The abuser

 

工藤冬里

 
 

ほど遠く
1968の歌謡曲を組み合わせる
cell様の中に黒點
投票日に児童虐待をおこなった
小石や根の多い部分に行き当たる指先が
絶望を攀じるようだ
腰にずきん
革命からほど遠く
法律はぼくらを護る
蛍光マーカーのどんな色もフィットしない雨の日の
どんな声色も眉もフィットしない雨の日の
grossがsinを形容する様
愛からほど遠く
ほど遠く

 

 

 

最後なのにないがしろにしたこと

 

工藤冬里

 
 

アジサイが暗い紫になる土壌だった
力は林道に流出した
口が裂けても言えないこと
材木ですじゃろ、に変換してみせた
剥き出しが曝け出しではなく脱ぎ捨てなら
蛞蝓は蝸牛の割礼だった
愉悦の土砂の流出した浦で
私が流木のように近づいてきた
避難勧告の浜辺で
私たちは私たちの肝臓を探した

 

 

 

(宝のある所は池であった)

 

工藤冬里

 
 

宝のある所は池であった
水は濁りににごり
いのりの影さえ映らなかった
花でも鳥でもなかった
膿んだ毒は全身に回った
ボーダーを着た女にとっては
遠近法などどうでも良かった
斜めのストライプのネクタイは
ネクタイではなかった
デザインはもうどうでも良かった
ただおかしみがあった
土が土に戻るだけなので
死んだら嫉妬もない
ひとごろしのエンターテインメントの中で
ぐっすり眠るには濁りが必要なのだ

 

 

 

めがね屋

 

工藤冬里

 
 

羊という字はリスカを想わせる
白と紫を基調とした挿絵の中の 海鞘色した私達は捲られ
さまざまな色かたちの眼鏡の フレームだけが残された
だから「眼鏡のドクターアイズ 新居浜店」の手持ち無沙汰なあなたは
白と紫を基調とした余白の中で
今はあっても将来なくなるもの を拭いているのだ
あなたはあなたの若さを差し出す
規約より原則に従順な羊として
見えない人が見えるようになり
見える人が見えないようになるために
私達の海鞘色の頁は捲られて
もはや死はなく
あなたは フレームだけになった嘆きと叫びと苦痛を 拭く

 

 

 

私はἐγὼ [egō]

 

工藤冬里

 
 

自然に二部に分かれた厚みの中で
蛍光燈の映る瓢箪
三年居た町に
書き送る 管理
話しかけられてはいけないことになっている男が座っているのだが
数段上に思える
何人居たかを考えるだけで 地表から深まる理解
霧のダブリンで I was sleeping と唄う
歌は
自然に二部の厚みとなって
蛍光燈の映り込む陽焼けした瓢箪が
三年居た町に
書き送る 管理/家政の運営 οἰκονομίαν [oikonomian]
という言葉
何人居たかを考えるだけで 地面から深まる
低くない 管理
管理 は低くない
地面から深まる
*    *
自然には分かれない合唱の中では
週末の時計は考える以上に終わりを差す
きざしは常に単数形である
戦死者はたった一億人
地震はハイチ22万人の方がひどかったのに
黴が生えたと文句を言う
流行が病で不法
背中のアヒル口の中が黒い
複数系は普通以上に早く溶ける
あと二分の体制
黒を構成するいくつかの減法混合原色が
眼球の周りで分かれ
文字の止め撥ねや頬の曲線の端で顕わにされる

歌は自然に二部に分かれ その厚みの中で
テカる瓢箪
話しかけてはいけない数段上の
スーダン上の
場面は地表から深まり
オイコノミアンの中で言わしめるだろう
私は世を征服したἐγὼ νενίκηκα τὸν κόσμον.
[egō nenikēka ton kosmon]
I conquered the world.
「私は」って「エゴ」っていうんだ
エゴラッピン ていたね
蛍光管が映り込む日に焼けた瓢箪
歌は
自然に二部の厚みとなって

 

 

 

サファイヤ‬

 

工藤冬里

 
 

昔はここしかなかった‬
箪笥には何もなかった
分業を見せられ
なりたいものになると言われ
薔薇園には行かず
不妊の女は歓声を上げる

昔はここしかなかった
ここからものを取り出していた
立ち往生できるだけ 幸せだった
何度でも名を忘れ
なりたいものになると言われ
びよびよ鰹には行けず
‪見たことを話し‬
聞いたことを行う

昔はここしかなかった
隘路を歩いた
アッバー
隘路を歩いた
片目でも 髪の毛がなくても
似顔を描いた
なりたいものになると言われ
サファイヤを土台として置く

箪笥を開けると
新聞紙が敷き詰められていた
二つの道しかなかった 見渡すかぎり

 

 

 

an alien

 

工藤冬里

 
 

挟まれた彩度の中
牛蒡の身長で立つ
フリンジには青紐が渡してあって
この道、と言われていた分離divergenceは
揺れ戻しの後の
酸いdressingの中
油のように浮いてくる
画面の僅かな乳濁の中
他国の刑法で裁かれようとする
among the aliens
髪が黒すぎるカラスみたいだ
いかに離れ落ちたかを具に見
野獣にやられるさまを具に見
抽象する
逃げ道がない
輝度温度入り乱れ
曲線も直線も平面に入り乱れ
挟まれた彩度の具に
ワイド画面も狭められる
as an alien among the aliens
頑なに守る領土
頑なに付け足す領土

 

 

 

ジョージア‬

 

工藤冬里

 
 

合挽きを押し固めて焦がした黒が‬
‪朝ごとに配られ‬
‪野菜はなかった‬
‪野菜のない憐れみ‬
‪心の中のかわいい気持ちに対して‬
‪流れる‬

‪流れない‬
‪孵化を窺う水の中から‬
‪既に発光を始めた腹‬
‪わたしは目に触れる‬

‪あなたの眼球に触れる‬
‪あなたを放流せよ‬

‪ひかりを飲め‬

 

 

 

そこから襞が、流れ出ていた

 

工藤冬里

 
 

コンパスの壊れた黒から
灰色の襞が流れ出ていた
ネパールの 黒い50度の溜まりから
流れ出ていた
晴天乱気流にぶつかり
高度がいきなり50メートル下がった
インド側に首を落とす
いつ突き落とされてもいいほど愛しているので
役割語の声色を抜いた
シエラレオネの
赤と黒の
蛸漁
以外を切り捨てる夢想が不可能なので
正しいことを行いたいと黒の背中に歌い掛ける
黒から四つの川が流れ出ている
第一の川の名はピションという
その辺りは金を産出する

 

 

 

温度の瀬戸

 

工藤冬里

 
 

食い尽くす温度を正確に測り
温かさとの距離に明確に絶望する
私達は誰であれ、ボロアパートに住んでいる
将来修復されるのか、日々修復されるのか
今の気候なら 永遠に続く見えない虫の頭部と胴の隙間を
バックネットから我を忘れて覗き込んでいることも出来るだろう
決してあきらめないのはカモミーユの花
温度の中に浮かぶと透明だ
旗を待つ裏日本から心を広げようとするが
嗄れ声の雨の中 ヴェールが直線を覆い
島々の閉じた線が 解(ホド)けていっただけだった
瀬戸内海はこの温度のまま、池のように干された
泳いで渡るための直線は 寸断された
海の温度に従っていたので、もう名前を思い出せなかった
2011年の5月に、じぶんの葬式の段取りだけはしておかなければならなかった
身辺整理とアーカイブ化が交わる一点を現在地とし
ナビは海底の道を具象しようと彷徨う
家がない
白い霊柩車の行き交う地上に昇るまで
この航行の温度が家だ
線は強迫症と闘い
スナメリを見ては引き返す
温度の瀬戸