夢は第2の人生である 第7回

 

佐々木 眞

 

西暦2103年文月蝶人酔生夢死幾百夜

 

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ある村に住んでいたフランス人が、さる老人の死に際して不適切な発言をしたというので難詰され、酷い村八分に遭っていた。村人は彼の謝罪と訂正を我慢強く待っていたが、彼はけっしてその発言を取り消そうとはしなかった。7/1

2種類の文書がある。文書その1を読んでいると、それはいつのまにか文書その2の内容とダブってくる。文書その2からはじめても、まったく同じようになる。しかし2つの文書の内容は、明らかに異なっているのだった。7/2

台所と風呂場の改装をしよう、ということになって2つの工務店に見積もりを出させようとしたのだが、2店ともそんなことはやったことがないという。発注を受けたらただちに作業にかかって、終われば請求書を出すと言うのであきれ果てた。7/3

突然姿を現したのは、旧友のオオブチユウタだった。彼はその隣にいるヤグチキヨコという女を紹介した。その名前に聞き覚えはなかったが、しばらくその顔を見詰めているうちに私の昔の想い人だったことに気付いたが、彼女は私のことをすっかり忘れているようだ。7/4

世界王族会議で某国の某皇太子が、「今日からは同じ礼服でパーティに出ることにする。その都度新規に購入していた礼服は、わが国の零細非常勤講師諸君を支援するために寄付する」と力強く宣言してくれたので、私は枕に涙を流した。

朝眼をさますと、私は1冊の小説も書いていないのに芥川賞を受賞していた。周囲の人がいままでとは違う尊敬のまなこで見詰めてくるので、私もそれが気になって不自然な態度しかとれない。それより早く次回作という名の本当の処女作を書かなければ、と私は焦った。7/6

「待て待て、いまスイッチをひねっては危ないよ」と2回警告したにも関わらず、彼女がうっかりやってしまったために、町で評判の3人娘とその美貌の母親は、ガス爆発の哀れな犠牲になってしまったのだった。7/7

母親とちょっとしたいさかいを起こしたのが引き金になって、私はあろうことか家族全員を殺害してしまった。それから素知らぬ顔をして職場に着き、いつもどおりにビデオの編集作業をやっているのだった。13/7/9

戦争の真っ最中なのに、弾丸が飛び交う都会のど真ん中の田んぼに苗を植えているわたし。このままではヤバイのではないかとうろたえているのに、わが相棒は平然として植え直しに熱中しているのだった。7/10

総務部のA君と打ち合わせを終え、私たちは永代橋の支店に向かったのだが、若くて壮健なA君の脚は早く、あっと言う間に姿が見えなくなった。懸命に跡を追っていると道はいつか巨大なダムになり、私がぬるぬるした壁にしがみつきながら下を見ると、A君の小さな後ろ姿が見えた。

私には樋口一葉に似た美貌で盲目の代書人がつねに張り付いていて、私が例えば「薔薇は薔薇薔薇である」とか「林檎は勇気凛々」とか「憂鬱の欝!」とか口走ると、素早く矢立てをとって短冊に墨書してくれるのである。

座席指定の寝台列車に誰かが寝ているので、「ここは私の席だよ」と注意したが、タヌキ寝入りをしてとぼけているので、私はそやつのそっ首を両手でつかんで座席の外に放り出したら、あっけなく死んでしまった。7/16

「箱根八里」を歌いながら、男たちはツキノワグマを解体していた。7/17

私たちはそのためにではなく、泊まるところがないのでその安ホテルの1室に入ったのだが、どういうわけか途中でそういうことをしてみようという感じになったのであるが、例によって私の精神的肉体的な都合で駄目になってしまって、誠に申し訳ないことだった。7/20

北欧のどこかの国を訪れていると、3人のそれぞれタイプの異なる少女が私に関心を持ったらしく、近づいてきて「寝よう」と誘うので寝ようとするのだが、私は不能の身ゆえに最後まで役割を果たすことができず、彼女たちは不満そうに離れてゆくのだった。7/23

それが愛する弟であると知りながら、私は馬に跨ったまま鋭利な鉄器を頭上に大きく振りかざし、気合いもろとも振り下ろし、後を見届けようともしないで駆け去った。
ああ、いつかはやるだろうと思っていたことを私はやってしまった。終生忘れることのできない心の傷がそのあとに残った。7/24

突如戦争が勃発してしまったので、なんでもその場で即座に右か左かを裁く国際移動即席裁判官は、あちらこちらの前線のみならず、この海水浴場でひっぱりだこだった。

観光とは「光を観る旅」という意味だが、同文社の前田さんが引率するこのたびの旅行団には、私の家族や親戚も加わって、いつか見たどこか懐かしい場所、まだ見たこともない不思議な土地を次々に訪ねていた。7/29