逆を行けば

 

道 ケージ

 
 

怒る、から      笑う
憤る、ゆえに     褒める
死ぬ、から      生きる

拘るなら       捨てる
棄てるから      慈しむ
跳びたいなら     座わる

こもるなら     窓を開け
殺したい だから  逃がす
旅立つなら     風呂掃除

どうもまどみちお  いやあいだみつを
まあ 続けますか  接続が問題かな

続けたい なら/から 黙る
食べたい から/なら 種まく
よい なら/から   悪い

そうではない     そうだよ
疑うなら       賭ける
信じろ        疑えよ

戻って        挑む
戦い         逃げる
生真面目に      裏切る

はい         いいえ
でも         だから
たまさか       きっと

へべれけで      もう一杯
小走りの       セキレイ
この水たまりは宇宙  流星をかわし

いいかげん      働いて
適当に        生きる
ふるえて       鎮める

波と雲が紛れ     鳥の影か
淡水の混じる     潮目
みたことない     みっともない

「廃人ね」と妻が言う

一つの残酷を夢見て
私は一人押し黙る
笑わねばならない

 

 

 

不浄観

 

道 ケージ

 
 

葬式のあるたび
父は火葬場の裏に
私を連れて行った
黒い鉄扉は薄汚れ
丸いのぞき穴は
炎で何も見えない
「これが人間たい」

パイプ椅子に置き去りにされ
不思議へ傾く
「不浄観」だったのか?

煙流れて
煙流れて眺むれば
コンロの炎も
付き具合が悪い
電化製品は壊れる

三月の風は肉まんの香り
土饅頭を二、三
満州歓喜嶺の土埃に
五族協和の屍を晒す

父は満州から帰り
ブンヤの傍ら考古学
私たち兄弟を古墳に連れ廻した

「なんもならんやったね」
最後の見舞いの時
父はそう言った

 

* * * * *

 

谷崎潤一郎「少将滋幹の母」に
「不浄観」が出ている
若妻を甥の藤原時平の策略で
奪われた帥の大納言藤原国経は
夜な夜な屍体を見つめに墓場に出かける

月の光は・・・雪が積ったと同じに、いろ〱のものを燐のような色で一様に塗りつぶしてしまうので、父を密かにつけた茂幹は最初の一刹那その地上に横たわるものの正体が摑めない

「・・・長い髪の毛は皮膚ぐるみ鬘のように頭蓋から脱落し、顔は押しつぶされたとも膨れ上がったとも見える一塊の肉のかたまりになり、腹部からは内臓が流れ出して、一面に蛆がうごめいていた。・・・」

屍体を眺めすべてはこのように成り果てていくと達観すれば、やがてあらゆるものが不浄、無常と見えてくる。絶世の美人も血膿の塊として映じ、飯粒も白い虫ヘと変じる

茂幹は父に聞く
「迷いがお晴れになったのでしょうか」
父は山の端へ目をやり
「なかなか晴れるどころではない。不浄観を成就するのは、容易いものではない」

そうため息のように漏らした

 

 

 

ぼろぼろ

 

道 ケージ

 
 

それは花筏というには余りに
薄汚れていた

ゴキブリのように生きた
恨みは
思い出せない

突き合う度に
石に血が滴る

そう振り回すなよ
強く握ると刺さんねえぞ
こうやって
こう刺すんだよ
ホラ

で、中で抉る、なっ
痛ぇだろ

やってみな
おー、そうだ、そうだ

「あるべきにやあらむ」

空が青い
さらっと
川が流してくれらぁ

さいなら

 
 

* * * * *

 
 

生徒の必死さに
ぼろぼろの河原で
こんちくしょう
の花が咲く

徒然草百十五段
「宿河原といふところにて、ぼろぼろ多く集まりて・・・」
教室の果ての青空が痛い

高架の下に見つからないように
石碑が一つ立つ
卜部の兼好はなぜここに

第百十五段
話の内容は単純きわまりない。
「しら梵字」というぼろが師を「いろをし」というぼろに殺され、その恨みを果たすためにわざわざやってきている。いろをしは手下を抱えるいっぱしの悪僧。

「いろをしはおるか」
「オレだが。よう来たな。ああ覚えてる。そうか、ならやってやろうじゃないか。おめぇら手出しすんなよ」

「二人河原に出であひて、心行くばかりに貫きあひて、ともに死ににけり」と兼好はそっけない。次のように記す。
「ぼろぼろといふもの、昔はなかりけるにや。近き世に、ぼろんじ・梵字・漢字など云ひける者、その始めなりけるとかや。世を捨てたるに似て我執深く、仏道を願ふに似て闘諍を事とす。放逸・無慙の有様なれども、死を軽くして、少しもなづまざるかたのいさぎよく覚えて、人の語りしまゝに書き付け侍るなり」

「なづまざる」は少し気になる。
「暮れなづむ」で始まる曲もあったが、同郷の人のあの図々しさは自分を見るようで勘弁してほしい。「なづむ」は「泥む」と書いて、泥にとらわれて身動きがとれずに滞る様子から来ている。だから「なづまざるかた」とは「死にこだわらない」という意味。生の泥をすーと抜け出ることは、確かに「潔い」。

 

 

注)ぼろ・・・「非僧俗の無頼乞食の徒で、山野に放浪する類」(安良岡康作の註による)

 

 

 

馬の王

 

道 ケージ

 
 

浜辺にいる馬の王が
首を外し
入水するらしい
しょうがないので
見に行く
そして
馬の胴体の中で考える

こんな世の中
ではないはず
おかしいじゃないか

しかし
なぜオズワルド
驚愕の顔で撃たれる
(同じさ 殺られるときはね)

ワタリ島に
入り陽
西方に
突き出る呼子
松もああ、何もかも
イカレタらしい

「終ったから」
すれ違いに「美がな」
素っ頓狂な省略で
誰もが胡麻化す

うまくかわしな

賢明な人々よ

未来はないのだから

帰宅した途端

修羅場かよ

十字を切りながら
歩く
眼帯はずしな
見えてんだろ
最後のクラゲが
砂浜でヘタれている

 

 

 

穴か

 

道 ケージ

 
 

闇市跡の
カトリ屋で
一杯ひっかけ
路地を
出た途端

目深の野球帽
突然突き出しやがった

黒い穴
やたら大きな
虚ろな筒

あっ
遠い野からのような
大きな音

気が抜けたように
膝が崩れ
左側頭部の大きな穴に
変な風が通った

顔は分からない
組合の二人がやられたから
気を抜くべきでなかった

Dの仕業だ
こんなことなら
奴を先に殺っとけば
まあしゃぁない

撃たれてからというもの
俺の視界の
右側には
いつも黒い穴がある

近寄ってのぞくと
ブラナの草原
何百もの豚の背中だったり
故郷の港だったり
「築港の博多タワーやん
空0家族で上ったわ」

おめでてぇ奴だ
でもまだ熱がある
掌には痣まで
穴に氷
放り込んでも
鼻からすぐ出る

あゝ
母が悲しむだろう

 

 

 

怪人の

 

道 ケージ

 

そろそろ玄奘が女になる頃
八戒の男色は艶めき
ちくわを洗う
憂鬱な沙悟浄
空を見上げて血を吐く
舌を噛み切ったらしい

陵辱の朝
緑の皮膚に
毛糸玉 転がる
弾かれた矢は
肺をかすめ
敦煌に果て

切られた鼻は
桃色の血と息で
とてつもなく臭い

手製の網で
絡めとる
四つ脚を銀でくくる
もう 字は書けぬ

メスカリンとモルヒネ
鉤爪で目を抉り
即、耳を削ぐ

人には言うな
もう少しで
助けに行く

出会い頭
白い豚足に
踏みつぶされる

怪人どもの釣り下がった
電線が夕方に光る
自らの光ではなく
高電圧のショートにすぎない
警告音のように
焼け落ちていく

「オレはオレだけのためにオレを滅ぼしてきた
空0怪人の務めゆえな
空0罰すると
空0罰せられたいのさ」

扁桃体が震える
そのまま縮んでいけ
それから
草原に出て
枯れ草を踏んだ
弓を放ち
手応えを急に感じる

鉄塔が電線を放ち
空を何重にも配分する

すべて射落す
言葉 探しに

 

 

 

虫の家

 

道 ケージ

 
 

近頃、虫が通って困るわ
妻が言う
見ると廊下の縁に
極小の虫が這っている

前から言ってたじゃない
初めて聞いた
第一
言葉なんて交わしていない

この子たち
床下に入っていくのよ
はい、と
ムシコロリ

なんちゅう殺虫
頭痛になるから
手でつぶすよ
それじゃ意味ない

厳重なマスクで
虫の行き先を追う
子ども部屋だ
そこには見慣れぬ
大きな黒いカバン

入っちゃダメ!
そんな子の絶叫
腕に食い込む爪が痛い
ファスナーを開ける

強烈な異臭とともに
中から黒い虫が
しゃりしゃりと
這い出す

何だこれは!
床下じゃないじゃないか
あざ笑うように
わかんないの?

あんたが作ったもんよ
這い出し
何を奏でる?

こんなもん作って
笑いもんということ
わかんないかな

なんば作っとうとや
お互い
笑いもんたい

 

 

 

丸い家

 

道 ケージ

 
 

大きな球体の家
黒い板を何枚も貼り合わせ
うまい具合の大球だ
やや上部に小さな窓がある

朝日が窓に光り
板壁は複雑な反射をして
美しい
道の果てに気球のよう

それが今日は違う
銀のネックレスのように
窓から
人が吊り下がっている

艶消しの黒に
鎖が光り
へいせいの
時間が止まる

*  *  *

それより
どうやっておろすんだ

「ねぇ」
尻を突き出した女が
下から誘う
唇がかわいい

あれ どうすんだ
「ほっときなさいよ
関係ないんだからさ」

誰か気づいてんのかな
「そのうちね
いいのよこここじゃ
みんな知らんぷりよ」

降ろさないと
「あんた行くの?」
まずは梯子を買い
面倒な手続きが必要だ

「早く」

この部屋もそういえば
丸く湾曲している天井
べッド脇に
鎖がとぐろを巻く

黒い縁取りの
小さな窓枠に
鎖掛けの
フック

この平原には
いくつもの大玉が
あるのだった

順序通りにはいかない
もう
とうに来ているのに

 

 

 

天使よ、早く帰りなさい

 

道 ケージ

 
 

祈りをやめないで
そう並ばれては
恥ずかしい

突然
やたら強く 声なしに
腿を摑まれた朝

組み伏すしかない
羽根が 口に入る
離さない 背負うように

おあっ、関節を
外された でも離さない
あなたはなぜ滅ぼさない
なぜ試すのか

私の貧しさは
あなたの貧しさではないのか
力を入れるたび組み伏され

飛び立てば、いいではないですか
私を放りやり

お前は明日から驢馬
「ロバですって」
「言わんこっちゃない」
「さあ、大人しく座って」
帽子なおして

いつのまに
従わずに従っている
反抗の手が命乞いの形だ
おまえは私なのです

祈りをやめないで
見ているだけで
いいのだから

 
 
 

註 P.ゴーギャンの「説教の後の幻影(ヤコブと天使の闘い)」に触発されて書いたものです。。