つねなる古物屋の店開き中

 

駿河昌樹

 
 

小説家の井上光晴がむかし
才能のある者が見出されないことなど絶対にない
どんな小編でも必ず見出される
と対談だか合評だかで言っていて
それほど世間の目というのは信頼できるものかと思いもしたが
いつのまにか
井上光晴自身もすっかり書店から消えてしまい
彼といっしょに話題にされることの多かった野間宏や
武田泰淳あたりさえ消えてしまい
村上春樹を賞に選んだ佐多稲子も消え
やはり群像新人賞で村上春樹を推した丸谷才一
エッセイではなんとか命脈を保ったものの
小説がつまらないと蓮実重彦から酷評されていたあの丸谷才一も消え
ひと頃は文庫棚を席捲した丹羽文雄も文芸文庫以外からは消え
個人文庫コレクションが多量に全国に並んでいた遠藤周作も消え
毎年毎年の芥川賞受賞者のほとんどが
その後うまくは続かずに消えていくのを見続け
詩だの短歌だの俳句だのとなると
どれほど新聞文芸欄の知りあい担当者が頑張って記事を書こうとも
もう世間は虚無の大海のように大いなる無反応を示すだけなのを
つらつら長いこと見続けてきてみると
甘かったんだなァと思う
井上光晴は
社会自然主義とでも呼びたいようなあの作風は
中上健次が読まれ得ていた時代はまだ生き延びていても
村上春樹一辺倒の時代に入ると
もう古物屋にさえ置かれなくなってしまう運命となった

ところで余はいつも
井上光晴や野間宏や椎名麟三や梅崎春生あたりに熾烈な興味があるのだから
頭の中はつねなる古物屋の店開き中というわけかもしれない

 

 

 

サン=ジェルマン伯爵でございます、はい。

 

駿河昌樹

 
 

国民とやらを
市民とやらを
庶民とやらを
これからいよいよ
楽しく眺めさせていただこうと思う

自分で採った種子を蒔けない法律もできたことだし
水道は民営化されて8倍も10倍も料金が引き上げられるようだし
労働時間の規定は完全に取り除かれて酷使したい放題になるのだし
老人や身障者や他の社会的弱者の切り捨て政策は進展目覚ましいし
原発事故の県ではガンの発生がウナギ登りでも誤魔化されているし
各地の原子炉の維持や廃炉には天文学的な支出が続いていくのだし
腹汚い既得権益連中が凝集して富を吸う戦前帝國化が進んでいるし

わからないのも
見て見ぬふりも
何もしないのも

国民とやらの
市民とやらの
庶民とやらの
やっぱり自業自得なので

これからいよいよ
楽しく眺めさせていただこうと思う

…と書く
あたしはだれ?
と問いが来るかもしれないから
言っておくけど

サン=ジェルマン伯爵でございます、はい。