空中に浮かぶ傘

 

神坏弥生

 
 

家を出ると外は雨だった
僕は傘を差し歩いた
駅へ行き
発車間際の列車に乗り
座席はいっぱいで
つかまって、立っていた
しばらくして車窓を見ると
雨が上がっていた
「見て!虹よ!」
車窓の向こうに大きく東から西へと
路線に向かって虹がかかっている
列車を下りると
また雨が、降りだしている
傘を差し、街へと向かう
UMBRELLA
とドイツ語訛りの男の声が聞こえた時
一斉に虹の向こうへ、街中の傘という傘が全部、飛ばされたことに気が付いた
気付けば街中を
行合い
向き合い
行き交う人々の
全ての色んな色や模様や絵柄の傘が
空中に浮かんでいる
その下で、人々がパイプをふかしたり、お茶を飲んだり、ダンスを踊ったりしてくつろいでいるのだ
雨のない夏を思わせる
たくさんの傘が、雨を遮断し滴ですら落とさず支えているのだ
雨音だけがしばらく聞こえていた
雨が上がってゆくとすべての傘は、空高く吹き上がっていった
街にあふれていた人々はもう誰もいない
僕だけが街の中に居る
空から僕の傘が降って来た
あおむけに開いたまま転がっていた
雨上がりの空
もう虹は見えない
夕日のない曇り空が暗くなってゆく夕刻
また、予感している
雨が、降ってくるのを

 

 

 

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