隘路を歩いた *

 

祖母がいた

三毛猫が
いた

昔はここしかなかった

三毛猫はなんどか
お母さんになった

畳にだまって座ってた

手が白く
手をそろえて

座ってた

目を瞑った

垣根があり
祖母の

育てた野ばらの
白い花が

咲いていた

祖母は

窓にもたれて
だまって白い花をみてた

なにも言わなかった
なにも言わなかった

一昨日かな
駒場で

Yiwu Liao廖亦武の”大虐殺”という詩を聴いた

叫びだった
挽歌だった

失ったものがあまりにも大きい
失ったものがあまりにも大きい

廖亦武のことばはあまりにも大きい
無数の沈黙に支えられている

雪のたくさん降るのをみた
簫の音を聴いた

それでも
ひとは生きてしまう

なにも言わなかった
なにも言わなかった

祖母は
だまって

いまも
見ている

隘路を歩いた
隘路を歩いてきた

残ったひとは隘路を歩いてきた

 

* 工藤冬里 詩「サファイヤ‬」より引用

 

 

 

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