雨の朝に

 

夜から

降ってた

雨は
今朝も降っている

家人は出かけていった

台所で
皿を洗っていて

ふと
てみちゃんのことを思いだした

てみちゃんは
いとこのおねえさんで

ゆっくりと
話す女の子だった

ああ
こんなゆっくり

はなしていいんだ

こんなにゆっくりはなしても
生きているんだ

子どものわたしは

そう
思った

昨日は
家人と相撲を見にいった

裸のお相撲さんたちが土俵で
ぶつかっては

土俵の外に
投げだされてた

裸でぶつかって
負けたり勝ったりしていた

たまに笑わせていた

帰りは相撲の絵の座布団を抱えて
駅まで歩いた

風が
冷たかった

花冷えというのだったろう

 

 

 

家族の肖像~親子の対話その38

 

佐々木 眞

 
 

 

お母さん、一部って、なに?
全部じゃなくて少しってこと。

圧死って、ぺっちゃんこになることでしょ?
そうだよ。コウ君、すごいこというね。誰が圧死したの?
分かりませんお。

立って、立って。立ってご覧って、気をつけのことだよ。
立っては、起立することだよ。
立って、立って。立って、立って。

マサミ先生、町田だったでしょ?
そうだね。
マサミ先生、亡くなったでしょう?
そうだね。

お父さん、SMAPやめたの?
うん、解散したよ。

「転校生」で、蓮佛さん、死んじゃったでしょう?
うん、死んじゃったね。
かずおとかずみ、入れ換わったちゃったでしょう?
うん。入れ換わったね。

お父さん、ぼく常用漢字と人名漢字好きですお。
そうなんだ。当用漢字は?
常用漢字と人名漢字ですよ。

ぼく、タマネギ好きですお。
そう、良かったね。カレーライスにいっぱい入ってるよ。

お母さん、しょっぱいって、なに?
塩からいことよ。
お父さん、しょっぱいの英語は?
ソルティだよ。

お母さん、サトイモ煮るの?
そうよ。

あ、ドッコイ、ドッコイ。
ドッコイ、ドッコイ。

お母さん、ヒロシさん「オトナ高校」見た?
見たでしょう。

お母さん、素晴らしいって、なに?
すごくいいことよ。

ミワさん、良くなりますように! お母さん、ぼく、言いましたよ。
ありがとう。

ぼく、アキちゃん、好きですお。
そう? お母さんもよ。

お母さん、ガラクタって、なに?
いろんなもんがいっぱい、よ。

お父さん、ぼく、先に帰ります。
分かった。気をつけてね。

神さまって、なに?
上の方で、私たちのことをみているひとよ。
神さま、神さま。

お母さん、セデス、頭痛いときでしょう?
そうね。

お父さん、キクチモモコ、脳溢血で亡くなったよ。
そうなんだ。何のドラマで?
「ダイアリー」だよ。

お父さん、脳溢血の英語は?
はて脳溢血、脳溢血、脳溢血ねえ。分かりません。

お母さん、おじいちゃん、どこに勤めていたの・
電電公社よ。
デンデンのデンは電気のでん?
そうよ。

お父さん、先輩の英語は?
そうねえ、シニアかな。
なに、なに?
それともオオビーかな。
なに、なに?

お父さん、あした11時に、大船の「とん田」に行きますよ。
そう。一緒に行こうね。

お母さん、セイザブロウさん死んで、ミワさん泣いてた?
泣いてたと思うよ。

ぼくは高田馬場好きですよ。
そうなの。
高田の馬場。高田のばばあ。
高田の馬場に、何があるのかなあ?
高田のばばあ。高田のばばあ。

なお、ってなに?
そして、だよ。

お母さん、夏はナツミの夏でしょう?
そうだね。
お父さん、ぼくはナツミです。
こんにちはナツミさん。

お父さん、11時に「とんでん」行きますよ。
うん、行こうね。

お父さん、どっちみちの英語は?
エニイウエイかな?
どっちみち、どっちみち。

ぼく、「おっとっと」好きですお。
そう、良かったね。

お父さん、金八先生、「学校へ帰ってこいよ」といいましたよ。
そうなんだ。誰に向って。
みんなに。

人名用漢字、印刷して、お母さん。
はい。
お母さん、もう終わりにしてね。人名用漢字よ。

お母さん、「我々は破壊しなければならないのだ」てなんのこと?
「我々は壊さなければならない」、ということよ。

お母さん、様々って、なに?
色々ということよ。

お母さん、堤供ってなに?
差し上げることよ。

お母さん、「わろてんか」おもしろかったよ。
お母さんも、おもしろかったよ。
わろてんか、わろてんか。

京王線、ちょっと揺れる?
うん、ちょっと揺れるね・

人工呼吸って、なに?
自分で呼吸できなくなったら、機械で呼吸出来るようにすること。
人工呼吸、くるしいの?
さあ、どうかな。

お父さん、バージョンって、なに?
そうねえ、いろんなタイプのことだよ。

たもつって、なに?
元気でいることよ。

お母さん、前カラオケで、ピッピとやりました。
そう。
ピッピ、ピッピ。

リョシュウて、なに?
どういう字を書くの?
旅の愁だお。
それはね、旅をしていて悲しくなることだよ。

京浜東北線、新しい駅ができるの?
え、山手線じゃないの?
高輪ゲートウエイ、京浜東北線だよ。
そうなんだ。

お父さん、タケの英語は?
バンブウだよ。

お父さん、カエデ、もみじでしょ?
そうだね。

お母さん、オオヤさん、好きになったんですよ。
そう、良かったね。お母さんも好きよ。

お父さん、綾部におばあちゃん2人いた?
いたねえ。

お父さん、ぼく、トノサキさん、好きですよ。
そう。お父さんも好きだよ。

ぼく、「醜いあひるの子」好きですお。
どんなおはなしだったっけ?
分かりませんお。

ぼく、四国好きですお。
そうなんだ。四国のどこが好きなの?
ぜんぶ好きですお。
そうかあ。

今日、豚汁とお赤飯にしてね!
分かりました。

せめてって、なに?
それだけでも、よ。

お父さん、ミイラ、骨だよね?
そうねえ、だいたい骨だね。

お母さん、ぼくねえ、ナデシコ好きですお。
そう。お母さんもよ。
ナデシコ、ナデシコ、ナデシコお。

お父さん、大杉漣、怒ってたよ。
そう。怒るなよ、っていいなよ。
大杉漣、大杉漣、大杉漣。

ミワさん、採血した?
したと思うよ。

綿はオクラに似てるでしょ?
うん、似てるね。

お母さん、収穫って、なに?
えーと、得るものよ。

経験って、なに?
やってみることよ。

朗らかって、なに?
明るくニコニコしていることよ。コウ君朗らかだよね。
朗らか、朗らか、朗らか。

ずいぶん大きくなったね、とユカリさんいったよ。
いつ?
だいぶ前に。

サッチャン、幸せでしょ?
うん。
サチ、サチ、サチ。

お父さーん、「任侠ヘルパー」のメイサ、怒っちゃったよ。
そうなんだ。

コウ君、お父さんはコウ君のこと、大好きだよ。分かってますか?
はい、分かってますよ。
あなた、あんまりそおいうこと言わない方がいいわよ。

お母さん、一晩中てなに?
ずーーーと、よ。

どうやって水を湛えればいい?
お水を入れればいいのよ。

お父さん、ごはんにしよ。
はい。
お父さん、ごはんにしよ。
はい。
お父さん、ごはんにしよ。

 

 

 

くり返されるオレンジという出来事 3

 

芦田みゆき

 
 

11月17日

私は目撃した。
少女は老人と手を繋ぎ、路地裏に敷かれたボロボロの布団にくるまって死んでいた。驚いた私が瞬きをする間に、少女の死体は消えた。
老人は上半身を起こして、手のひらにのせた乾いた種を数えている。それから私をにらみつけた。私はうつむき、大急ぎで立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雲 あそこ 薄紫

 

駿河昌樹

 
 

雲があのあたり
指のように下りてきている
煙のように

薄紫色がかっているので
薄紫のように
と言ってみたく思うが
日本語は許してくれないだろう
どこの言語なら許してくれるだろうか

そんな許しを求めて
求め
求めて
詩歌のかたちを借り続けてきたが
詩歌でさえ
めったなことでは
許してくれない

雲 あそこ
指して 下りてきている
薄紫して


すこし近づく

下りてきている
でさえ
ひどく離れた嘘の言い方で
ほんとうなら

下り 来 る

ぐらいに言いたい

わたしは
ほんとうに
助詞
助動詞

きらいだ

それらを多用した詩歌
それらに頼った詩歌

ほんとうに
きらいだ


助詞
助動詞

わたしだって
使っている
浸かっている


あそこ
薄紫

 

 

 

正真正銘真正の火宅なんだから

 

駿河昌樹

 
 

世の中を舐めてかかってはいけないとか
世間を馬鹿にしてはいけないとか
そんなお説教をチラ見せする人がいまでもたまにいるし
大上段から振りかぶって投げつけてくる
陳腐な絵にかいたような精神的老人型もいるが
フクシマ以後ではなく
フクシマの原発事故処理の徹底的なゴマカシ以後
いわゆる「世の中」や「世間」の痴呆状態は露呈されたわけで
フクシマ以後「世の中」や「世間」を馬鹿にしないことは野蛮である
とアドルノめかして言い切っておきたいとさえ思う*
「アウシュヴィッツの後で詩を書くことは野蛮である」と記した後
「物象化は精神の進歩をみずからのさまざまな要素のひとつとして前提としていたが、こんにち物象化は完全に精神を呑み込もうとしている。自己満足的な観照という姿でみずからのもとにとどまっている限り、批判的精神はこの絶対的な物象化に太刀打ちできないのである」
とアドルノは続けたが
思えばなんと
いまのニッポンは
自己満足的な観照という姿でみずからのもとにとどまっている人人人……
ばかりではないか
とうに精神の死んでいる人人人……が
桜を見てまわったり
夕日のなかで家族的観照に感傷的に浸っていたり
あれはスゴイ!だれはスゴイ!
ステキでしたよぉ!
これってホントおいしい!
どんどん素晴らしいビルが出来てきますねぇ!
とんでもない才能に脱帽するしかないです!
なんとしても新たな風を政治に!
などなどの空言キャッチボールや空言胞子撒き散らし遊びを
しているだけ
それだけ

まぁ
よほどの天才的な発明でもなされないかぎり
数百年は死の放射能出っつづけのフクシマを抱えて
子子孫孫
天文学的負債を背負って滅びに向かっていくだけのニッポン列島人だから
しょうがないと言えばしょうがなくて
たゞたゞ精一杯の明るさを
けなげに
はかなげに
あらんかぎりの心のちからを出し切って装って
太宰治が『右大臣実朝』に書いた
「平家ハアカルイ、アカルサハ、ホロビノ姿デアロウカ。
「人モ家モ、暗イウチハマダ滅亡セヌ。
なんて
読んだことも読む気もないだろう気やすさで
読書量の徹底的な少なさで
文字情報と文字情報リテラシーの少なさで
視野のしやわせ…おっと、違った、しあわせな狭さで
行くんですね
逝くんですね
がんばってね

ちょっとはアドルノとかも見てみてね
ルカーチの物象化概念を敷衍したともいえる
アドルノの物象化論は
マルクスの商品化論と
ヴェーバーの合理化論を継承していて
そのあたりをまとめておさらいし直せば
フクシマの原発事故処理の徹底的なゴマカシ以後状況を
もっとポップに言い換えればフクシマゴマカシを
超克する精神や方法論を導き出せるきっかけになるかもしれないから
見てみてね
とにかく
なんとか
自己満足的な観照という姿でみずからのもとにとどまっている人人人……
であるのは
やめていこうよ
あらゆることにもっともっと正しく不満になって
もっともっとあたふたして
じぶんなんてすっかり失って
こころここにあらずでとりみだしてばかりの
あらまほしき姿にしっかりとなって

そんな状況なんだから
正真正銘真正の火宅なんだから

 
 

*アドルノ『プリズメン』
「アウシュヴィッツのあとで詩を書くことは野蛮である。物象化は精神の進歩をみずからのさまざまな要素のひとつとして前提としていたが、こんにち物象化は完全に精神を呑み込もうとしている。自己満足的な観照という姿でみずからのもとにとどまっている限り、批判的精神はこの絶対的な物象化に太刀打ちできないのである。」

 

 

 

走ってきた

 

走ってきた

今朝も
川辺の柵にもたれて

ところどころ
やすんで

走ってきた

海辺の病院まできた

子どもの頃
夏に

川を流れていった

裸で
流れていった

顔が太陽に焼かれて
青空をみてた

流れていった

いつか
どこかに

行き着くだろう

海辺の病院は

義母が
入院していた

たくさんの老人たちが
ベッドの上にいた

呻いていた

ヒトは

いつか
行き着くだろう

昨日
この国の首相がニヤリと笑うのをテレビでみた

そこじゃないと思った

昼過ぎに
焼津の蕎麦屋で

よもぎ蕎麦を食べた
風が流れていった

蕎麦屋では
手ひねりの粘土細工を買った

くじらと
オットセイと

馬のつらだった

それから
紺染の綿の褌も買った

いつか
流れていこう

裸に
褌をして

流れていこう

 

 

 

レイワ行進曲

音楽の慰め第32回

 

佐々木 眞

 
 

 

レイワ、レイワ、レイワの子供よ 僕たちは
明治でもない 大正でもない
昭和でもない 平成でもない
英弘でも 広至でも 久化でもない
万保でもなく 万和でもない
レイワ、レイワ、レイワの子供よ 僕たちは

レイワ、レイワ、レイワの子供よ 僕たちは
姿もきりり 心もきりり
山 山 山なら 富士の山
海 海 海なら 日本海
僕たちは行こうよ 行こうよ 足並みそろえ
タラララ タララ タララララ

レイワ、レイワ、レイワの子供よ 僕たちは
人 人 人なら ニッポン人
中国人でもない 朝鮮人でもない 完全無欠のニッポン人
(できたらアメリカ人がいいけれど)
僕らは100%の純日本人
世界に冠たるニッポン人

レイワ、レイワ、レイワの子供よ 僕たちは
空 空 空なら 日本晴
大人になったら 日本会議
この美しい国に 革命起こそう!
進め 進め 雁首そろえ
ラリララ ラララ ランララン

レイワ、レイワ、レイワの子供よ 僕たちは
大きな望み 明るい心
強い人には忖度し
落ちこぼれなんか ぶっ殺せ!
巧言令色鮮し仁
明るい未来に 挑んでいこう

レイワ、レイワ、レイワの子供よ 僕たちは
元気なからだ みなぎる力
鳥 鳥 鳥なら 鷽の鳥
行こうよ 行こうよ 世界制覇だ
明日待たるるその宝船
レッツゴーゴー レッツゴー! レッツゴーゴー レッツゴー!

 
 

*久保田宵二作詞・佐々木すぐる作曲「昭和の子供」を参照&無断引用し、自在に解体新書いたしました。

「昭和の子供」

 

 

 

与謝野晶子になぞらえて、弟へ

 

みわ はるか

 
 

誰も使わなくなった机、ベッド、中身がごっそり抜かれた本棚。
がらんとした8畳ほどの部屋はがらんとしていた。
机の下には持って行き忘れただろうお気に入りだと言っていたボールペンが転がっていた。
ベッドの上には趣味のバイクのパンフレットが置かれたままだ。
窓を開けるとちょうど西日が眩しくて反射的に目を閉じた。
淡いオレンジ色の西空はなんだか余計に心を寂しくさせた。

2019年、3月、弟は4月からの就職のため家を出た。

8年前まだ高校2年生だったあなたから色んなものを奪ってしまって本当に申し訳ないと思ってる。
お詫びと言っても許してもらえないかもしれないけれど、大学進学やその後の悩みには心から対応したつもりです。

8年前、わたしの体調がものすごくすぐれなかったこと、その他もろもろの事情で弟とは別々で暮らすことにした。
弟から母親を奪ってしまった。
遠くではないけれどお弁当とか、話したいこととかきっとたくさんあったはずなのに。
わたしのわがままで一瞬で環境を変えてしまった。
本当にあの時はごめんね。
もっとよく考えるべきだったと後悔ばかりが張り付いている。
戻れるのなら本当に戻りたい。

体調が少しずつよくなったわたしは頻繁に実家に帰るようになった。
弟は外からは分からなかったけど、話すと色々鬱憤がたまっているようだった。
その時わたしは決めた。
弟が社会に貢献する年になるまでわたしは自分のことは考えないようにしよう、いつでも何かできるように身軽でいよう。
それが贖罪だと思った。

そのうちに弟は受験生になった。
数学や物理は教えることはできたけど、ごめん、古典や漢文はお手上げだった。
論理的に考えれば1つの答えにたどりつける類は好きだったけれど、難解な助詞や難しい漢字が次々と出てくる文章は苦手だった。
希望している大学をわたしは勝手に下見に行った。
その日は雪がしんしんと降っていてものすごく寒かった。
バスの窓から大学の門扉が見えたとき無事に到着したことにほっとした。
時計がついた高い塔はモダンでお洒落だった。
なんでだろう、その時計にむかって「無事に合格できますように」とお祈りした。
雪はいつのまにかやんでいた。

着なれないスーツを身にまとったあなたはその時計台の前にいた。
にこにことした朗らかな顔だった。
その横には「入学式」と書かれた色紙台が立てかけてあった。
希望に満ちた新しいスタートだった。
大学院まで進んだあなたにはたくさんの友人ができたと聞いた。
偉そうに言うわけではないけれど、学生時代の友人は生涯の友人になる。
ぜひ、これから先も大切にしてほしい。
同じ時間を同じ場所で過ごした人の間には分かり合えるものがあると思う。
辛い課題もたくさんあったと聞いた。
それは隣に一緒に頑張った友人がいたからではないですか?
きちんとこなしたあなたは本当に偉い。
新しい趣味もいつのまにか見つけていた。
全国各地を巡るキャンプ、骨折もしてしまったけれど風を切って走る心地よさを味わえるバイク(本当はやめてほしいけど)。
色んな事が経験できた6年間は貴重だったね。
自分のやりたいことができる会社に入れてよかったね。
また違う景色を見て色んな事を感じて考えて行動するといいと思うよ。
どうしても嫌になったら帰ってこればいいさ。

鬱陶しい姉だったと思う。
心配性のわたしは長々と色んな用件でメールをした。
「分かった」と返信が来るときはまだいいほうでたいてい既読スル—だった。
それでも事あるごとに送り続けたことはさすがに反省してる。
引っ越しの荷物を積めているとき「お姉ちゃんがいてくれてよかったわ。」とぼそっと言われたことは生涯忘れないと思う。
大切に心の中にしまっておこうと思う。

この4月からは過度に干渉するのは卒業します。
自分の人生を好きなように生きてくれ。
行きたい方向へ羽ばたいてくれ。
人生は有限で意外と短い。

卒業、本当におめでとう。

 

 

 

ボケ

 

塔島ひろみ

 
 

また失敗をしてしまった
先生なのに失敗をし
先生なのに怒られている
もっと偉い先生に怒られている
教室で、生徒の前でもよく怒られるが
今日は職員室で怒られている
偉い先生はプンプンだ

私の失敗で燃えてしまった。
マッチのいたずらをして 父がチリ紙交換で集めた新聞紙が燃えた。
火はあっという間に燃え広がり
家と、隣の銭湯と、ペンキ屋が燃えた。
「取り返しがつかないでしょ!」
偉い先生は声を荒げる
風にあおられ、燃え盛る火を、ペンキ屋の秀和が眺めている
私は目をいっぱいに見開いて秀和を見る
涙がこぼれそうなのだ
「あれほど言ったのに!」
偉い先生も泣きそうに唇をかみしめる

青い物干し台におそろいの青い竿がかかり タオルと、シャツと、靴下が、干されていた
強風が物干し台を揺らし、吊るされた洗濯物がウサギのように跳ねていた
愉快に、奔放に、不協和に踊りまわる、タオルと、シャツと、靴下に、マッチのことを忘れ私は 釘づけになる
窓の隙間から入り込む風は生温かく 春の訪れを感じさせ、
私の胸は高鳴り、そして、
家は燃えてしまった。

終業時刻を過ぎた職員室で 残っている先生たちは思い思いに、でもおそらく皆的確に、仕事をしていた
私が怒られることに(私を怒ることにも)慣れている先生たちは、今私が怒られていることに関心を示さず、
一人、偉い先生に用があるらしい生徒が、ドアのそばで私が怒られ終わるのを待っていた
それは進路が決まっていなかった生徒で、リボンを巻いた鉢植えを抱えている
きっといい知らせを告げに来たのである
ステキな風が職員室に吹き込み、赤い花びらが飛び込んできた
私の大好きなボケの花の花びらだ

ショベルカーが燃え残った風呂屋の煙突と壁を突き崩す
タイルに描かれた、どこか異国の湖と山が、お城が、ガラクタと化し、
私は秀和と瓦礫の山によじ登る
うずたかい瓦礫の、天辺に立つ
お前のせいだよ! 秀和は、天に向かって大声で叫ぶ
その日私たちはそこに並んで、春の風に吹かれながら目を大きく開いて
新しい景色を眺めたのだ

偉い先生の足元で、やわらかい赤色の花びらがクルクル回転し、更にどこかへ移ろうとしている
どんな失敗をしたのだったかも忘れ、
私はうずうずと、怒られ終わるのを待っている

 

(3月22日 職員室で)

 

 

 

何の変哲もなかった空が

 

今井義行

 

何の変哲もなかった空が 今日の午後 濁っちゃったよ
夕べ イイジマコウイチさんの 詩を
読んでしまった その為 なんだろう ──・・・・

 

「他人の空」

空白鳥たちが帰って来た。
空白地の黒い割れ目をついばんだ。
空白見慣れない屋根の上を
空白上ったり下ったりした。
空白それは途方に暮れているように見えた。

空白空は石を食ったように頭をかかえている。
空白物思いにふけっている。
空白もう流れ出すこともなかったので、
空白血は空に
空白他人のようにめぐっている。

 

戦後 シュールの 1篇の詩
還ってきた 兵士たち ──・・・・
途方に暮れているような 彼らを受け止めて
空は 悩ましかったの かもしれないが

そう 書かれても わたしは ランチタイムに行く途中で
さっぱりとした 青空を 見あげたかったよ

暗喩に されたりすると

プラネットアース の
何の変哲もない空も 台無しだ

わたしの行き先は 豚カツチェーン店の「松乃家」
食券を買って食べるお店は
味気無いと 思っていたけれど
味が良ければ 良いのだと考えが変わった

そうしていま わたしを魅了して やまないのは
『ミルフィーユカツ定食 580 円・税込』
豚バラスライスを何層にも重ねて やわらかく揚げた
大変に 美味なアートのようなメニューだ

豚カツ屋さんには カツカレーが 必ずあるけれど
あれには 手を染めては いけない
カツカレーは 豚カツではなく カレーです
カレーの 強い味が
豚カツの衣の塩味の旨味を殺す1種の『テロ』です

ソラ、『テロ』は 即刻メニューから 駆逐すべきでしょ ──・・・・

食券を買い求める わたしの指先は 高揚して
「松乃家」の空間で、コズミックダンス、ダンス、ダンス、

運ばれてきた ミルフィーユカツの 断面図
安価な素材の豚バラ肉を手間を掛けて何層にも重ねる
それは 確かに大変に美味なアートのようなメニュー

運ばれてきた ミルフィーユカツを 一口 齧ると

サクッ ハイパー コズミックダンス、ダンス、ダンス!!
サクッ ハイパー コズミックダンス、ダンス、ダンス!!
サクッ ハイパー コズミックダンス、ダンス、ダンス!!

わたしが ミルフィーユカツを パクパク してる時
電気グルーヴの ピエール瀧がパクられた という報せを知った
この世では 美味なものを パクパクするのは
ソラ、当然のことでしょ ──・・・・

鬼の首捕ったような 態度の マトリは 偽物の 『正義』だ
美味なアートを ね パクパクするのは
にんげんの しぜんな しんじつ
裁く ような ことでは ないでしょうが!!

イイジマコウイチさんの 時代 には
暗喩で トランス 出来たん でしょう な
ソラ、ソラも 相当に 負担だった でしょう な

いまは 色とりどりと 跳び道具が あるから な
言葉で 気取らなくても 良い時代なんだろう
詩が 書かれても 書かれなくても
詩が 読まれても 読まれなくても

誰も 気には 留めない
ソラは、ソラで 問題ないんじゃないかな

ランチタイムからの 帰りみちに ──・・・・
ソラ、ソラは、何の変哲もなかった空が
いちばん 純度が高くて 美しいと わたしは思ったよ。