塔島ひろみ

 
 

公園ゴミの集積所に、彼女はバラバラに落ちている
アルミ缶に混じって 誰も彼女に気づかない
廃業した砂屋の、雑草が生えた土砂山の脇にも、落ちている
私はそれを跨いで駅へ急ぐ
途中で転び、立てなくなった彼女が向かうのをやめた駅へ
私は急ぐ
変電所の角で男が細かいものを掃き、集めている
胴体から取れた首だけの彼女は
今日も作り笑顔で笑っていた
眩暈がするのだと
笑いながら彼女は言った

駅前のプランターに花が咲いた
ピンクのペチュニアが満開だ
高齢の女が座り込んで 絵を描いている
ホームを目指す通勤者が一斉に駆けあがる階段を
女は上らず、汚れた路上に座り込んで
花の咲く白いプランターに絵を描いている
(芸術家だろうか?)
期待して数人の人が足を止めた
出来上がったのは百均の茶碗の模様のような ありふれたバラの絵
綺麗に咲き誇るペチュニアの下で、紛いもののバラが安っぽい花びらを開いていた

雨が降った

傘をさして駅へ向う
水たまりを飛び越すと、彼女がいた
ああ今日も、バラバラになって落ちている
崩れかけた土砂の脇で
お地蔵様のようにいつもと変わらない作り笑顔の病的な首が
空を見ている
雨がドブドブと降りかかるのに
瞬きもしないで 空を見ている

急行も止まらない下町のちっぽけな駅の階段口は
傘を持って急ぐ人々で混乱していた
ペチュニアは昨日からの雨にやられて半分しおれ、
その下ではバチバチと打ちつける雨にビクリともせず
茎も持たない首だけのバラが2輪、
空に向かって咲いている
8時12分発の羽田空港行きに間に合わねばならない私たちは
傘をバサバサやりながらその脇をお構いなしに駅に向かって疾駆する
電車が入線し、私は慌てて改札口に定期をかざす

彼女は花だ

落ちているのではなく 咲いているのだ

強く、静かに、咲きながら地蔵のように彼女はそこにあるのだと

押されるように電車に乗り込む私はだから、
気づかない

ドアが閉まった

京成立石駅の白いプランターの前で遮断機が上がる
8時12分発の羽田空港行きはもうずいぶん先へ行ってしまった
花たちはそれを見ていない 空を見ている
そしてすぐ次の電車に急ぐ人の群がやってきた

 
 

(6月26日 京成立石駅南口で)