幻の花

 

尾内達也

 
 

 

天の川風樹の嘆きわれひとに    下村槐太

 

からからからだに夕日が入る
からからからだは夕日のひかり
からからからだは火に燃えて

西へ西へといそぎあし
夕日を追うていそぎあし

夕日のひかり
火のひかり 聖なるひかり 書のひかり

有一の書に火が九つ
阿鼻叫喚の文字の中に花あらわれ
ふいに火と化す花あらわれ

ああ 横川国民學校
ああ 三月十日

西へ西へといそぎあし
夕日を追うていそぎあし
大陸の大きな夕日
その中の
からだからだに 首がない
からだからだに 首がない

からからからだに夕日が入る
からからからだは夕日のひかり
からからからだは火に燃えて
からからからだは業火のひかり

百花春 百花春
百花春至(ひゃっかはるにいたって)

 

 

 

云々

 

尾内達也

 
 

 

云々 云々 うぬう でんでん
うん うん ぬん ぬん
うーん
出た!
ぬん ぬん 出た!
でんでんでん
うんち
出た!
血も
ちょっと
あまたある
うんぬん の    うん    ぬん
うんぬん
うん
ぬん
ふん
よし!

 

 

 

元旦の計

 

尾内達也

 
 

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一年の計は元旦にある
のかもしれないが

いろいろ いろ
ゴチャゴチャ
ありすぎて
さっぱり
アタマに残らない

元旦の計は
一言
「夕食は十五分で食べる」

これにつきる

遅いから
早く食べろ
というのではなく

早すぎるから
ゆっくり
食事を楽しみましょう

という趣旨なのである

普通に食べると
十分
しかかからない
どんなに
時計を見ながら食べても
十分
どんなに
おしゃべりしながら
食べても
十分 十分 十分

かっちり十分

これはある種
冒涜ですな
食べ物への
いやいや
作ってくれた人への
キッチンに島根のブロッコリーが来るまでの
キッチンに長崎の鯵が来るまでの
キッチンに雲仙の豚腿肉が来るまでの
人々人々人々の
成仏
南無阿弥陀仏
南無妙法蓮華
南無大師遍照金剛
アーメン

とにかく
成仏できませんな
ブロッコリーも鯵も豚も

と―ここで
五分
延ばすのに
なにか意味が?

一年の計になるほどの

生きている充実感
五分延びると
喰うから
味わうへ
変わる
その決定的な五分なんですね

五分
ここがポイント
五分なら
そうか
それならやってみるか
という気になる

三十分じゃ
無理だね―やる気にならない

食べる―喰うじゃなくてね
これ人間の基本
食べるから
人間になり
味わうから
文化になる
公平に取り分けるから
正義論も出てくる
体の大きさも加味するから
平等論もある

それにしても
なぜ
食べるのがこんなに速くなったのか
幼稚園の頃は
ビリを競った実力派

すべての謎は
四月に解ける
木の根が明くように
緑のインクで
中心のない
答えを書ける

加速する時間 わたしの加速 ブロッコリーの加速
鯵と豚肉の加速

 

 

 

アスファルトの道、一月

 

尾内達也

 
 

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だれもいない
一月
家路は側溝のある
アスファルトの道である
冬日の照り返し
長いなぁ
妻とふたりで
あれが強戸小学校
あれが公民館と
説明しながら歩く
その長い長い
道を見る目は
八歳のときの帰り道の目
新学期の憂鬱も
側溝の中のくちぼそを
探すまなざしも
時間である

ふるさとというのは
実に不思議
自分はここにいるのに
もうこの景色の中には存在しない
古里 か
いまでは
蓋がついた側溝も
長いと思えた
アスファルトの帰り道も
学校の角のアナハラ文具店も
みんな
時間だった

美しかったか辛かったか
それはわからない
それは言葉だから
こどもは心に色が射すばかり
時は そこ ここ にあり
光って
匂って
沸き立っている

アナハラ文具店の隣は 駄菓子の
おまけ屋だった
その日は妙だった
店に入ると
ひそひそ なにやら
わたしを見て ひそひそ
かわいそうだねぇ
こどもだから
わからないんだよ
もうわかってもいい歳さ
馬鹿なんだよ
屈託なく駄菓子を選んでいたのだろう
その日
救急車が来て
母が上向きで
運ばれていった
睡眠薬の過剰摂取で

あっという間の長さ
アスファルトの道
冬日の照り返し
一月
すべては
時間だった

 

 

 

告別

 

尾内達也

 
 

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人が死ぬと
その人の跡に
ほかでもない
愛の形が
くっきり
浮かび上がる
実現されなかった

行き違う

ねじれ
ほつれてしまった

そして
すぐに告別の時が来る
庭で菊が
枯れている
黄色い菊
赤い菊
十二月の
庭に
弟が出ている

 

 

 

他人の耳

 

尾内達也

 
 

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ほんとうのことを言うと
耳が鳴る 耳が鳴る
うそをつくと
耳が鳴る 耳が鳴る

もうひとりの
俺である
朝鮮人が
やぶれかぶれの俺を見つめている
とたんに
俺はれっきとした日本人である
天皇陛下の日本人
陛下の
銀時計が
午前零時を告げた

さあ
殺戮の再開だ!
俺を殺せ!
朝鮮人を殺せ!
中国人を殺せ!
おんなこどもを殺せ!
もうひとりの俺である
朝鮮人の耳が鳴る鳴る
大陸で暴れたじいさんが 俺だったら!
あのときの朝鮮人が 俺だったら!
朝鮮人が やぶれかぶれの俺だったら!

木に眼が生り
もうひとりの俺である 木が
俺たちを見つめている
木はいま忌となり
忌はいま木となる

ほんとうのことを言うと
耳が鳴る
うそをつくと
耳が鳴る

 

 

 

ペコちゃん

 

尾内達也

 
 

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不二家のペコちゃんに

ちいさな女の子が

抱きついて

こっちをみて笑っている

おもわず笑い返すと

また

抱きついて

こっちをみて笑う

神の存在は

信じないけれど

あれは

神としか

いいようがないね
もう一度ふりかえったら
小さな神は
ペコちゃんに
笑っていた

 

 

 

影の木・光の木

 

尾内達也

 
 

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空白空白空白空白空やっぱり
空白空白空白空白空林はいい
空白空白空白空白空はいって みると
空白空白空白空白空また いいとこへ きたとおもうふ
空白空白空白空白空白空白空白空白空白空白空白空白空白空白空八木重吉

 

影の木
日の木
ひかりの木
風が吹くと
ひかりは 散って
影が さらさら動いている
散ったひかりは
散ったまま
林のベンチを
まあるく 動かない
乾いた土のいい匂い
和解したかった
林と
和解したかった
同僚たちと
和解したかった
わたしと

 

 

 

ソネット 9番

 

尾内達也

 
 

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文字には できないことがある
できないけれど    それは
たしかに存在してゐた

文字を裏返して
使うと
きっと
あっけないくらい まっしろだろう

見えない日記に
裏返した文字で それ と書いてみる
遠い 遠い いま

だれかに その名で呼ばれた気がする
だれに殺されたのか 不思議に 手の
感触を憶えてゐる

 

 

 

ソネット 8番

 

尾内達也

 
 

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手、手、 と家内が言う ア、そうか、
夕日ヶ浦の海に落日が金色の道をつけた、
九月二十三日、午後六時前
そういうもんなのか そういうもんなのだろう

数年ぶりに手をつないで大きな夕日を見た
大海の落日を前にすると 
不思議にそれが あたりまえの気がした
ひとのいろいろは ひと色のいのち なのかもしれない

二人で旅行するのは三回目
放射能別居が解消されてから、はじめて、
丹後は 海から秋が来る

手、手、
四千年の、落日、わたしの感触、家内の感触、
消える、消える、   波の音