cup カップ

今朝も
写真をみた

阿佐ヶ谷の
ブロック塀が写っていた

無意味だと言った
模写の対象だと言った

紙幣だと言った

ブロック塀を
抜けて

朝に
帰れば

テーブルには
昨日のコーヒーカップがあった

意味に満ち溢れた電車で
帰ってきた

満ち溢れていた

 

 

 

ぬっと、安心

辻 和人

 

 

明るいオフィスの宙空で揺れている
四角くて黒いものは何?

今、関連会社に出向しているんだけど
オフィスが100階建ての高層ビルの中にある
築30年の本社のオンボロビルとは大違い
ICカードで幾つものロックを解除しながら出勤し
監視カメラに睨まれながら仕事をする
最初はビビッた
だらけたトコ見せたら大変なことになる、なんて
けど、じきに慣れた
ま、考えてみたら当たり前だよね
雑談やら間食やらの従業員のちょっとしたサボリに
カメラの向こうの管理室がいちいち目くじら立ててたらキリないじゃん

箱が傾く
……こくっ、くぅら

ぼくも、一緒に出向にきている3人の同僚たちも
同時多発的にそのことを理解した
すると何が起こるか?

傾くジョ
……こくっ、こくっ、くぅら、くぅら

昼食を終えて一時間程たった頃
監視カメラさんはぬっと首を伸ばしているだけ
いつも通りの穏やかな表情だ
加えて
本社にはいた、うるさい上司がここにはいない
それじゃ失礼して

やったー、揺れ揺れッ子だ
……こくっ、こくっ、こくっ

まず吉田と佐藤が頭を揺らし始める
それに気づいた高橋がつられて大あくびしたかと思うと
「俺も混ぜてくれ」 目を閉じ
同調し始めた
ミーティングの時は意見が合わないのに
目をつむると結束が固くなるんだからなあ

……こくっ、こくっ、くぅら、くぅら
……こくっ、くぅら、こくっ、くぅら
……くぅら、くぅら、こくっ、くぅら

おでこの先に生まれた
暗闇の入った小さな四角い箱
吉田も佐藤も高橋も
規則正しく
互い違いに揺らす
時々、空中で箱同士がぶつかって
にゅっと凹んじゃったりして
でも、平気平気
ちょっと薄目開ける間に
箱はぽぽっと元に戻ってる

これも
ぬっと首を伸ばしたお地蔵さまの
不思議なお力のおかげ

ぼくたち出向社員は
睨まれていたんじゃなかった
見守られていたんだ

さて、ぼくも5分だけ仲間に加わりますか
目をつむって体の力を抜くと
閉じたまぶたの向こうにうす黒い直方体が
ぽぽっと出現したのがわかる
ありがたい、ありがたい
それでは

……こくっ、くぅら、こくっ、こくっ、くぅら、こくっ