航海

 

白鳥 信也

 

 

青空のなか
へんぽんと大きな船が浮かんでいる
ゆったりと
舳先をたてて 遥か遠くをめざして進んでいく

僕もこの船に乗って旅してみたい
そう思ったら
矢も楯もたまらない
空を行く船を追いかけて
ずっと追いかけて
生きてきた
視界のなかに船がなくとも
手の届かない空を
ゆったりと航行している船がいる
と思うだけで胸がいっぱいになった

空を見上げるたびに
今日はいるだろうかと
心をときめかせ
青空の海のなか
白い雲の波をけたてて
大きな帆をふくらませた船は
どこもかしこも優美な曲線で包まれていて
そのふくらみは僕の心をざわざわさせた

あそこだ
何度指をさしても
父も母も船をみつけることはなかった
願望がつくりあげた蜃気楼だとか
飛蚊症の一種だとか
両親に連れて行かれた医者には言われ
毎朝目薬をたらされた

あんなものはいない
一人また一人と
見えるはずの船の存在を打ち消すたびに
船は心なしかふらふらして見える
哀しいというのはこのことだと思ってから
長い間 船を見つけられず
空を見上げることも少なくなった

やっぱりそんなものはいなかったのだ
きっぱりと心に決めた日
西の空を見上げたら
船がいて
燃えている
炎が噴き出て空を焦がしている
船体の上になびく帆が赤々と燃え上がっている
船は怒っているようにも
哀しみを噴き出しているようにも見えた
そのまま船は夕焼けの空に消えていった

船は今も燃えているのだろうか
風を受けて炎をなびかせ
この世界のどこかで
どんな窓からも空を見上げては
船を探している