正山千夏
忘れられない
あの目のひかり
本人さえもたぶん気づいてない
きっと子どもの頃からの
まるで母親を慕うような
さびしげなあの目
暗闇の中に
浮かぶおぼろげな
あの目のひかりを見つけると
私はいつのまにか
風に吹かれる船のよう
灯台へ向かう
いやもしかしたら
私の目もそんなふうに
光っているのかも
背筋をまっすぐに伸ばして
かんがえてみるのです
灯台のように
忘れられない
あの目のひかり
本人さえもたぶん気づいてない
きっと子どもの頃からの
まるで母親を慕うような
さびしげなあの目
暗闇の中に
浮かぶおぼろげな
あの目のひかりを見つけると
私はいつのまにか
風に吹かれる船のよう
灯台へ向かう
いやもしかしたら
私の目もそんなふうに
光っているのかも
背筋をまっすぐに伸ばして
かんがえてみるのです
灯台のように
20年ぶりに行ったんだ
ホアンキエム湖はまるで
井の頭公園の池みたいだと
思ったものだが
今はまるで
上野公園の池みたいに見えた
自動車が増えた分
バイクが減ったようにも見えるが
相変わらず道は乗り物と排気ガスで満杯で
あの時はなかった信号が今はあるというのに
あのあぶなっかしい横断の仕方は変わらない
横断中の年寄りが若者のバイクにつく悪態
道端で営む数々の屋台は健在
ままごとのように小さかった
プラスチックのイスの高さが
前より少しだけ高くなっている
ビアホイの薄いビールにむらがる仕事終わりの人々が
ふんだんに使えるようになったプラスチック
あちこちにあったネットカフェはなりをひそめ
歩き疲れた旅人のためのマッサージ屋が台頭
店先にぶらさがっていたカセットテープやCDが
スマホカバーやSIMカード売りになり代わる
街の新陳代謝 私の肌の新陳代謝
増えたシワ 寄る年波には勝てませぬ
バックパックは重すぎて
もう背負うこともありませぬ
いや全部ネット予約だから
安ホテル探して歩き回る必要もありませぬ
グーグルマップが世界中どこまでも追跡する
旅は道連れ世は情け 人工衛星引き連れて
昔はよかった今の若者はなんて言わない
かつてのハノイの静けさは
夕立を眺めながらのマッドプロフェッサー
今でも私のこころのなかに
そして20年後の喧騒も
同じく私のこころのなかに
あいつが来ない
今までずっと来ていたやつが
時々来なくなり
やがてはまったく来なくなる
悲しくはないけれど
どこか少し怖いような
夜の砂漠を月夜に彷徨うような
月の砂漠のラクダたちは
それでも歩いてゆくのです
運ばれていく私の子宮は
しずかに閉じていくのか
なにを失いなにを得るのか
いやあらかじめ決められたことなのか
ホルモンだかフェロモンだか
自律神経失調症コンチクショー
微細な物質クスリくれ命の母
実家の母 父の母
それなり歳を取りました
日々の波乗りは緩慢に
けれどカラダは効率よく
駆使していたいsurf of life
我慢がつらい思考まとまらない
急げないのは走れないから
訳なんかないもう野望もない
希望も絶望もそこそこに
ブルースをうたう女たちが
それでも歩いてゆくのです
夜を走り抜ける
語り尽くされた言葉たち散らばる
アスファルト黒く鈍く光ったと思ったら
東の空冷たい風切る自転車が
朝焼けの中に吸い込まれてく
ナイト・クルージン
ジングルベルはもう終わり
光を求めて彷徨う自転車
街の明かりばかり追いかけて
気が付けば浮かび上がる地平線
つらなるビルに塞がれて
ナイト・クルージン
狂ってく自転車の軸が狂ってく
くるくるまわるハーフムーンは
夜明けと夜の境い目を照らし
わたしは熱い心臓はハートビートを刻みながら
朝焼けの中に吸い込まれてく
歩く歩く
歩いてないと狂ってしまうよこの街は
骨が地面に刺さる
その振動を心臓に刻み
腐るなにかを内包するあたしは
歩く歩く
トーキョーの街は流れる川のよう
うごめく街は人を飲み込む清濁あわせ呑む
引力にひかれる皮膚を
コートのように着込んだ女
歩く歩く
重力とあたしは恋におちる
足で地球の頬にキスをするんだ
骨が地面に刺さる
その振動をDNAに刻み
複製されゆく遺伝子のなれの果て
歩く歩く
内側と外側にひろがるジャングルを歩く
探し物はなんですか
まだ目がらんらんと輝いてる
それはちょうど暗闇の中
今生まれようとするたましいの
放つ光にそっくりだ
ケムリにまかれたあたまは
重くゆれるぐるぐるまわる
シラフだというのに
柱にあたまをぶつけ
扉にあたまをぶつけ
不躾な肉体持て余す
ただひたすらケムリにいぶされた
肉体なぶりたいhold me tight tonight
骨と皮は乾燥
可哀想なお年頃
落とし所探してさまよう
毎日の台所で刻む包丁のビートが
顔に刻むシワ
一方脳みそのシワは伸びてく一方
アルツハイマー若年性痴呆
恐れながらもあいつは今
どうしているんだろう
かすかな記憶とぬくもりにすがり
現実に翻弄されっぱなしの人生
とめどなくあふれるネガティブ思考
ケムにまくため巻き続けるジョイン
情と愛情のあいだのJOY
噛みしめることのできる中年の
顎と歯も大分いぶされ茶色く着色
Ah こんなスモークサーモンでも
山を越えて川を遡上り帰って来る場所がある
肉体なぶりたいhold me tight tonight
クマと戦い尽くすまで
目の下のクマ
アイクリームでは消えないママ
パパ髪振り乱し通勤電車の刻むビート
スモークサーモンは煙(けむ)だらけ
うまみ通り越しやばみ
骨と皮は乾燥
人生という名のマラソンを完走
してみたいお年頃
ないゴール探してさまよう
鮭の腹は空洞
これまで
私のインナーワールドに
そういう光を当てられたことが
あったかしら
その景色
起伏
闇に溶けている奥行
夜明け前の薄闇のような
日暮れ後の夕闇のような
遠慮がちな光のなか
浮かび上がる
その景色のひろがりに
目をみはる
私は
一瞬で
恋におちる
カモメは
その光の軌跡をたどり
深く暗い海の上を飛んでいく
私は
見つめることを
やめられない
その光が
いったいどこからやってくるのか
知りたくて
強風に逆らって
自転車で坂道をくだる
ことに熱中していたら
いつのまにか
よくわからないところに
出てきてしまった
色とりどりに咲くさるすべり
白赤ピンクの美しさに
泣けてくる
熱風吹きすさぶなか
痛む左胸に手をあてて
直射日光に焼かれる夏
芝生に寝転んで空をながめた
強風だからか
つぎつぎと湧きあがっては
流れていく大きな雲は
まるで海の上を行く船のよう
私を乗せて猛スピードで
どこかへ走り去っていく
はだしで芝生の上を歩けば
足の裏 じかに地球の感触
それが触発するのか
深い深い海の底から
なぜだか湧きあがる想い
もまた強風で
どんどん吹き飛ばされていく
早すぎる夏
降りすぎた雨
昇りつめる温度計
この夏のはじまりは
爆発した
ただただ右往左往し
蝉もまだ鳴きださない
窒息した夏を
ばたばた搔きまわす
私の四肢
丸い月の夜には
ざわざわうごめく空気に
バランスを崩し
なにかがひっくり返って
あふれだしたものを
なすすべもなく
なかばやけっぱちに
浴びるばかり
泳いだあとのような
からだのだるさが
左半身に残る
傾いだなにかが
寄りかかるものは
そこにはなかった
またはもう消えていた
否、はじめからなかったのか
不意をつかれどおと倒れて
死んでしまったのかも
この夏
なにかが
16歳の私は
自転車に乗っている
いくつもの季節を通り抜け
こぐ自転車は坂をのぼりおり
夏のひまわり たちあおい
さるすべりと内緒話をして
きんもくせいで身を飾る
いつからか
前に進むことが当たり前になっていて
空を見上げることを忘れてしまう
冬の枝葉は丸はだか
しろつめ草で編んだかんむりは
いつのまにか枯れていた
そして今日も私は
自転車に乗っている
一面の白い花はまた今年もしろつめ草
こぐ自転車は坂をのぼりおり
鼻歌まじりで空を見上げる私はまるで
冬の冷たい空気のなかに咲く
真っ赤なぼけの花
やがては
はらりはらりと散るさくらとなって
ふたたびめぐってくる
夏の朝のあさがおのように
青くひんやりとしたしあわせを胸に
こぐこぐこぐ
あしたもあさっても
こぐこぐこぐ