渡辺 洋
あきらめるちからがない
ほろびていくちからがたりない
アバンギャルドの空をのぼりつめて
きみのこころの地面にふれたい
神様のようにあぐらをかいて
言葉で解決しようとしてきたことを
ぬぎすてたい
生きることに襟をつかまれて
いたわる手にささえられながら
あの人たちの目がまぶしさにつぶれてしまう
歌をこの世界に書きつけていこう
◯
冷戦日和の坂道を
しあわせな少年がのぼってくる
しばった本をぶらさげて
古本屋を回って喫茶店まで
暑さにあえぐパヴェーゼの葡萄畑
兵士が乾き求める岩塩の苦さ
あたらしい音楽や映画の話の向こうに
自分を燃やす生活がほしい
イタリアか自衛隊か
チカチカするような光の中に、悲しさも喜ばしさもすぐ色を変えるような水滴のように散らばっていて、結局は美しく思いました。
前半ではどの行からも生きたい、書きたいという気持ちが伝わってきてヒリヒリします。
後半の「冷戦日和の坂道」をのぼってくる「しあわせな少年」というのは、そこからやり直しているというイメージなのか。「暑さにあえぐ…」の連がとても美しいと思います。
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