小豆のまくら

 

塔島ひろみ

 
 

バリバリと パンを食べる音が解体工事のように響いている
血液検査を終えた人は、結果を待つ間この地下室でパンを食べる
丸テーブルに座って、向き合って食べる
中身のたまごがこぼれないよう、両手でしっかりとパンを押さえる
下を向いて歯の少ない口を思い切り開け、パンを噛む
噛みきることの困難さに、ますます首は下向きになり、うなだれた状態でパンを手に(口に)入れ、噛む間のこの頭をつんざく機銃掃射に恍惚となって目を上げると
向かいでは息子がとうに食べ終わり 静かにスマホをいじっている
その人はこれから、緩和ケア外来に行くのである
息子と老人との間には、何一つ会話がなく、
息子は途中で呼び出しベルを落としたりしたけど、会話はなく、
老人はこれでもか、これでもか、と、ひたすらに、ひたむきに、食べていた
ふすまがはずれ、階段が落ち、山百合と、虫に食われたズボンがぶら下がり、
それを引きちぎり、足で踏みしだき、
枕が出てくる
この枕には穴が開いていて、起きる度に小豆が外にこぼれている
それも今、食べる
息子はスマホの操作を終えて、私が家を壊すのをじっと見ていた

 

(2017年10月30日 ドトール東大病院店内で)