道 ケージ

 
 

オヤジの名は
カツヒコ
自分の柔らかい名より
その名が好きで
子供の頃よく漢字を書いた

なんでタカヒコにせんやったと
「そりゃ考えんやったな」

戦勝祈念のカツヒコは
満州建国大学にて学徒動員
歓喜嶺の砂塵で野菜を作る
高粱(こうりゃん)を大車(ダーチョ)に

継いだものは
乾布摩擦
そして、頽頭(デカダン)

夏休み、オヤジと
釣川で釣り
いつものように釣れず
オヤジはどこまでも下流へ
緑にまぎれ
行方知れず

かきわける芒(かや)
草いきれに動悸
かさね、切り傷が走る

飼いならすのだと言い聞かす
慣れっこじゃないか
ほら、思い出すのだ

釣り針のミミズが
切れ落ちて
何かを示そうとしている
じたばたと
砂が字を書く

ズックで
☓(ばつ)
もう一つ
また

 
 

註一 (  )内の表記は本来はフリガナです。このヴァージョンではルビを振ることができないため、このような表記にしています。

註二 「釣川」は福岡県宗像市の実在の川の名。玄界灘に注ぐ。萱からできた長太郎河童の伝説を持つ。

 

 

 

牛の船

 

道 ケージ

 
 

牛の骨で作った船は
槍のような何かを突き出している
骨一面に
クレーターのような孔

肋骨の穴倉は
鉄塔の内部のよう
激しく小虫が
舞い飛ぶ

忙しくて作れないわけではない
眠りたいだけなのだ

河原の石に
安定を祈り
流木のキールに
十三の羽根を刺す

作らねば
生きていけない
そんなこともあるまい

おこぼれで生きてきたのさ
人の不幸を食い物に

鉄路に冷え冷えと
横たわっていると
細かな振動は
近くでしか感じない

星を刻みに牛に戻ると
散歩の男が
いいご趣味で
と宣う

必死必敗の取っ手が
外れた
どす黒い念がこぼれ落ち
クズの葉で止める

行かねば河原
必ずや復讐―しなびる決意

隣りのソファーの
ナンプレめくる音かわし
眠りながらでも
続けるのだ

三丁目の角で
いずれも濃い人格で
佇立する者ども
見張っている?
笑っている?

ブルーマンよりは薄い

 

 

 

黒い虹

 

道ケージ

 
 

バレンシアの香り立つまでに
刈られた土手の草
匂い立つ

サドル浮かせ
疾駆
「林間」空地へ

この二子にて
「田園」に乗り込む
「いいことがある!」

金髪の女の子
前に座わり
大きな黒眼が
似ているけれど
マスクでわからない

彼女のはずがない…
逢いたい視線で
胸を見る

「ポポンS!」
突然
テレビガイドを手にした男が
ラジオを聞いているのだ
連呼する
「ハインツ トマトケチャップ!
空0アンダルシア一丁!」

男はセーラムーンの宝石箱を取り出すが
鍵が開かない
降りる駅は決まっていないらしい
「大丈夫ですよ
空0貸してごらんなさい」
私は「最後」まで行くから

風はここにも及んでいる
思い出さない罪が
罰に変わる

きのう
黒い虹を見た
二子玉川の
川面の奥
上がらない花火を
待ったからではない

嘘泣きの女は
いつものように
病気自慢と不幸自慢のあと
リモコンをたたき割った

黒い虹が
鉄路に光った