サファイヤ‬

 

工藤冬里

 
 

昔はここしかなかった‬
箪笥には何もなかった
分業を見せられ
なりたいものになると言われ
薔薇園には行かず
不妊の女は歓声を上げる

昔はここしかなかった
ここからものを取り出していた
立ち往生できるだけ 幸せだった
何度でも名を忘れ
なりたいものになると言われ
びよびよ鰹には行けず
‪見たことを話し‬
聞いたことを行う

昔はここしかなかった
隘路を歩いた
アッバー
隘路を歩いた
片目でも 髪の毛がなくても
似顔を描いた
なりたいものになると言われ
サファイヤを土台として置く

箪笥を開けると
新聞紙が敷き詰められていた
二つの道しかなかった 見渡すかぎり

 

 

 

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