はフィリピンに渡り彼女と合流する
私たちは 40日間を
彼女の家族たちとともに過ごし
婚約者として 紹介される

それから私たちは
次女のアンジェラと3女のペンペンと
いっしょに
ボルケイビーチへ行って太陽の光を浴びる

私は太ってしまった体を
からかわれながら
家族と 水しぶきを浴びせあうだろう

それが おたがいの
I Want

アルジェリーは
日本の工場で働きたいと言っている
私は
アルジェリーに言っている

「ユーハヴアチャンス」
「ユーハヴアチャンス」

そのような話 先日
作業所の 施設長の岩崎女史にしたら
しばらくしたのち

「うひゃあ」としりぞいていた
生活保護予備軍の私から
まさかそんな話が飛び出すと思っていなかったのだろう

「でも、素敵だわ
大変だとは 思うけれど、、、、」

「おたがいに
IWant You なのです
作業所の みんなが おたがいに
IWant You で あるように」

「私、良い 結果を
祈っているわ ────」

「どうもありがとうございます
それでは 今日は
これで 上がります ────」

 

 

 

“何をどのようにどれくらい” *

 

午後の浜辺に
人びとは

いた

泳いでいた
子どもたちを波に遊ばせていた

犬をつれて

浜を
歩く婦人もいた

フナムシと蟹が波を避けて
消波ブロックに

這うのを
見てた

フナムシや
蟹や

人は

波を避けて
這う

波を避けて這う

モコは
暑いから付いてこなかった

“何をどのようにどれくらい” *

見つめれば
現われるのか

遠景には

物語があり
近景には死者がいた

韮の花の

白く揺れるのを
見た

渦巻いていた

 

* 工藤冬里の詩「何をどのようにどれくらい〜漢字だけ読む」からの引用

 

 

 

何をどのようにどれくらい〜漢字だけ読む

 

工藤冬里

 
 

三ヶ月は久し振りだった
背景は黒勝ちだった
耕運の歯ががしがしと笑気だった
富はフリーダイヤルに
触角で死化粧に勤しんでいた
度の強い子供
黒幕がある限り
白髪対眼鏡
望まれることを
しらす丼に
集い
水晶体に黒花火
七三哺乳
複雑にしないで焦点を
イントネーションに合わせないで
体全体は明るい
条件の良い挑戦
南予か
観葉百手
落雁のがしっと
尾崎
グラ歯
マツエク
首の輪
金のカレンに
トランスパラントな空色を塗り黄緑を塗り
漢字だけ読む
それが黄色懸かる
引き続き黒が勝っている
アフターからの取り戻し
しかし黒い
長浜は燕が沢山いたな
サバは保冷皿に貼り付いていた
高校は小さかった
最初は赤ではなく金色だった
マジックアワー
ブリックロードに影無く
何をどのようにどれくらい
暴虐の雲光を覆い
リュミエール兄弟
二十年でお別れ
若やぎ
クバリブレ
母音抜き
裕福
殺した後は何も出来ない
何をどのようにどれくらい
彼のゾーエーは彼へのもののあらわれからは結果しない
黒薄れ
黒薄れるな
ちゃん付けされる閉じこもりの黒
黒光り
今夜命は取り上げられる
嗄れ瓶
白とは偽善
知られるようになるのは偽善
時間を空間的に付け延ばすことは出来ない
瞼の裏で抽象

 
 

 

 

 

訪問者

 

みわ はるか

 
 

ピンポーンと夜の19時頃だっただろうか。
わたしの住むアパートのインターホンが鳴った。
アパートに住んでいると特段約束でもした友人でない限り訪問者なんてこない。
何かの勧誘か、NHKの受信料の請求か(いや、それはもう既にきちんと払っている)、いったい誰だろう。
おそるおそる家の中のホームカメラを覗いてみた。
そこには20代前半と思われる男女のややこわばったような緊張した顔が見えた。
2人とも小柄で男の人は中肉中背、短髪、いかにも好青年といった感じ。
女の人の方は色白で目がくりっとしていて黒髪のロングヘアーだった。
手には何か袋を大事そうに握り締めていた。
玄関の電気をつけ扉を開けた。
そこには当たり前だけれどさっきインターホン越しのカメラで見た若い2人が立っていた。
緊張した顔は変わることなく、
「昨日からここの上に引っ越してきた者です。他県から来たのでご迷惑をかけるかもしれませんがどうぞよろしくお願いします。」
と息つく暇もなく男の人は言い切った。
隣にいた女の人はぐいっと袋をわたしに差し出し、
「あの、これ、全然たいしたものではないんですけど使ってください。」
ものすごくこちらも早口でしゃべりきった。
2人は不安そうに見えた。
この辺にきっと知り合いもいないんだろう。
でもどこか覚悟を決めてここに来た2人はとてもかっこよく見えた。
聞きはしなかったけれどおそらく新婚さんなんだろうなとにぶいわたしでもさすがに気づいた。
わたしはにこっと笑って、わざとじゃなくてこれは本当に本心でそう言ったのだけれど
「わたしはここに8年程住んでいます。地元もこの近くです。分からないことがあったら何でも聞いてください。
こんな風にきちんとあいさつに来てくれる人は初めてです。ありがとうございます。うれしいです。」
その時初めて2人はお互い目を合わせほっとした笑顔になった。
さわやかで、清らかで、美しかった。
このアパートには他にも何部屋かある。
どんな人が住んでるか知らない人も多い。
せっかくあいさつに行っても適当にあしらわれてしまった場面もあったかもしれない。
あぁ、どうかこの町を好きになってくれますように。
きらきらとした楽しい毎日になりますように。
わたしはお姉さんのような気持ちになった。
2人は深くお辞儀をして自分たちの部屋に帰っていった。
その後姿はいつまでも見ていたくなるような羨ましい背中だった。
地に足を一生懸命つけて歩こうとしている歩調だった。

袋の中身は洗濯用洗剤だった。
わたしは非常に好感をもった。
実用的なものは大変嬉しい。
こんなこと言ったらおばさんだと言われるかもしれないけれど嬉しいものは嬉しいのだから仕方ない。
少しルンルンな気分になって洗面台の下のストックボックスにしまった。
今使っている洗剤がなくなってこのストックボックスの扉を開けた時、きっとまた彼らのことをわたしは思い出すだろう。
今はきっと何者でもないであろう彼らはそのころには随分大人になっているんだろうなと思う。
あいさつ程度の付き合いになることは目に見えているけれど、上の階の人達がいい人でよかったなと心が温かくなった。

賃貸住宅が立ち並ぶこの町は外から来る人が圧倒的に多くよそ者の集まりだ。
単身赴任の人、若夫婦、転勤でしばらくの間だけ家族で間借りしている人、学生。
みんなライフステージが進むにつれどんどんこの町を出ていく。
住民の入れ替わりは激しい。
それはたまたまタイミングよく見かける引っ越し業者の車や、駐車場に停めてある車がいつのまにか違っていたりすることから察しが付く。
ほとんどの人は、一時の仮住まいとして利用しているようだ。
そうであるから同じ棟であっても知らない人はたくさんいるし、昔からこの地に住んでいる人たちとの交流も皆無だ。
気楽でいいなと感じることの方が正直多いけれど、なんだか物足りなくつまらないなと思う時もある。
それはなんとなく蝉がミンミン、ギンギンこれでもかと鳴いていた昼間とはうって変わり、
淡いオレンジ色の夕暮れが空一面に広がるなんだか切ない感じと似ている。
人との距離感は難しい。
みんなそれぞれ色んな価値観を持っている。
できあがった組織に入っていくことや、他人と一緒に何かをしようとすることは煩わしいことかもしれない。
それでもやっぱり1人は寂しいな、誰かとつながっていたいなとふと思ったスーパーからの帰り道。
今日は鶏肉が安かったのでたくさん買いすぎてエコバックはいつもより重かった。
その時、空のずーっと奥の方からぽつりぽつりと夏の夕立がやってきた。
わたしは駆け足で家路へ急いだ。

 

 

 

遠足

 

塔島ひろみ

 
 


私の道ではない道に ノウゼンカズラが咲いている
野良猫が4、5匹もまとまって、日陰を見つけて涼み、ウトウトしている
学校帰りの中学生たちが足をとめ、しゃがみ、猫をなでる
この道を
歩くはずのない私が歩いている
崖を攀じ登るような必死さで、東新小岩の薄汚れた区道を、歩いている
細い手足をボキボキ間違った方角に折り曲げながら、自分の道でないこの道を、歩いている
私の道に出るために、一生出会わない、時を共有しない、擦れ違いすらしないはずの人たちと擦れ違い、
殺虫剤が噴射される


「ぐしゃ」と音を立て、前のめりに崩れた私は、
がさつく硬い路面に蹲った
体じゅうに矢が刺さったようなダメージだが、荷物は無事だ
ゆっくり体を起こし、
私に割り当てられていない空間に立ちあがる
「あ。」見るはずでないものを見た女が小さく叫び、足早に遠ざかる
私の道に私は行きたい


交差点に立ち、見渡す
ここから分岐するあらゆる道が私の道でないことを知る
それでもまず
道を渡ろう


ソグ、ソグ、ソグ
沿道の畑でトウモロコシが音を立てて成長している
私のトウモロコシでないトウモロコシに私の太陽でない太陽が猛烈な光エネルギーを差しかけ、
緑色の茎は空へ向ってまっすぐに伸びる
その畑を半分つぶして作られた買物道路には、いるはずのない私だけが歩き、いるはずの人は誰もいない
「ぐしゃ」と、イヤな音が聞こえ振り返ると、自転車ごと転んだらしい女性がつぶれ、呻いていた
この道は彼女の道でもなかったのだ


交差点に立ち、見渡す
ここから分岐するあらゆる道が誰の道でもないことを知る
道は更に分かれ、無数にあった
みんな人が作った道であったが、
道沿いの保育園で子供たちが遊んでいたが、
団地のベランダに洗濯物が下がっていたが、
大型車の騒音が絶えることなく聞こえていたが、
どの道にも人は歩いていなかった


ソグ、ソグ、ソグ、
伸び続けるトウモロコシの間を縫って、荷物をパンパンに詰めたリュックを背負って私は道を探して歩く
私は人を探して歩く

少し楽しくなってきた

 
 

(7月26日、東新小岩4丁目で)