子どもだったあとの大人は

 

ヒヨコブタ

 
 

母の叶えたかった夢を
そのまま背負った子どものわたしたちは
同じものを食べて育ったけれど
まったく異なる世界をみて大人になったんだね
長い間
話がつうじあわずに遮断が起きてしまったね
壁の向こうのあなたたちになにを言おうと伝えようと
忙しいとそんなはずはないの繰り返しさね

昔どこかでみた景色を
大人になってから追体験している気がしてるんだよ

大切の押し売りはいらないよ
あなたの大切はそのままでいいさ

わたしの大切はすべて渡すことはないんだよ
けれどもさ
少しのおすそわけでよかったらわけることなんてたやすいんだ

知らないひと同士が話すのが聞こえる外は
挨拶も優しくてね
暑さの限界を超えてしまったような日も
少しだけ気持ちが緩むんだよ

見えなくて怖いから論破したい気持ちは素直なのかもしれないよ
でもさ
好きじゃないんだそれだけさ

すべてに完全同意がなくたって
少しの重なりで生きていけたらさ
また会えたらそれでいいってさ

横たわり頭を冷やしながら
湯豆腐に近い脳みそをぎりぎり冷ますのを思い浮かべて
静かに息をするよ

 

 

 

山手線の内側の

 

ヒヨコブタ

 
 

数ヶ月の生活があった
多くの他者のなかじぶんの病の
この先をゆっくり見直して
ながされていくことを確認する

足りないと思っていたのは焦りなのか
まだ焦りがさきばしるのか
あの頃の
答へのじれる感覚ではなく
諦めながら諦めていたのか
はっとして
楽になる

痛みは続くだろう、いつかまで
けれどもあのあたりを歩いた日々に
花を見、名前を知りたくなり空を見上げこころが凪いだ
突き刺すことばをわたしがひとにささぬことを願い
刺されたことは重要ではないと思うじぶんを
感覚を

水の流れのようなことばを紡ぐひとを見
いつまでも憧れ続けても
わたしはどこかにながれつくまで
望むことは強いないまま
ながされていきたいと

山手線の内側
すぐに景色も雰囲気も一変するばしょの
あのあたりにいたことを
まだ懐かしくは思わぬまま

 

 

 

嘘っぱちでも進め

 

ヒヨコブタ

 
 

嘘っぱちなじぶんにうんざりしないうちに歩き出せ

まだ慣れていないじぶんがもどかしくて
変えていくじぶんをどこかでうっとうしく思って

もっとシンプルになればいい
もっと素直になればいい

簡単なことがもどかしいとき
ぽろぽろなみだ

それでもぐいぐい気持ちだけはぐいぐい歩き出せ
よたよた歩いていたとしても
着実に進めるんだよじぶんしだいで

 

 

 

定義なしの命なの

 

ヒヨコブタ

 
 

花がうつくしいと思うこと
それはこころの余裕のみではないだろう
その存在がこころ落ちつかせてくれる
それだけ
命は動物だけのものでなし

じぶんが弱いときには涙をながしながら
木々の強さを知る
木々の強さを

そしてその緑が
わたしの勇気になるとき
花も変わることなく
わたしを微笑ませる

誰かに育てられ慈しまれることは
彼等彼女等にきっと
力になるだろうか
儚い命だとは思わない
その続きにわたしが
また勇気をもらう

そして安堵する

今日のなじんだ花が
明日ははらり今季を逐えても
またいつか鮮やかにまた
そっと開くのだろう

わたしがいつまでもみていたくとも
わたしのかわりに誰かがまた力をもらう

そのことに安堵する

ループや無限はないかもしれぬ
わたしにはわからぬこと

人のちからを得ずともまた
どこかでそっとかがやきを秘めたいつかの
緑も
わたしはいつまでも覚えている
わたしのあとの誰かも
いつまでも
覚えている

 

 

 

レンチンほどの時間でゆださったよ、桜

 

ヒヨコブタ

 
 

どうにもこうにもならなくて
出された指示は

キュウソクヲシテイラッシャイ

やわらかなひとたちの声に眠ったまますとん、と入ったばしょ

時間はわずかだという
まだ日も経っていないよという
そういう方もいらっしゃいます、大丈夫と笑顔を見る

サクラガマンカイ

うそだと思ったのか思いたかったか
桜は苦手だよきょねんは悲しい見送る桜かと思ったばかり

ぐんぐん日の出で明るくなるごとに
ぐんぐん花見がしたいという声をうけるごとに
目の前がもったいないこぼれそうな桜

桜がほんとうにうれしいと
思ったことがうれしくて
自然とゆでられたわたしが
ほくほくがおで
また今朝も桜みてる

 

 

 

ちいさなアスリート

 

ヒヨコブタ

 
 

失ったと感じるのは
なぜだろうか
あまりにも安直な導きでしか
あの雪のなか
勝つことなど求めず
ただひたすら前を向きゴールにたどり着いたころの

じぶんには
ことばもなく
それでも夢みたのは

なぜだろうか

雪は見た目より冷たくもなく
そこに横たわるとあたたかく包まれて

わたしはほっとしたのだと

氷柱はすこし鉄の味がする
血に似ているんだ

氷柱を食べていた頃から
世の中はいつも不思議だらけ

 

 

 

あたりいちめんのしろは

 

ヒヨコブタ

 
 

寒波が数十年ぶりだと
積もり始めた日の朝には儚さを思い
午後にはこれは長引くと
ラッシュのころ報道されなくなっているばしょで
何が起きているか
その感覚はあの日のおそれにも似て

数日融けぬ雪が氷となり
すれ違う幼女は
なんでずっととけないの? と母親に

わたしに子がいたらなにを言いなんと答えたらう
そのぶぶんは雪より冷たい
こころのなかで雪よりも氷よりも

けれども雪はほんとうは降るほどにあたたかなのを
わたしは知っているから
そう半分じぶんを騙すように
笑わずに

 

 

 

山のみどりのその向こうへ

 

ヒヨコブタ

 
 

ひとを送るときに
しないと決めていることをするひとに
さよならをいう

けれども
あなたには言えないね
少しずつずれて
少しずつ噛み合わない日々
歯がゆさに落ち着かなくなるひとを
見ながら

今年見送った大切な友に
こころで話す
こころで話すのをゆるされるのは
あなたのような存在なのだろうか

エゴでしかなくとも
すがって泣きたくなるときに
離れていく目の前のひとのことを
こころで
相談しながら
おもう

いつかいくどこかで
輝くその笑顔に安らぎを

 

 

 

過信

 

ヒヨコブタ

 
 

体育の女教師は
相手コートに素早くボールを落とすことを授業では禁じた
これは試合ではないのだからと

あなたとのやりとりを
わたしは楽しみにことばを放つ
でもおかしなものね
やわらかに放ったそれが
スマッシュになって
わたしのからだにつきささることの繰り返し

ノックするその扉のなかに
あなたがいても
わたしのためには開かれない
そしておそらく

苦しみ惑うときの助けの呼び方を
そっと差し入れたい

名もなきものからとしてなら
その扉の隙間くらいには
きっと、たぶん、おそらくはと

見上げるこの辺りの冬の空は
痛みもつきぬけてつつんでいくよ

 

 

 

告げるのは…

 

ヒヨコブタ

 
 

我が家にやってきた時計
かっこうが鳴いて響く音を目をつむって

いい声
数の間に山のこだまを

まだ暑かった頃の寒さを
思うのは
強がりのよう
子どもの頃からの強がりは
さみしがりを隠すため

家人が入院するという
しばらくかかるという

わたしはぼんやり聞いて
受け止めないでいる

痛みも熱も
受け止めないまま冬が来るだろう

銀杏も踏みつけないようにそっとあるいて
臭いと言わないように
大事に拾うひとに笑顔をもらう秋なのだから

ずっと強がる