恐怖の下痢

 

みわ はるか

 
 

定期的に通っている定食屋さんで、平日の夜わたしは初めて定食以外のものを注文した。
当然何かご飯ものを頼むだろうと思っていたと思われる肌が雪のように白い店員さんは少し驚いていた。
アップルパイとアイスティーを注文したのだ。
甘いものがそんなに得意ではないけれどあのときのアップルパイは世界一美味しく感じた。
食べられる、美味しく食べられる。
ただただ嬉しかった。
そう、1日前までわたしはポカリスエットしか飲めなかったのだ。
1週間下痢に悩まされていたからだ。
頬はこけ、みるみる体重は落ち、布団から起き上がれなかった。
固形物を食すのがこの世の終わりかと思うくらい怖かった。
結論:下痢は辛い。

熱発や関節痛もあったためしばらく職場を休んだ。
ほとんどの時間を布団の上で過ごしたのだが、気分転換に少し外に出てみた。
そうすると、普段だったら知ることのない音や光景ががたくさん見えてきた。
マンションの上の方から布団を布団たたきでたたいて干す音。
ミニチュアダックスフンドをゆっくりゆっくり散歩させる高齢の夫婦。
何が建つか分からないけれど、まっさらな土地の上で何やら物差しで長さを測り続けている人。
畑をきれいに耕して立派なスナップエンドウを育てている人。
近くにある川はわたしの状況なんか関係なく淀みなく流れていたし、窓から見える中学校からは12時を知らせる
鐘が遠慮なく鳴っていた。

夕方になるとぺちゃくちゃおしゃべりを楽しむ中学生の集団が至るところに見られた。
テニスラケットを背負っている子、剣道の竹刀を担いでいる子、習字道具をぶら下げている子。
みんなケラケラ笑いながら流れる川の上の橋を渡っていた。
一日がこうして終わっていくんだなと思った。
客観的に見る機会は少ない。
これはとても不思議な気持ちで貴重な時間だった。

下痢は本当に本当に辛かったけれど、なんだかな、いいこともあったな。
そんな今回は汚い話。