ひとつだけ誇らしいと思うのは

 

駿河昌樹

 
 

ひとつだけ
誇らしいと思うのは
徒党を組んで偉がろうとだけは
けっして
しなかったということ

表面だけ取り繕って
認めてもいない者たちを仲間として募って
おたがいに無理に褒めあい
まるで才能ある集団であるかのように
装おうとなどはしなかったこと

たいして認めてもおらず
おもしろくも思っていない年長者を
仰々しく盛りたてて
次の地位に滑り込ませてもらおうとは
一度もしなかったこと

 

 

 

斎告る

 

駿河昌樹

 
 

祈る、とは
「斎(い)告(の)る」の意

広辞苑にはある

斎、とは
忌み清める、身心を清浄に保ち慎む

告、とは
告げる

祈った、
と自認する人は多いだろうが
斎した
という人は
どのくらい居ただろう

どの程度まで

した
という
のだろう

そして
告(の)った内容は

だっただろう

斎告った人が
たとえば
昨年
あるいは
今年の正月
いた
のだろうか
たったの
ひとり
ほどでも

 

 

 

よるべないたましいのだれかさんとして

 

駿河昌樹

 
 

寒い
寒い

天気予報やニュースが言っているほど寒くは感じなくて
家の中でも
まったく暖房を使わないほどだけれど
手の甲や
指の甲が
いつもより乾いて
ちょっとシワシワしてくるのは
やっぱり
寒い
ということなのだろうか

手や指の甲の
そんなシワシワが
ずいぶん
ひさしぶりで
懐かしい
なつかしい
時間

呼び起こされるようだった
呼びよせられるようだった

特に
小学生の頃の冬
外に遊びに出ると
手は
かじかんで
乾いて
よく
白っぽく
シワシワになった

あの頃
それをどうやって
温めただろう
どうやって
元に戻そうとしただろう

手のひらや手の甲を
いつまでも
スリスリして
摩擦し続けて
温めようとしただろうか
ハアハア
息を吹きかけて
いつもの肌に
戻そうとしただろうか

おおい!
まだ生きてるよ!
まだ生きてるんだぜ!

そんなふうに
ぼくは
あの頃の
白く乾いた手の甲に
指の甲に
遠く
ーいや、けっこう近くかな
呼びかける

あの頃の
白く乾いた手の甲や
指の甲を
持っていた少年に
呼びかける

あの子の
やがて
行きついていく先の
あくまで
あくまで
途中経過の
仮の大人の姿をしたものとして
あの子を
がっかりさせ過ぎないで済むような
わずかばかりの
心の
思いの
それらよりも奥底のなにかの
かがやきを
ちょっとばかりは
守り続けている
まったく
ひとりぼっちの
よるべないたましいの
だれかさん
として