愛と平和

 

今井義行

 
 

冷蔵庫のなかにあるもの全部
食べてしまった後で
泣いてる

愛と平和 が ほしい ──

「愛」

「平和」

べつべつに
ならべて それからよせて。

飢えている私は
とおい あなたと暮らしはじめようというのだ

約束の時間に
ビデオ画面で 通話 ──

「何してるの、ユキ?」
アルジェリーが 語りかけてくる
白いキッチンに
真っ黄色のTシャツ
褐色の肌に よく合う配色だ

「テイクアレスト、オンザベッド」
「テイクケア、ユキ」

「ぼくのからだをあまり見ないで、、、、
食べすぎて とても 肥ってしまったんだ、、、、」

私は 大きな西瓜が1個入ったような自分のお腹を反射的にかくした
なぜ そんなに 食べすぎるのか
物理的な距離だとか時差だとかを
埋め尽くすように 食べるのか?

ビデオ通話では わかり合いづらいものがある ──

「I miss you、、、、、、」

私は 沈黙する

「恥じる必要なんてないよ、ユキ
あなたが肥ろうが 痩せようが
禿げようが 足が1本なかろうが あなたは、あなただ」

「ありがとう、アルジェリー」

「2019年の12月23日から
2020年の2月2日まで 40日間私たちはフィリピンで過ごします
私は とても エキサイトしています」

「そして1月26日 日曜日は結婚式だ」

「その間に 私たちはボルケイビーチヘ行く
娘たちも いっしょにね」

そんなに長い期間 一緒に過ごすのは 初めてのことだった

「I miss you、、、、、、」

「I miss you too、、、、、、」

ビデオ画面での 通話は 20分くらいで終わる ──
時差が 6時間あるので
アルジェリーは 昼食後 ふたたび仕事に戻るのだ

「ヴェリィヴェリィヴェリィ、ホットヒア」

「I miss you in bed、、、、、、」
「I miss you in bed、、、、、、」

、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、

訪問看護ステーションの末吉さんが 訪ねてきた日
血圧測定 検温をしているとき
私は「じつは 来年 結婚するんです 」と言った
「こころの支えがあるのは良いことだよ、、、、、、」と末吉さんは言った
「お金 あとどれくらいあるの?」
「、、、、、、、、、、」
「生活保護を受けるとして
夫婦共倒れに ならないために
入籍してから 生保申請するのが良い 奥さんも受給できるから」

「愛」

「平和」

べつべつに ならべて
それから
よせて

冷蔵庫のなかにあるもの全部
食べてしまった後で
泣いてる

愛と平和 が ほしい ──

「彼女は 工場で働きたいと 言ってます」
「すぐには 見つからないだろうねえ」
「日本語は 堪能なの?」
「いいえ、、、、、、、」

「すぐには 見つからないだろうねえ」

約束の時間に
ビデオ画面で 通話 ──

愛は ふかい
平和は ひろい

「ぼくの日本の友人たちが心配してくれている、、、、、、、」
「何を、、、、、、?」
「生活について、、、、、、、」
「ノウプロブレム
ネガティブな思考は しないこと
メモリアルデイに むけて
ちからを あわせるの」

「I miss you in bed、、、、、、」
「I miss you in bed、、、、、、」

アルジェリーは 仕事からあがって
シャワーを浴びている

水しぶきが こちらに撥ねてくる勢いだ
42歳の
フィリピーナの

まるい 乳房が 揺れている

愛と平和 が ほしい ──

「愛」

「平和」

べつべつに
ならべて それからよせて。

飢えている私は
これから

これから
とおい あなたと暮らしはじめようというのだ

 

 

 

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