また旅だより 12

 

尾仲浩二

 
 

島根県の江津に泊まった。ごうつと読む。
七月の終わりから約二週間のひとり旅。
この日は夏休みはじめての土曜日で、観光地はどこも宿代が高かった。
仕方なくこのちいさな町のビジネスホテルに泊まったのだ。
どうやら東京からの移動時間距離がいちばん遠い町らしい。
そこは気になったけれど、なにしろ強烈な暑さだった。
なので陽が落ちる頃に宿の回りを散歩しただけで、翌朝はすぐに駅へ向かった。
でもそんなついでに泊まった町が妙に記憶に残ったりする。

2019年8月3日 島根県江津にて

 

 

 

 

パラレルワールド

 

田辺 弓

 

 

雨上がりの土手の道

足もとに光る草むら

泣きつかれたこどもみたいな

一日のおわり

しずくは数珠のように連なって

緑のなかでゆれる

逆さまの世界は

 

パラレルワールド

わたしたち、どこにいる

 

運動場にね、白線を引いたでしょう

あの線の 向こうとこっち側

わたしには超えられない

新しいスニーカーのかかとで

踏みにじったらたやすく消える

あの線の 向こうとこっち側

雨が降ったり

風で巻き上げられたり

小さな足あとを残す笑い声に

晒されるだけでさえ

消えて

消えてしまう

 

そうしたら

入り口も出口も

どこにあるのか分からなくなって

ひとは

道を塞がれた蟻みたいに

戸惑い、

困惑して、

ウロつき回り、

訳もわからぬまま、

それでも闇雲に、

とつとつとやたらな方角に進むのみ

 

あの線の向こうとこっち側

わたしとあなたを分けている

あの線の

 

それでも

入り口と出口を

探して

首を振ったり

ターンしたり

うつむいたり

四つん這いになったりしながら

途方に暮れて

空を見上げる

 

夕暮れどき

波のような雲

空の果て

 

雲が

やさしい身ぶりで

ゆれる

あの線をまたいだ

向こうとこっち側

あの線の

向こう へ

いける気がして

 

 

 

人とそのお椀 06

 

山岡さ希子

 
 

 

無理な体勢 どうしたいのか 座り込み 両手でお椀をしっかり掴み 思い切り前かがみ 両足の間から 股の下に両腕を押し込み お尻の下にお椀を送り出す ちょうど肛門の下に お椀がくるように つるりとした身体で 性別不明 頭と目は少し前の方を向いている

 
 
 

椅子

※ M氏追悼

 

道 ケージ

 
 

森の外れ
血管で出来た椅子は
蔦と絡まり
佇む

ラメの泡のような液血は
混じらずも許し
宿命を代謝しあっている

地表の実生たちが
ソーダ水のようと
われがちに駈け上がる

座られた記憶に
座りこむ椅子
真ん中の窪みが誘う
椅子は花である

ためらいなく入る人々
置き去りの私

椅子は
あちらから落ち窪んだ根茎か

死ねば終わる
二つの世界

あの崖だよと誰かが指差す
死んでみせた人
緑に包まれると
もう椅子とはわからない

 

 

 

なりすましのバラード

 

工藤冬里

 
 

一行目を抜かれて
すでに発生していた
わたしはすでに発生し啼きはじめた
蛇腹を震わせ
音図ozと立ち上がった
ozOzと進路がずれていくことはわかっていた
ずれた
ずれたままバスは進んだ
透析の血に脳が追いつかなかった
即ち脳は萎んだ
脳は谷を越えた
谷を越えて脳ははしる
血に追いつけないまま
脳を凋ませている

* *

置き換えられた枕に
良く似た顔のidol
かどみせのグレーヘアー
セブン・シスターズ
現実逃避は大好きなんですけど 銀化するんだよね
その通りですね全くその通りです
羽織り乍ら言う
そのようなことがあったとしてもひとつづつなくして
不義に顔を顰める
南洋の髪型に
緑を流す
水鳥の首
馬場はどうなっちゃったんだろう
あのやもめの子はどうなっただろう
軽天の時は飴玉を皆に分けていた
この体制での居住は一時的なものなのでリフォームしたりはしない
寝間違えたまま例えを使う
カイツブリだ
イボイノシシよ
進歩していない老人が
江戸っ子っぽい不完全さで
おしえをしろめる
山腹に点在するうつ伏せのマンゴー
目を閉じて階段を塗る
そこまで悪くなるのです
クビは簡単
タレ目で頷く良心
思ってもいない時刻
すでに火は点けられた
安全のうちに破棄してください

* *

蟻浴するカラス
大久保の夜空に雲
ルビが逃げていく
赤い蜘蛛の子らのように
赤い 引き潮
百人町の 喜久井の
約束の地に川はなく
知らない耕作法を学ばなければならなかった
4月後半から9月まで雨が降らなかったので
豊作を紐の字の主(バアル)的曖昧に縋った
東京の夏もいちばん長い日を前に天気の子に縋っていた
脳梗塞の前に
弱さとレインボーがタッグを組む
哲学は人の自然な願いに付け込んでいる

* *

さてその頃
一行目では彼が死んでいた
透析の血に脳が追いつかなかったのだ
見舞を仕舞った最期の日(八月六日)
数日前に見覚えのある、三つの棒のような入道雲を彼も描いていた
はんぶんインド人の孫たちが病室でそれに着色していた
りんごはごりんじゅうの祖父の顔を見て失神した
石鎚に雲は立つ
帰ってみれば
「サンダル下駄の感触が秋だった」

 
 

 

 

 

「夢は第2の人生である」あるいは「夢は五臓六腑の疲れである」 第75回

西暦2019年皐月・水無月蝶人酔生夢死幾百夜

 

佐々木 眞

 
 

 

町内会長が、駅前広場の真ん中に座りこんで、「オラッチは町内会費をちょろまかしてモンブランの万年筆をたった70円で手に入れた」と自慢していたら、たまたまオート三輪で通りかかった男がそれって犯罪じゃんというてエンジンを吹かした。5/1

A社の思い出撮影機のお陰で、私の父の映像は、かつてない鮮明さと、深みを、併せ持つようになった。5/1

鍾乳洞のように真っ白な巨大なU字溝の下を、高速鉄道が走っている。少女とムク犬がU字溝をぴょんと飛び越して、向こう側に行ったので、私も真似をしようとしたが、怖くてできないので、U字溝の内部を歩いて、昇り降りしながら彼らの跡を追った。5/2

そこは70年代の夏の以前どこかで見たような街だったが、どこかから性風が吹いてくる。ミモザの花の香りだ。これが吹くと、男も女もセックスをしたくて堪らなくなるのだ。とある店先に、さっきの少女が座っているが、この店の主人に抱かれる順番を待っているようだ。

目の前を、やたらと奇麗で淫美な女たちが、行き来している。どれでもいいからいい女を早く捕まえてモノにしよう、と焦っているのだが、選択を誤るとヤバイ結果になるに違いないと思うと、なかなか手が出せず、ますます焦り狂っているわたし。5/2

おらっちはロイヤル・シェイクスピア・カンパニーで「テンペスト」を演じているんだが、途中で腹ペこになってしまい死にそうだが、ここで止めるとみんなから怒られそうなので、じっと我慢してる。5/3

L社では、年に一度軽井沢でお客様を招いて、特別謝恩会を開催している。今年は売れっこふぁっちょんアイコンのヨシダヨシコ嬢が登壇しておしゃれセミナーを開始したが、客層とかけ離れた自慢話ばかりだったので、30分もたたないうちに誰もいなくなった。5/4

朝夷奈峠のてっペんまで登ったら、オオシマさんがいたので、アクアの新車には自動停止装置がついているのかどうか、を尋ねたのだが、彼がいるのは、なんせ奥深いほら穴の中なので、声が反響して、なにをいうているのか、てんで分からなかった。5/4

その施設が丸焼けになってしまったので、焼跡を見に行ったのだが、その入口にまだ辛うじて残されている「千客万来」の歓迎の辞が、哀しかった。5/5

映画を鑑賞しながら世界1周するクルーズツアーの最後の晩餐会で、出てきた豪勢な料理をおいしく頂戴していたら、サイトウさんが鍵を呉れた。きっとこれで荷物をロッカーに入れてからレジで精算するのだろう、と思いながら、なおも喰っていたら、誰もいなくなってしまった。5/6

真夜中に物音がするので階段を降りて明かりをつけて居間をみると、チュウチュウネズミがとうとう罠にかかってもがいていたが、10連休の間、林檎を食べたり、ドアを齧ったり、糞をまき散らしたり、悪さのし放題だったので、誰からも同情されなかった。5/7

半永久的に戦前のはずだったのに、新年号に切り替わってから突如戦中になってしまって、ほとんどの若者が徴兵されてしまったが、私は透明人間に変身したので、何枚赤紙が舞い込んできても、平気の平左で銀座通りを闊歩できるのだった。5/8

官憲の弾圧が、だんだん酷くなっていた。まだ召集されない大学生たちは、喫茶店や定食屋にたむろしていたが、時々やけくそになって素っ裸になり、裏通りで、「猫じゃ猫じゃ」踊りをおどっていた。5/8

このほど○×党に納品した×○社製作のCMは、かなりシュールなテイストに仕上がっているが、担当者の凸凹部長によれば、それは編集の隠し味として、随所に2人の人妻の嬌声を入れ込んだからだという。5/9

東京駅からスカ線に乗ろうと思ったが、気が変わって久し振りに市電に乗ってみたら、東京は全面的に昭和の風景だった。運転手が気まぐれな奴で駅でもないところで勝手に止めて、客と一緒に楽しそうに酒を飲んでいる。5/10

そうだ、ついでに昨日無くしたカバンを探そうと思って、運転手に頼んで展示会場駅まで行ってもらったが、あんなに数多くのバイヤーたちで賑わっていたのに、驚いたことには建物の影も形もない。5/11

戦争になったので、急に物不足になり、八百屋に行っても私の好きなミカンやイチゴもない。なんとかしてくれえやと怒鳴っていたら奥の方から親父が10個500円の格安で林檎を出してくれた。5/12

私の授業は、学生が少ないので、いつも1つの丸テーブルに座ってゼミを始める。今日は全部で10名だったので、私は「さあ今日は2人づつ5つのグループに分けるから2人一組で他のチームと闘論してくれ給え」というて右手で4回手刀を切った。5/13

困っているその子に向かって、「将来はどんな仕事に就きたいの?」と親切な振りをして訊ねてみるのだが、いかなる言葉も発しようとはしない。5/14

早く早くと急かされて駆けつけるとなんと昔別れた女の結婚式だった。相手の男も私よりも遥に男前で堂々としており、羽振りもよさそうで、私はなんとなく引け目を感じてうなだれていた。5/15

ホテルのバーで人と会う約束があったので、先に来てジュースを飲んでいたら、周りの人たちが次次に斃れていく。後で聞いたらどうやら全部のアルコール類に毒が入れられていたらしい。医師の禁酒命令を守っていてほんとに良かった。5/16

その外国人の女を殺したのは私だが、そのことは誰も知らないと思っていたのに、ある朝彼女の家族と称する人たちが突然我が家に押し寄せてきたので、冷汗三斗のわたし。5/17

アジアの片隅でほっそりとした夜の女が近付いてきて、身をひさごうとしたので、どうしようかとひるんでいたら、その後にその女の夫と子供と思われる2人が物陰に潜んで事の成り行きを見つめていたので、驚いて逃げ出した。5/18

私が入っている刑務所ではどんどん人が増えるので、不審に思って観察していると、真夜中になるとこの国に押し寄せた世界各国からの難民が、三食昼寝付きの安住の地であるこの国立刑務所に潜り込むことが分かった。5/19

ビルの通路の向こう側の植木鉢の葉っぱに蝶の幼虫がくっついているのが分かったので、コウ君と一緒に駆け寄ったがいつまで経っても辿りつけない。善チャンも出てきて手伝ってくれたが見つからないので朝食をとることにしたが既に済ませているコウ君はどうしよう?5/20

絶海の孤島で絶世の美女と2人だけの生活をしているのだが、3日間にわたる壮絶な性生活を終えることなく私は絶命していた。5/21

ハ長調のドは分かるが、ト長調とかへ長調のド、まして変ロ短調のドがどこなのか、そしてそれらはピアノのどこを弾けばいいのか、がさっぱり分からなくなっていたので、パニック寸前のわたし。5/22

「大川周明の3つの遺言を聞かせようぞ!」という声が聞こえたので、外に飛び出すと、幸福の科学の大川隆法が街宣車に乗って叫んでいるのだった。5/23

犯罪に巻き込まれた私は、無実を証明するために、私が映っているビデオを証拠品として警察に提出したが、それは私が誰かに脅されて誰かの寝室に連れて行かれると、そこには近所の奥さんが横たわっているよという実に珍妙な代物だった。5/24

いつか夢見た夢をまた見ようとして特別ドレームフェアなる催しに出席しているのだが、会場に設置された即席簡易ベッドの中で何回トライしても、絶対におなじ夢を見ることはできず、途中から他の夢に変わってしまうのだった。5/25

将軍は私らにカレンダー付きの鍵を呉れたのだが、その鍵は1日に2回しか使えないので、私らは往生した。5/26

獅子舞になって子供の頭を1回がぶりと噛むと100円頂戴するという仕事で長年にわたって生き延びてきたのだが、少子高齢化の大波に呑みこまれてもはや二進も三進もいかなくなっていた。5/27

前回は2500回だった名人の連続太鼓叩きは、今回はなんと8500回という驚異的な数値に達し、わたしら弟子どもはただただ怖れ慄くしかなかった。5/28

その男は時代がバブリーになると謹厳実直に、バブル期が終わると途端に衆酒池肉林状態に突入するという特色を持っていた。5/29

若い女性モデルたちを石垣の上に横一列に並べて撮影しようとしているのだが、言うことを聞かないで勝手に動きながらおしゃべりしている彼女たちに頭にきているカメラマンの私。5/30

パン屋の私の前に、突然見知らぬ女が現われて、むかし学生時代に私との間に子をなしたが後に堕したというのひと違いではないかと驚いているが、梃子でも動こうとしないで、私が作ったアンパンをむしゃむしゃ食べている。5/31

大宴会で合計8皿のフルコースの御馳走が出されたので、夢中で食いまくったが、だんだんお腹が痛くなって来た。しかも最後の7皿目と8皿目しかそのメニューを覚えていない。豚に真珠とはこのことなり。勿体ない限りだ。6/1

マエダ女史の紹介でサンダース氏に会った私は、彼から懇切丁寧にフライドチキン事業経営のノウハウを伝授されて大感激した。6/2

疲れきっていたが一睡もできずにいた私の頭の中では、あの悪名高いハズキルーペのCMが朝まで流れ続いていた。6/4

土曜夜の試写会でゴダールの新作映画「スプラッシュ」をみていたら、「これから私はしろうやすの世界を立ち上げるんだ」とゴダールが呟いていたので、近くのカフェに入ってコーヒーを飲んでいたら、なんと鈴木志郎康氏がいたので、かくかくしかじかと報告したが、「あ、そうですか」というつれない返事だった。6/5

240円で出来立ての冷たい薬?を売っていたので、私はすぐさまそれを買った。6/6

妻が足利学校の校長になるという話を聞いて、私は耳を疑った。妻もどうしてそうゆう次第になったのかについてまったく知らないという。足利に移住して、就任の挨拶の原稿はたぶん私が書くことになるのだろうが。6/7

テレビ局で仕事をしているヤシマ嬢のシャツの上に「ネコテペス」という意味不明の西洋文字が刺繍されていたので、私はさりげなくその「ネコテペス」を触ってみた。6/8

巷の噂では、この食堂では蛇や猫や人間の肉まで惜しみなく味付けに投入しているので、ラーメンのみならず何を喰っても旨いという定評があったが、臆病な私にはあえて試してみる勇気はなかった。6/9

ついに宿敵と相まみえた日、私は腹を撃たれるのを避けるために左半身に構えながら、右手で握りしめた拳銃で、彼奴のどてっぱらに熱いダムダム弾を撃ち込んでやったのさ。6/10

今は江戸時代なのだが、その隠密は100メートル10秒フラットの記録保持者なので、藩主が参勤交代をするたびにその先導役として東海道を何度も往復して安全警護に貢献したので、ついに第3家老に出世したそうだ。6/11

病院長はその患者は政治的に特別に重要な人物なので、財前教授とその反対派の有力教授の2人が1日おきに完全かつ徹底的に看護するよう厳命を下した。6/12

2人の宿命の対決が始まった。2人とも抱いて殺して煮立った鍋に投げ入れた女をもう一度甦らせよと天主から命じられたので、懸命に祈りを捧げているところだ。6/13

水兵の私は軍艦に乗り込み、敵艦の外壁にとりついてガリガリ穴を開けようとしていたが、味方のコンパス銃は0.1ミリ口径、敵は0.3口径なので作業が捗らず、先に撃沈されてしまった。6/14

せっかく新床教授の授業に出ようと早くから下宿を出たのに道草を食って開始時間を5分過ぎてしまった。2人連れの学生にEW教室がどこにあるのか尋ねたら、「今日はもう諦めて、助手のフクダさんに来週から出るからよろしくと根回ししといたほうがいいですよ」と言われた。6/15

お上の不在を衝いて私は裏山のウサギ穴に潜り込んで、秘密の財宝を探し出そうと意気込んだが、穴があまりにも深すぎて帰り道を見失ってしまい、途方に暮れている。6/16

手や胸や腹が痒くて痒くて堪らないので、もう狂ったように目茶目茶に掻き捲っていると、突如得もいわれぬ快感がどこかから湧き起ってきて、これはいかなる生理現象に起因するのかと考え込んでしまう。6/17

私は新種のサルだったが、友人サル宅を訪ねて玄関口の靴脱ぎの置き石の断面を見ると、「令和はかなし」と刻んであったので、これは「令和は悲し」と読むべきか、はたまた「令和儚し」と読むべきかいずれとも決めかねてその場に立ち尽くしていた。6/18

「佐々木眞文学全集」のどの箇所に「世界最短詩の試み」が挿入されるのかを、いちいち検証していくので、眠るに眠れない夜だ。6/19

「2年間あんたをよその飛ばして悪かったけど、今月からまたうちの課の戻ってもらうから、すぐに来年度予算を案を作っといて」とタナカ課長は平然とのたまうのだった。6/20

息子にいい嫁を見つけるために、ゴッドマザーはどんなことでもした。朝から晩まで影のように息子に張りつき、息子の目となり手となり足となって、よさそうな女性を血眼で探しまくったのである。6/21

お父さんの仕事の都合で離れ離れになっている私たち。お父さんは田舎の実家に、私はお母さんと一緒に都会の一部屋で暮らしている。お父さんは「もうちょっとでみんな一緒に暮らせるようになるからな」、というて私を励ましてくれた。6/22

その男は、いやあ美味いなあ、ウマイ、旨いと言いながらその料理に舌鼓を打っていたが、良く見るとその口元は○というより△なので、小さな魚などはどんどんこぼれて逃げ去っていくのだった。6/23

半世紀ぶりに訪ねてみると、その下宿はいまなお京都の左京区にあった。私が2階の部屋に入ると2人の大学生がいたが、構わず押入れの中を開けると、その中には私がこの部屋の住人であった頃に買い集めた「世界文学全集全100巻」がそのまま出てきた。6/24

また新しい戦争が始まりそうなので、私はアシスタントの女性に命じて長さ10メートルの鋭く尖った竹竿をたくさん用意させた。いったん事があれば、これで雑兵集団を武装して敵に先制攻撃を仕掛けるのだ。6/26

ネーミングに関しては業界ナンバーワンの私は、完成まじかの高層ビルを見学しながら、その呼称を考えていたが、その間にも世界中の建設業者からネーミング依頼の電話が殺到するので、脳味噌が破裂寸前だった。6/25

まったく仕事がないので新企画をでっち上げて某出版社の重役に売り込んだら、幸い興味を持ってもらえた。その夜西麻布のバアで重役の意を受けた坂谷由夏似の編集長に会ったのだが、完全に化けの皮を剝がれてほうほうのていで逃げ出したわたし。6/27

生まれて初めてみたアフリカのセネガル映画があんまりおしゃれでシックで素晴らしかったので、会う人ごとに吹聴していると、ふぁっちょん評論家のフジオカさんという方が、「あらあなたご存じなかったの、セネガルは最近モード界でも注目されているのよ」と仰った。6/28

「今後のあらゆる創作基準はこのメートル法原器に準拠していきます。これは「2001年宇宙の旅」で原始猿が初めて他者を殺害し、宇宙に抛り投げた堅骨片の長さと形状と重量に匹敵します」と私が宣言すると、一同は諾諾諾!とうべなった。6/29

いつまで経っても大学を卒業できない私は、真夜中に突如その原因に思い当たった。毎年の新学期に履修科目を登録していないし、学校に行かないし、授業も試験も受けないから何年経っても卒業なんかできるわけがないのだ。6/30

 

 

 

家族の肖像~親子の対話その40

 

佐々木 眞

 
 

 

インドネシア、飛行機乗っていくの?
そうよ。
インドネシア、インドネシア、ジャカルタ。

花盛りって、なに?
お花がいっぱいのことよ。

9トン、なに?
キュートン、キュートン、なに?
9トン、9トン、9トン、
あ9トンね。トンは重さよ。

蓮は水の中でしょ?
そうだよ。
水は湛えるの?
そうだね。池は水を湛えるよ。

満足って、なに?
良かった、良かった、よ。
余は満足じゃあ。余は満足じゃああ。

お母さん、ぼく、ラーメンマン、好きですお。
戦えラーメンマン! 逃げるなラーメンマン!
(何も言わずに逃げるコウ君)

お母さん、警報って、なに?
これから地震が来るとかの、お知らせよ。

お母さん、無条件って、なに?
条件なしに、よ。

お父さん、さまざまって、なに?
いろいろ、ってことだよ。

お父さん、めったに、って、なに?
千にひとつのことだよ。

お母さん、割引は、安くなることでしょ?
そうねえ。
割引、割引。

お母さん、悔しいって、なに?
「クヤシーイ」ってことよ。コウ君なんか悔しいことあるの?
ありませんよ。

お母さん、交通ルールって、なに?
信号をマモル!
そ、そうですお。

めったにって、なに
ほとんど、よ。

お父さん、特別扱いはダメでしょ?
それはダメだね。

疑っちゃあ困る、でしょ?
そうだね。
疑っちゃあ困る、疑っちゃあ困る。

お互いって、なに?
それぞれの人が、だよ。

知っているとも、よ。

お父さん、たくさん揺れるのは、京浜急行だよね。
そうだね。

お母さん、ほがらかって、なに?
いつもニコニコよ。

お父さん、「運ぶ」の英語は?
キャリーかな。
キャリー、キャリー、キャリー。

エラーは、失敗でしょ?
まあそうだね。

メッセージって、伝えることでしょ?
そうだね。

麻薬って、なに?
まあ、そのお、悪い薬だよ。

お母さん、いっさいって、なに?
全部よ。

あらコウ君、だめじゃない。チョコ全部食べたでしょ?
ごめんなさい。
1日に1個だけにしなさい。
ごめんなさい。

お母さん、ニラは餃子のときでしょ?
そうね。

お母さん、尊敬って、なに?
素晴らしいと思うことよ。

お母さん、ヤマモトヨウコ、印刷してね。
はい、分かりました。ちょっと待ってね。
ヤマモトヨウコ、ヤマモトヨウコ

お母さん、浄水場って、なに?
お水をきれいにするところよ。
浄水場、浄水場、浄水場。

お父さん、森は木が3つでしょう?
そうだね。確かに3つだねえ。

ぼく、プーサンです。
プーサン、こんにちは。

お父さん、静かに、の英語は?
ビー・クワイエトかな。
ぼく、静かにしますよ。
そうだね。

成積って、なに?
やった結果のことよ。

お母さん、魂ってなに?
心です。

ノリユキ君のお父さん、亡くなったの?
そうよ。

 

 

 

「少女」

 

小関千恵

 
 

 

胸より大きな球体を詰まらせて

真夏の商店街をワニのように歩いていった

立ち止まれなくて

まだ無くしてもいないものを先で探そうとする

空事だけをさらけて進んだ

 

赤い手に撫でられなければ死さえ生きられなかった

箱の中の

青草の中の

「少女」という輪郭

即物者たちが慌てふためき抽象は撤去された

 

月が落ちてきたみたいに視界の全てを白く覆った

還る場所に

まだ温度はありますか

この世界で

撫でられた肌が永遠であった証明を

何度でも

何度でも

2つ椅子を置くこと

“I’ll keep it with mine”

父権よ

少女と呼ばれた誰かはあなたではないか

箱の中のものを出せるか

 

いつか

母とふたりきり

月の色をした最初の部屋で

吹き戻る

 

 

 

裏にバーコードが付いているような判断のしかたで

 

駿河昌樹

 
 

簡単には言い切れないことを
もどかしく
ぶつぶつ
時には陰々滅々と
ことばならべしていくのが

だと思ってきたので

きりきり言い切り
あちこちから借りてきたような表わし方や
裏にバーコードが付いているような量産品的な判断のしかたで
髪を突っ立てたIT企業の社長や
半グレのトップみたいな「後悔?無関係だけど?」的な口調で
そこそこ高価なスニーカーみたいに
キッ!
キッ!
と歩くたびブレーキやアクセルを利かせて
八方美人に小利口にしゃべってるのを見ると

ヨシモト
にでも
行ってやったら?
と思う
政府からは100億円貰っているそうだから
潤う
と思うよ
それなりにさ
と思う

(もっとも
(いま起こっているのは
(旧来の日本型裏社会の掃討
(ヤクザなんかより遙かに情け無用の国際金融資本が
(この列島をいよいよ直接統治するために
(これまでノシてきた幇間屋を潰しにかかっているところ
(政治の世界も同じで
(新たな真の民主主義の可能性が見えてきた……
(なんて夢を見ていると
(いつのまにか安手の軍靴を履かされるようになるよ
(きっと

(おっと、
(これ以上は言えない
(言わない
(シュールレアリスム詩の形体や
(キリスト教系神秘主義詩の形体や
(イスラム神秘主義詩の形体でも
(ひさしぶりに蔵から出してこないことにゃ……

 

 

 

壁 181028, 181101.

 

広瀬 勉

 
 


49:181028 東京・杉並 成田東

 


50:181028 東京・杉並 成田東

 


51:181028 東京・杉並 成田東

 


52:181028 東京・杉並 松庵

 


53:181101 東京・中野 大和町

 


54:181101 東京・中野 大和町

 


55:181101 東京・中野 大和町

 


56:181101 東京・杉並 高円寺南