「夢は第2の人生である」改め「夢は五臓の疲れである」 第70回

西暦2018年長月蝶人酔生夢死幾百夜

 

佐々木眞

 
 

 

「お客さん、もうこの土地一帯の毒素は、完全に消失してしまってる。中国人どもに買い締められない間に、安値で買っとかないと、一生後悔しますぜ」と、そのブローカーは、口を酸っぱくして説きまくるのだった。9/1

ライバルと比べると、2カ月遅れての出発だったが、我々はそのことを忘れ、ひたすら目の前の目標に向かってひたすら前進したので、半年後には彼らに追いつき、追い越してしまった。9/2

その地域は、2人の王が交互に統治していたのだが、私は、彼らの妻たちの協力を得て、彼らを打倒し、王になった。9/3

私らは夜空の星に輝く銀座鉄道に乗って、アンタレスからアンポンタン星まで快適な旅を楽しんだが、いつのまにか夜が明けて、しののめに朝日が輝いていた。9/4

台風21号の大風で、一睡もできなかった。あるいは、一睡もできなかったという夢を、一晩中みていた。9/5

試写会の案内状を、敬愛するヨドガワ氏とサトウ氏に出し忘れていたことを思い出したので、急いで出すと、二人ともすぐに来てくれた。9/6

「お前を学級委員にしてやるから、是非立候補しろ」と悪友どもがけしかけるので、思い切って立候補したところ、蓋をあけると最下位で、なんとなんと私の1票しか入っていなかった。9/7

「名物決定版はこれだ!」というテーマを編集長から与えられて、これでもう1月以上当地に滞在して、あちこち訪ねたり、あれこれ飲み食いしているのだが、まだその名物には巡り会えないでいる。9/8

「へえ、そうなんでっか」と言いながら、私はその場を警護していた傭兵を、一撃のもとに斬り倒した。9/9

アイルランドの建築家が明治時代に建てた、高層ビルヂングの建築様式が、ロシアフォルマリズムに、なにがしかの影響を与えたか、それとも全然与えなかったか、という問題をめぐって、永代橋のたもとで2人の学生が果てしない議論を続けている。9/10

カンパーとかいう名前のカルテットの第1ヴァイオリンは、相当にわがまま勝手な奴だが、喧嘩となると無暗に強く、これは他のカルテットのメンバーにも共通の特性のようだ。9/12

海辺の砂丘に、陽が落ちてしまった。あと1カット残っているので、どうしようかと動揺していると、ベテランカメラウーマンが、近くのお寺に私らを導き、最後の残光の中で、白く輝く裸身を晒してくれた。9/14

郊外電車の先頭車両は、畳敷きになっていて、松平嬢がお点前をたてていたので、私も一服御馳走になった。9/15

もうすぐ電車が発車してしまうので、駅に向かって急いでいるタクシーの中の私。ふと振り返ると、後ろからオートバイが走ってきた。そこには私が宿に忘れた荷物が積まれているようだが、このオートバイが走っては止まり、止まっては走り出すので、気が気でない。9/16

玉三郎の歌舞伎の一幕見に行って、しばらくするとオシッコしたくなったので、花道に登ってタコツボを開けたら、それはトイレではなく、ツルツル頭の茶坊主どもが出番を待っていたので、頻尿症の私は悶絶してしまった。9/17

幹事のUが、同窓会の貯金を引き出してヴァイオリンを買って、毎日練習しているという噂を聞いたが、本当だろうか?9/18

タカハシ選手が、「大震災には3つの態度があるんだよ、中では3番目の態度が高尚なのよ」と叫ぶので、「そうかもしれんけど、おらっちは2番目の「なんもなかったことにする」で行くんだよお!」とどなったら、黙ってしまった。9/19

私が、イタリア製オートバイ、フンフンネで岐れ道にさしかかると、「ビゴの店」では、創業者のビゴさんを悼む旗を掲げていた。9/20

洞窟の中を歩く彼女は、腕を伸ばして、左右の壁に手を触れていたが、その茶と白のだんだら模様の壁面は、無数の茶と白の小さな蛇が、うず高く積み重なっていることを、私だけが知っていた。9/21

その子はケータイ会社の試験を受け、たった30点で合格したのだが、その会社はソフトバンクだったので、auが受かったと思っていたその子は、今頃になって驚いている。9/22

NHKの次回の大河ドラマの製作を請け負うことになった。とりあえず製作費は膨大だが、1次下請けが2割、丸投げされた2次、3次、4次の下請けがなにもしないでそれぞれ2割のマージンを取った残りの金額は製作実費かつかつで、わが社はどうやっても利益が出そうにない。9/23

アラン・ドロンが引退するというので、激励のために会いに行ったが、彼は私のことなどてんで覚えていないようだったので、よく考えてみると、彼とは一面識もないのだった。9/24

「序曲はいいが、「文学的序曲」の演奏は断じて許さん!」と、その軍人は怒鳴った。9/25

万歳! 私は長年の苦心の甲斐あって、「不要になれば消してしまえる衣料品」の開発に、とうとう成功した。焼却するのではない。特許特製のイレイザー(電動消しゴム)を使えば、まるで手品のように消えてしまうのである。9/26

その一帯は、パピルってた。ああ、東京快感のヘッドギア、走り抜け!シナノヘッズ殲滅す。アヘアヘだあ。デコちゃんヘッズは秀子の額。「11日までに一式揃えないとお客さんに悪いじゃないか。なんとかしろ!」と社長が怒鳴る。9/27

どういう訳かリーマンに戻って、昔の上司に仕えている。「業務が爆発的に順調なんやけど、にわかスタッフが33人も増えて大変だ。来週からNYに飛んでくれ」と頼まれたが、どうにもそんな気にならないので、トイレでお丸のいいやつを探して、その上に座り込んだ。9/28

私が乗った北朝鮮の列車が、無人の野で突然停まった。レールの向こうは河で、河の上は切り立った断崖絶壁。馬上の白髪白衣の翁が命じて、村人たちを次々に崖の上から突き落としている。今度は双子の番だ。2人の少年は、恐怖で眼を大きく見開き、ばるぶる震えながらしっかり抱き合っている。9/29

板橋区から出発した我々は、大草原の高みに立って、地層分析作業に従事していた。それにしても行方不明の板橋君はどうしているんだろう、と案じながら。9/30