水のひと

 

長田典子

 
 

ひとびとが並んで登って行く
坂道
いまにも雨が降り出しそうな
暗い 霞んだ
崖の淵を
かみだれ ひらひら かぜに舞い
水色の装束のひとびと
そろそろ 進む
靄に浮かぶ四角い木の箱
ぐらぐらゆれて
そらに向かう船のよう
あかい火 あおい火 きいろい火
ゆらゆら灯し

けんろくさんだ
ひいじいさんだよ
おむかえがきたんだよ

船は靄のなかをそろそろ進み
進み
いまごろ
とがり山の8合目
夜中に目が覚め
ふとんの中で
思いだす
けんろくじいさんは四角い船で
おそらにおでかけ
あかい火 あおい火 きいろい火
ゆらゆら灯し

かみだれ ひらひら かぜに舞う
なんにちなんねんいくせいそう
めぐりめぐりて

あかい火 あおい火 きいろい火
ゆらゆらゆれて
ひとり ふたり さんにん と
ひとびとは 崖を上に上に登って行った
それぞれの火を残したままに
ばらばらに
おむかえもなく 船もなく
そらではなく
電気の町へ

村は水底(みなぞこ)にしずみました

かみだれ ひらひら
なんにちなんねんいくせいそう
めぐりめぐりて

あかい火 あおい火 きいろい火
靄でかすんだ水底で
灯っている
水中火(すいちゅうか)
泳いでいる

けんろくじいさんは
水底にもどっているそうです

電気の町で
溺れたひともいるそうです

 

※連作「不津倉(ふづくら)シリーズ」より

 

 

 

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