また旅だより 03

 

尾仲浩二

 
 

八十年代の終わりに、あの人がいっしょに行こうと言っていたパリ。
その時のためにと少しだけ言葉を教わったりもしたけれど。
時は流れて、今年あの人はフランスから勲章をもらい、
僕はあの頃のあの人の写真をパリのギャラリーに並べた。
三十年が過ぎて、ようやくパリですれ違えたような気がした。

2018年11月9日 フランス パリにて

 

 

 

 

また旅だより 02

 

尾仲浩二

 
 

上海で懐かしい人に会った。
カナダ人の彼は仕事でフランスから東京に越してきて、ある日僕の家を訪ねてきた。
僕は英語ができなくて、彼も日本語は話せなかった。それでもとても仲良くなった。
もう十五年も前のことだ。

その後、彼はフランス人の奥さんと別れ、日本の人と結婚し長崎へと越していった。
いまは上海と長崎を行ったり来たりして仕事をしているそうだ。

上海で、僕は少し話せるようになった英語で、彼はカタコトの日本語であの頃の話をした。
今度は僕が長崎に彼を訪ねる約束をして別れた。

2018年9月23日 中国 上海にて

 

 

 

 

また旅だより 01

 

尾仲浩二

 
 

息を切らしながら考えていた。どうして山に登っているのだろうと。
頂上までたったの45分と言われ、軽い気持ちで歩きはじめすぐに後悔した。
なんとか引き返す言い訳を考えていたが、だんだん頭が回らなくなって、景色を眺める余裕もなくなった。
石でガラガラの足下ばかりを見ながら、なぜ山に登っているのか、いまさら考えても仕方のないことをぐるぐる考えているだけだった。
モンテローザの雪を眺めながらのビールの味は忘れない。
そうして、どうして山を下るのかは考えるまでもなかった。

2018年9月7日 Italy Gressoney にて