カラス

 

塔島ひろみ

 
 

暖房が効いた待合ロビーで
1239番のおかあさんは 赤ん坊の私を横に置いて
おとうさんとおしゃべりしていた
おかあさんのお財布をそっと開ける
色取り取りのカード! それを1枚、また1枚、抜き取って、
さわる

おかあさんはめまいがする
おかあさんは女である
おかあさんは11月2日東急ストアでコロッケ1P沢庵ドレッシング(ゆず)たら切身3入紙おむつ他計2109円の買い物をした

うすいカードの中に、おかあさんの生活と人生が、書いてあった
Alb3.9、LS280、ALP338、血圧150/90㎜Hg、目をあけるとつらい
育児ストレス2、
青春:595001、
性格:0、09、44、5
顔形:243

わたしにすべての情報をぬすまれ、
からっぽになったおかあさんが
ラメ入りのお財布のようなおかあさんが
おとうさんとおしゃべりしている
二人はこれからおばあちゃんの家に私を預け、
012598362
って予定でいてそれが55400087につながっていくこと、そして
おかあさんの子1(2)は232、05160-001 で8、****、
空色の、象さん模様のカードをさわって、私は私の人間性と未来まで知った

となりで中年のおばさんが居眠りしている
おばさんのショルダーバッグはカラスのように真っ黒で、さわると鳴いた
チャックを開けて、おかあさんのカードをその中に突っ込む
クリーム色のカード、光っているカード、ひんやりしてるカード、安っぽいや
つ、象さんカードも、全部突っ込んでチャックを閉めると、カラスがまた鳴いて

ガーガーガー、ガーガーガー、GAAAA――――

1階フロアはエアコンの音にじんわりと満たされ、とても暖かい

1239番が電光掲示板に表示され
目を覚ましたとなりのおばさんが、支払いに立つ
おばさんはもう席に戻らない

おとうさんとおかあさんがこのあとのことを相談している
もはや1239番でなく、おかあさんの抜け殻にすぎないおかあさんが、
お父さんと話しながら番が来るのを待っている
同じ抜け殻の私を膝に乗せ、
おとうさんが私の頭をさわって 笑っている
わたしも笑う
きっと 本当に楽しくて。

がーがーがー、がーがーがー、がああああああ

 
 

(2017.11.14 東京大学附属病院外来棟ロビーで)

 

 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です