下町、霜月の

 

薦田 愛

 

 

二の酉、通りは人ひと人の
しらない顔かたちにあふれている
下町、くるわ、のおかれていた近く
こんじきの文字を掲げたお社はあり
隙間なくならぶ提灯しらしらと照らす境内へ
うねうね長い行列のひとりとなって進む
久しく
詣ることのなかった神さまのもとへ
しらない顔かたちの
人ひと人のあとにつづく

列をなして対面、神さまと
列をなして対面、神さまと
神さまと対面するいっしゅん目指して
列をなす
しらない顔かたちどうし

すごいねぇ、とまばたきする
しっている顔かたち
旧い友と、友の友
すごいって?
しらず張り上げる声かき消える
路地の闇
すれちがう人の肩におどる
通称かっこめ、つまり
鶴亀松竹梅大判小判俵七福神干支のひつじ
そして福相のおみなすなわち
おかめを飾った
熊手
揺れて
通りを渡る
神輿のように

旧い熊手はこちらへ
ゆるみのない誘導
境内は狭いですから押さないで押さないで
神さまは公平ですから
列をなし
対面まであと少し
お賽銭の遠投をこころみる
初老短髪腕に覚えありと書いてある顔
ちいさくうなる放物線の
くりかえし刻まれるいちにち

列をなして対面、神さまと
列をなして対面、神さまと
おもいおもいの個別を証しだてる術はなく
おもいおもいの重さ大きさをはかる野暮もなく

いっしゅんののち
ぐにゃっとほどけて
ちりぢりの人ひと人
しらない顔かたちも友の顔も
おもいおもいにあおぐ見あげる
とりどりあまたの
かっこめ
大鷲の爪のつよさにあやかって
つかまえよ財宝、つかまえよ福を、と
つぶやいてみる

ああ、手拍子だ

 

 

 

下町、霜月の」への2件のフィードバック

  1. 志郎康さん、コメントをくださり、ありがとうございます。

    旧い友とその友達を神さまの前に案内するのがやっとでした。神さまの前でつぶやくのは、いつも(ありがとうございます)です。時々、自分のためというより、友人やもっと広い意味合いで(お護りください)と願います。

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