キッチンのオバケ

 

辻 和人

 
 

出た、出た
微かに首を垂れて垂直にすっと
薄暗い中
丸い小さな3つの光源にぼおっと照らされて
出た
早朝
トイレに行こうと階段を降りると
キッチンに佇む影
ミヤミヤに似た背丈
目玉焼きの乗った丸い皿を左手で支え
右手にトースト
傍にミルクの入ったカップ
口をもぐもぐ動かしながら
細い首がゆっくり回る
髪がばさっと揺れた
目玉焼きの目玉に捕まるぞ
「あら、起きちゃったの? あたし、今日いつもより早く出勤するから。
時間ないんで食器の片づけと戸締りよろしくね」
おおっ、ぼくがいない時は立って済ませるんだ
ぼくがいるからテーブルを明るくして食べながら話したり笑ったりするんだ
いつものミヤミヤなんだ
でもっていない時は
3つの光源にぼおっと照らされた
キッチンのオバケになるんだ
垂直にすっと
出た、出た

 

 

 

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