きみはどう思う?

 

駿河昌樹

 
 

さびしさから
味わいが失せていかないように
ほんとうに
努めなければいけない

せつなさが
しぼるように
懐かしく
あり続けなければならない

冷えてきた森を抜けて
うすら暗いみずうみのほとりを
まだまだ
ながくながく行かねばならなかったとき
さびしいとも
こころ細いとも
まとめられなかった気持ちを
きっと
無事に戻ったら伝えたいと思ったひとが
何人かは
いたはずだっただろう?

そんなことが
ぼくらのこころのいのちというもので
そう
やはり
ぼくらあっての
ぼくらのいのちだった
と思うのだ

きみはどう思う?

 

 

 

くり返されるオレンジという出来事 4

 

芦田みゆき

 
 

11月17日

また、ハエが増えはじめる。

あたしは床にしゃがみこんで、オレンジを産んでいる。
つるん、つるんと、つややかな実が、黒いカーペットに産みおとされていく。
ドアをたたく音。
「誰? 近寄らないで!」
産みおとされたオレンジは、全部で六個。
あたしはそれを拾いあげ、よく冷えた水槽に浮かべた。
カチャッ、鍵のあく音。
けれど、誰も入ってはこない。
「あぁ、お腹がすいた」
冷蔵庫をあける。二〇個のオレンジがキチンと並んでいる。
牛乳ビンを取ってきてごくごくと飲んだ。
そして、ゆっくりとベッドに横たわる。

 
乳房が張っている。
わけもなく涙があふれてくる。
ハエの音。
ハエの音。
まぶたを閉じる。