歩く女 a woman walkin’

 

正山千夏

 
 

歩く歩く
歩いてないと狂ってしまうよこの街は
骨が地面に刺さる
その振動を心臓に刻み
腐るなにかを内包するあたしは

歩く歩く
トーキョーの街は流れる川のよう
うごめく街は人を飲み込む清濁あわせ呑む
引力にひかれる皮膚を
コートのように着込んだ女

歩く歩く
重力とあたしは恋におちる
足で地球の頬にキスをするんだ
骨が地面に刺さる
その振動をDNAに刻み
複製されゆく遺伝子のなれの果て

歩く歩く
内側と外側にひろがるジャングルを歩く
探し物はなんですか
まだ目がらんらんと輝いてる
それはちょうど暗闇の中
今生まれようとするたましいの
放つ光にそっくりだ

 

 

 

眠り休む秋の先に

 

ヒヨコブタ

 
 

今年の秋の銀杏は
まぶしくさみしくて目をそらした
息苦しさを感じる理由
悲しみの理由それぞれつかみ過ごしながら
どうしたものかと

もっと若かったときの話をするとき
思い出のなかの喜びを話しながら
性急な絶望を思い出す
あれほどのことは今はない
時間に限りがあるとよくよく感じる日々に
安心できぬままでも休むことを選ぶ

ああクリスマスだねと
心踊らないのは悲しいほうの思い出と現実か
それでも
わたしのこころの方向は
楽しみにしたいと
それを選びたいと願っているんだ
みもふたもないことばより
温もりを思い描けたならと
いつまでもすべてが続かないと知っている
善いことも悪いことも
それだけが眩しすぎぬ色づきなのか

 

 

 

ケモノの道理

 

辻 和人

 
 

憎悪の顔だ
憎悪の声だ

シャーッ

吹っ飛ぶ
吹っ飛ぶ
熱いぞ

シャーッ

レドが3日間の検査入院から帰ってくるのでお迎えに行く
キャリーからそろーりそろーり這い出たレド
ピョタッ、ピョコタ、歩き出す
冷蔵庫の上で半身を起こしたファミ
するするっと降りてきた
再会の挨拶でもするかと思ったら
シャーッ
おおっ、何て怖い顔だ
憎悪
憎悪
おっきく開いた口から牙剥き出し
逆八の字の目は刺さってくる程鋭い

吹っ飛ぶ
吹っ飛ぶ
熱いぞ

あーあー
たった3日離れてただけなのに

目をシパシパさせたレド
そろーりそろーり後ずさりしながら方向転換
日陰の椅子の上にちょこん
頭を伏せ丸まった
かっと睨みつけたファミ
しかしそれ以上追いかけることはしない
タタタッと冷蔵庫の上に昇る
お昼寝の続きだ
ふぅー
ひとまず平和は戻ったよ

実はさ
レドが初めてこの家に来た時もファミは威嚇したんだよ
こんなもんじゃなかった
ファミは執拗にレドを追いかけ回した
どこまでもどこまでも
それ、壺の後ろ
シャーッ
それ、掛け軸の裏
シャーッ
それ、ピアノの上
ヒゲが針金みたいに伸びきって
真っ白な牙と真っ赤な舌が開ききって
鋭い爪が尖りきって
シャーッ
憎悪の顔
憎悪の顔
怯え切ったレド
さささっ
さささっ
背中をつぼめ、だけど手足をしならせて
次の逃げ場所
またその次の逃げ場所
それでもファミは決して許さない
とうとう玄関の床の狭ぁーい隙間に籠城してしまったよ
対面大失敗
仲良くさせるのをあきらめて
ファミを居間に移し
夜中になってようやく出てきたレドを2階の小部屋に住まわせて
2カ月かけて馴れさせたんだ
ふぅー

元々ファミとレドは兄弟
祐天寺のアパートでかまってた頃は毎日一緒に遊んでた
でもレドがこの家にやって来たのはファミの半年後
この家はすっかりファミのものになってて
毎日隅から隅までパトロール
でもって
レドのことはすっかり忘れ果てて
見知らぬ白い奴が縄張りに侵入してきたって
思ったんだろうね
2カ月の間にレドはファミの耳の後ろを舐め舐めして
ご機嫌を取ることを覚えた
まあ、居させてやってもいいか
但し私の方が上
先に来たんだから
時々、擦れ違いざまに鼻づらを猫パンチされても
レドは悲しそうに縮こまるだけで抵抗しない
かくして
ファミとレドは並んで日向ぼっこするほどにもなった
なのに、たった3日

憎悪の顔だ
憎悪の声だ

シャーッ

吹っ飛ぶ
吹っ飛ぶ
熱いぞ

シャーッ

ああ、ファミ
お前はやっぱりケモノなんだね
チクショウなんだね
怪我した仲間が帰ってきたっていうのに
自分の方が上、自分の方が先に来た、この家は自分のもの
侵入してきた奴は
シャーッ
憎悪の顔だ
憎悪の声だ
服従させなきゃ気が済まない
同情なんてどうでもいい
心配なんてどうでもいい
熱く、熱く
吹っ飛ばしてやる

それでも今日のレドは
怖そうな表情こそするけれど
かつてのように隙間に籠ったりはしない
椅子の上で次第にリラックス
毛づくろいしてノビをして
後足に頭を乗っけてうつらうつら
やっぱり家はいいねえ
病院とは違うねえ
知ってる椅子っていいねえ
飼い主さんがいるっていいねえ
ファミちゃんだって、気が立ってるけど
まあ、いいねえ、いいねえ
ファミも昔みたいに追い回すってことまではしない
自分の方がエラいんだっわかってくれたみたいだし
許してやるか
冷蔵庫の上で、時々細目を開けては
椅子の上のレドを見やって
また目をつむる

たった3日間
されど3日間

2匹の権力関係を確認するのに役立った
ファミは許した
レドは受け入れた
憎悪の顔、憎悪の声は
だんだん遠くなっていく
さあて、もうお昼だしそろそろご飯の準備でもするか
猫缶は2匹平等に盛ってやろう
まだ仲良くってところまでいかないかもしれないけど
とりあえず並んで食欲を満たそうよ
とりあえず互いの匂いを嗅ぎ合おうよ
ケモノって、チクショウって
難しいねえ

 

 

 

Autumn 2018

 

狩野雅之

 
 


Autumn 2018  01
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FUJIFILM X-E3, FUJINON XF18-55mm F2.8-4 R LM OIS

 


Autumn 2018  02
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FUJIFILM X-E3, FUJINON XF18-55mm F2.8-4 R LM OIS

 


Autumn 2018  03
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FUJIFILM X-E3, FUJINON XF18-55mm F2.8-4 R LM OIS

 


Autumn 2018  04
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FUJIFILM X-E3, FUJINON XF18-55mm F2.8-4 R LM OIS

 


Autumn 2018  05
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FUJIFILM X-E3, FUJINON XF18-55mm F2.8-4 R LM OIS

 


Autumn 2018  06
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FUJIFILM X-E3, FUJINON XF18-55mm F2.8-4 R LM OIS

 

 

 

WE NEED THE GUITAR

 

神坏弥生

 
 

風が吹いている
鳥が鳴いている
右の掌を空に上げたなら
人差し指を立てて
指のアンテナで音波を掴む
僕たちが話しやすくするために
僕たちは、メロディを要する
我々に、ギターが必要だ
我々に、ギターが必要だ
我々が、ギターを弾いて
謳うように、話し
話すように謳い
時に黙るために、風が渡ってゆく
大地に、根を生やした樹々が
風によって枝を揺らし
木の葉たちの、しばしのざわめき
我々にギターが必要だ
我々にギターが必要だ
我々に音楽が必要だ
我々に音楽が必要だ
(願わくば、どうか我々に)LILICPOESYの星を

我々に歌が必要だ
まだまだ、まだまだギターが必要だ
まだまだ、まだまだ歌が必要だ
言葉をかき鳴らし、言葉をはじいて
大地を打ちつけるつもりでドラムを打ちながら
歩いてゆこう

言葉を空に放つつもりで、
空に映る初めの星の声を聴こうと
夜、夜空に、耳を傾けながら

Liycby yayoi kamituki

 

 

 

閃光

 

神坏弥生

 
 

閃光は外側からやって来る
照りつけた 昼間の日光
切り付けた ナイフの反射のように
暗い私の体の中へ
閃光がひらめき
体内から
どくどくと流れ
体の涙みたく
血液の海
君は死に切れないまま
君が捨てた
君を知る
友人が涙を流し
天がそれを許した時
雨が降るかもしれない
明日、天気になるといい

 

 

 

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