向こうの条

 

萩原健次郎

 

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彼岸までは、すぐ近くに見えるのに
それは、永遠でないことが虚しい。
機雲が、美しい夕空に傷をつけていく。
猫の爪、
女の爪、
それらを想像してしまう貧しい性質。

向こうからは、私は見られている。
私の傷などは、地に溶けて何も描いてはいない。

向こうにいるかもしれない
虚空の果てには、砕けた神の欠片がある。
それは、粒状の、音楽の切れ端にすぎないのかな。
そこから鳴り始めて、何年も前に閉じている。

形象のない、食物のような
それも、ちいさな動物が生き延びるために食する
木の実の中のさらにその中の胚の、
その中の虚空なのだろう。
猫も、女も、私も、
精髄の擦過でもう、欠片でもなくなった
微塵の神様に、祈っている。

煙にすぎないのだろう。
白煙ではない、鈍い航跡は、
混淆の証しだと、うなづいて

白い季節にまで生き延びた
蚊を叩く。