ぼ田ん

 

爽生ハム

 

 

粒よりほしいものを
以前からさがしてる
より幸せな理知とか
鯱とか
豚とか
結末だったり
靄っとしている
生き物のさきっちょ
ぼんやりと暗いとこ
この橙の稲にふれる
道が帯をしめる
単純な生活を
信じてると目がうつろ
みながうつろう
止めれないから止めときな
殺伐とした転置っぽい

結局は水分に感謝するだけかも
水滴を舐めたはずが味がしない
先端がこすれて
暗い振動をおこす

この前まで
ほしかった鳴き声や
手に入れたはずの生成りは新しくなりました
伝達したい文字があったとしても黙れよって国道に怒られます

 

 

 

ふとん、あの家の

 
 

薦田 愛

 

 

予讃線上り列車の進行方向左手は海
海に向かっている
波のかたちはみえないけれど
台風がちなこの季節にも雨は多くない
あかるい空に覗きこまれ
今治から川之江へ
父のねむる一族の墓所へゆく
普通列車の一時間はアナウンスも控えめだから
うとうとしていたら乗り過ごしてしまいそう
どうしよううたた寝には自信がある
乗り越して戻っていたら日が傾く
JR四国はそんな時刻表

バブルなんて時代の少し前
たぶん
母を残してひとり川之江へ
夏休みだったろうか
父と三人暮らした社宅から引っ越した後だったか
電話すると母の口がおもい
どうしたの
はじめてパパが夢に出てきてくれたのだけど
出てきてくれたのよかったじゃない
それがね
うん
日曜の夕方かな野球か何かテレビをみてて
ああそんなだったね
私は台所にいるんだけど呼ばれて振り向いたら
うん台所でね
振り向いたらパパの顔はみえるんだけど
身体の下のほうから薄くなって
みえなくなっていくのよ
え、なに?
だからねいやだっ消えちゃ! って
自分の声で目が覚めちゃった
そう
そうだったのきっと
きっとパパは夢に出てきたのに
私が四国に来ているとわかって
あわててこっちへ来ようとしたのかもしれない
身体はひとつなのに気持ちが
ふたつに裂かれて
うーんそうねぇあんたがそっちにいるからねぇ

恋愛結婚だった仲のいい夫婦だった
二年で三度の入院手術ははじめてのことだった
バスと電車を乗り継ぎ雨の日も雪の日も付き添った
春の明け方さいごのいきにいきをのみ
なみだはこぼれないまま
しずみきったふちからペンを手に
図書館に通いつめ医師に話をきき
ふたりで歩いた町を訪ねなおし二年後
闘病記をまとめた克明に淡々と
あとがきに記した生まれ変わってもと
うまれかわってもわたしはと

しまなみ海道を渡りきった今治では
父方の伯父伯母、従兄が迎えてくれた
画歴約二十年の従兄・登志夫兄ちゃんが
私設ギャラリーで食事を出してくれるというので
あまえた
あまえついでに思いついてメールを
(母は生の魚介と肉が食べられないのです)
やさしい先生だった従兄から
(野菜中心で考えてみますね)
と返信があったので安心していたけれど
虫の鳴きしきる草むらの扉の奥やわらかな灯しのもと
椎茸と生クリームのスープに喜んでいたら
ピザの隅っこにはソーセージ仕方ないよね
急なお願いだったもの
丁寧に淹れてくれたコーヒーに
デザートのケーキまでお手製
おまけにギャラリーを埋め尽くす大小の木版画
今治や内子と愛媛ばかりか飛騨に京都
なかに尾道を見つけた母
行ったばかりだからすぐにわかった
ぜひ譲ってと頼みこみ包んでもらって
うふっと肩先がゆるんだ
小さな作品だからうちにも飾れるね
私はこの桜咲く蔵の一枚がいいな
どこの酒蔵だろう
額入り二枚を抱えて宿へ
明日はしまなみ海道のみえる公園へと誘ってくれるのを
タオル博物館とねだる
みどり深い山せまる博物館は
父の元気なころにはなかったはず
母と二人あまえたみたいに
たぶんもっと
ねえさん、兄貴とあまえていたらしい末っ子の父
その父の退場が早すぎたぶん弟の家族を
心配し続けてくれる伯父と伯母
父の齢をとっくに超えた子としては
もうだいじょうぶですってばとつぶやく思いと
健在ならこんな年ごろ、と仰ぐ思いがないまぜの
糸になる
ああタオルの糸ってきれいだ

父のねむるお墓は一家のものだから
あとでうつせないけどいいねと念をおされた
封を取り除いて骨壷からあける
父を見舞った祖母も加わった
長兄の伯父も
それはどんなねむりなのだろう
ひとりひとりのねむりはまじりあわないのだろうか

あの家、川口の
父と母が六畳間となりの四畳半に私
ふすまを隔てて勉強机と本棚
押し入れにふとんと押し入れ箪笥
だったろうか
勉強机の前でうとうとと居眠り
ちゃんと寝なさいとたしなめられて敷くふとん
寝返りを打つ間もなく寝入る子ども
手のかからない子どもだった
そのねむりのうっすら浅くなる
深夜
終電で帰った父と話し込む母の時間の果てにふたり
ふすまをあける
こたつぶとんを手にして
銘仙のだったろうか着物をつぶした布でつつんだ
おもくおおきないちまい
赤外線の熱をためたいちまいをふたりふわっと
いえずしっと
ねむる私のかけぶとんのうえに
なだれこむ蛍光灯のまぶしさがまぶたをとおす
ねむいねむりのふかみからよびおこされる
けれどめざめてはならないきがして
ねむい子どもは
ときにねがえりをうちながらまぶしさをのがれ
ずしっとあたたかいふとんをまちながら
ふたつめのねむりへしずみこんでいったのだったろう
ふとん、あの家の
こたつぶとん、あの家の