くり返されるオレンジという出来事 1

 

芦田みゆき

 
 

一匹の犬だ。

その日、ホームセンターの駐車場で、犬はじっとこちらをにらみつけている。
街灯にしっかりと繋がれているが、今にもこっちへ駆けだしてきそうだ。よく
見ると、何やら口に銜えている。遠くからだと人形の頭のようにも見えたもの
で、ちょっとぎょっとして近寄ってみた。

口に銜えていたのは、一個のオレンジだ。歯が深くまで刺さり、果汁がだらし
なくしたたっている。食べているという感じでもなく、犬は、ただ、オレンジ
を銜えたまま、じっと遠くを視ている。

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